竜虎激突
待ち合わせの場所…駅前の噴水の前、道行く人は僕の方をじろじろ見ながら通り過ぎていく。
それは僕が男だからという理由は大きいだろう。
しかし、それだけでは無い。
「八兵衛?僕は今日ずっとこのマントを付けてないといけないの」
自分の前で腰を落として、臨戦態勢の八兵衛に自分がつけているマントについて尋ねる。
ことは数時間前――
八雲ちゃんとのお出かけ!なんだかんだ家族以外の女の子達とお出かけなんて初めてかもしれない。前までは絶対姉の朝美が無理に着いてきていたからだ。
だから思う、せっかくだしおしゃれしたいな!と
「ねえ八兵衛!これとこの服って合うと思う?」
この前ジェイソンたちと買いに行った時、色々流行りを聞いて選んだのだ。しかし、それが女性目線で素晴らしいのか分からない。選んだTシャツと薄手のジャケットを手渡す。
それらを受け取った八兵衛は手元の服を見つめただ首を横に振るのみ…そしてゆっくりと首を上げる。
「まさか、こんな服を着て行こうとしているのですか?」
「え?やっぱり、センス無いかな…色々みんなに聞いて選んだんだけど」
「そうでは、ありません…」
「じゃ、じゃあ、僕には似合わないとか?そうか…」
店員さんが褒めちぎってごり押ししてくるから思わず買ってしまったけど、あれはリップサービスだったのか…。少し悲しくなる。
「やっぱり、こういう服はモデルみたいな人が着ないと駄目なんだね…」
その言葉を聞いた瞬間、八兵衛は目を瞑り眉間に皺を寄せる。
「やっぱり、夕希様はほんとに分かってないんですね…」
「…えっ?」
「この服絶対に夕希様に似合いますよ、でもね…この胸元開きすぎじゃないですか?しかも裾もひらひらしてて、背伸びの瞬間のへそチラなんかしようものなら世界が滅亡しますよ?」
「は…?いや…似合いそうって言うのは嬉しいんだけど…え?へそチラ?」
「そうです、多くの男性はそういうのを防ぐために基本的には裾が長くシャツインできる衣服を好みます。こういうのは処女が好きそうな服と言われるタイプの服です!だから絶対に!外に着て行ってはいけません!」
へー、そうならそうと教えてくれよジェイソンと心の中で突っ込む。いや、思い出せば…あの僕に勧めるときのニヤニヤ顔はそういう意図があったのか…。くそ、今度なんか奢ってもらおう…。
そんなことは置いといて今は着る服だ。
今度は、できるだけ布面積の多いものを選ぶ。さっきのも僕基準では多かったが今度はもっと多いもの。
「え…じゃあ、こっちはどう?これなら、肌は見えないと思うけど…」
「こんなのもっての外です。これは体のシルエットが出るので、あの八雲とかいうのが夕希様の裸を想像することは必至でしょう」
「え?じゃあこれ!」
「これも無理ですね。これは、布地が破れやすいのでよくAVやエロ漫画でビリビリにされるタイプの服です。この服からギシ…アン…を想像しない女などいないでしょう」
「え、じゃあそれは?」
「無理です」
「こっちも?」
「却下!」
「ええと…それ…」
「不可!!」
…とまあ、こんな感じのことがあり選んだ中で一番マシなものの上に八兵衛が持ってきた謎のマントを羽織ることでやっと許可が下りた。
それでも八兵衛は不安感は拭えない様で臨戦態勢を取っているのだ。
そんな心配性な姉を見ながら、アイスを食べながら澄ちゃんが言葉を漏らす。
「でも、なんだかんだこんなマントの中にあんなエッチな服着てるってそそりますですねェ…」
「ははは…」
「こら!澄!はしたない!!」
「ぴぎゃ!」
失言をする澄ちゃんを八兵衛がチョップで諫める。
初めは八雲ちゃんと二人で行くつもりが大所帯になったものだと感慨にふける。
そうこうしている内に待ち合わせの時間の十分前、向こうの方に白い髪を揺らしながら小走りの八雲ちゃんが見えた。
「夕希くぅうん!ごめんなさーい!!待たせました?」
「ううん、待ち合わせ時間はまだだよ!全然待ってない!大丈夫!」
「~ッッ!!優しい!それじゃあ行きましょうか!」
格別の笑顔を浮かべ僕の顔以外を見ない八雲ちゃん。
僕の右手を取り、道案内を始めようとする。僕の横にいる二人の女の子には全く触れずに…。
「気軽に手を握らないでもらえますか?」
そんな状況を八兵衛が引き裂く。
しかし、白々しく返答する八雲ちゃん。
「あら?あなた八兵衛さんじゃないですか!?お久しぶりです!ダントクで会った時以来じゃないですか!?今日はどうしてここに?」
「ええ、お久しぶりです八雲さん。今日は夕希様の護衛でここに参ってます」
「へぇ…男児支援者も大変なものなんですね?休日に護衛なんて?」
「ええ、大変です。休日には変な虫が寄ってきますからね、特に夕希様は防衛意識が落ちてきているようなので大変です」
「そうですよね…変な虫居ますよね!特に今日は多そうですね、ふふふ…でも、大丈夫ですよ。ここからは私が護衛しますから。大丈夫です。腕に覚えはありますから。八兵衛さんもお疲れでしょう?私に任せてください」
「いえいえ、これが私の仕事なので大丈夫です。心配しなくても大丈夫ですよ」
「あら、そうなんですか?でも、今から行く店二人分の予約しかとってなくて外で待ってもらうことになりますが大丈夫ですか?」
「いえ、二人分の予約を追加していますので心配なさらないでください八雲さん?」
「あら、準備がいいんですね?うふふ…」
「ええ…、……」
「ふふふ」
「……」
二人のやり取りを見ている澄ちゃんは震えているようだった。
何をそんなに怯えているんだろう?僕には普通の会話をしているようにしか見えないが。
△▼△▼
年季の入ってそうな木造りの扉を開けると薄暗い大人の世界があった。
本の中でしか見た事のないバー、壁面には多くの瓶が並んでおり、その前にはグラスをマドラーでかき混ぜてる女性がいた。
僕たちの席はカウンター席が四席。
それを見つけるなり澄ちゃんはとてとてと真っすぐ向かっていき一番左に座った。
僕もそれについていき、その隣座る。
「……席場所争いに巻き込まれたくないです…だから、私が端っこに座って、残りをお姉さま、お兄さま、八雲さんの順に座れば…………って、お兄さま!!なんで私の横に座ってるですか!?」
ただ、澄ちゃんは驚いた顔をしていた。
「え?駄目?」
「だ…駄目ではないですけど…むしろ嬉しいですけど…でも二人が…」
澄ちゃんが後ろを指さす。
振り返ると…八兵衛と八雲ちゃんが何やら話し合っていた。
「ねえ、八雲さん?私としては夕希様の横の方が護衛しやすいと思うんですが、どう思いますか?」
「うーん、私としては護衛するなら敵に近い方が良いと思うので八兵衛さんは一番右が良いと思いますが?」
なんか良く分からない議論でいつまでたっても座らない。だから僕は八雲ちゃんに声をかける。
「なんか良く分からないけど、今日は誘ってくれたの八雲ちゃんだし隣は八雲ちゃんがいいな!」
「~っ!!はい!!八兵衛さん?そういうことで~」
「んぐぐぅ…」
「勝者と敗者が決まったです…」
横に座る八雲ちゃんは満面の笑みで身を寄せて来る。肩と肩が触れるような距離だ。
「注文しましょうか?何が飲みたいですか?」
手元にあったメニューを見る。レッドアイ…フレンチコネクション…ゴッドファーザー…カンパリソーダ…知らない名前がずらりと並んでいる。
「ごめん八雲ちゃん…全然分かんない…おすすめとかある?」
すると、八雲ちゃんがニヤリと嗤った。
「分かりました大丈夫ですよ。ジンバックとソルティードッグ、それにチョコレートの詰め合わせをください」
その他、八兵衛と澄ちゃんのオーダーを取り、バーテンダーさんはすぐに四つのグラスに色とりどりな飲み物を入れて出してくれた。
特に僕の飲み物―ソルティードッグだっけ?―はグラスの淵の塩が模様のようでとても綺麗だ。
「夕希君、それは淵の塩を舐めながら中の飲み物を一緒に飲むんです」
八雲ちゃんに言われた通り、淵を舐めながら飲み下していく。
すると、口の中に塩のしょっぱさとグレープフルーツの苦みが綺麗に混ざって…
「…おいしい!八雲ちゃん、これすごいおいしい!!」
その言葉に八雲ちゃんは二コリ笑い、持ったグラスを僕のグラスにコツンあて飲み始めた。
一息でグラスの半分ほどを飲んでしまう。
「八雲ちゃんの飲んでるのってなに?」
「これはジンバックですよ」
「おいしい?もし、おいしいなら僕もそれ次頼もうかな?」
「ええ、おいしいですよ、良かったら味見してみますか?」
実を言うと飲んでみたかった。だから断る理由もなくグラスを受け取り、ちびちびと飲んでみる。
瞬間、炭酸とライムの味が刺激的に広がった。
「おいしい!!僕これ好きかも!」
「そうですか…夕希君はジンバックが好きなんですか?」
「うん!ジンバック好き!」
「ふふふ…夕希君はバックが好きと…良い録音を手に入れました…」
おいしそうに飲む僕を見て微笑む八雲ちゃん。すごく綺麗に見える。
バーでは出会いが生まれるというがこういうことか…なんか少しわかる気がした。
「夕希君?私も夕希君のソルティードッグ少しもらっていいですか?」
「ん?いいよ!どうぞ!」
「ありがとうございます…それでは」
八雲ちゃんは僕の前のグラスを取りクルクルとグラスを回し口を近づける。10cm、5cm、2cm少しずつ近づく。
しかし、八兵衛がグラスと八雲ちゃんの頭を持ち飲ませないようにする。
「どうしたんですか?八兵衛さん?飲めないんですけど?」
「お前…ついに本性を出しましたね?」
「え?何がですか?」
八兵衛がグラスの淵を指さす。
「そこ…塩付いてませんよ、あなた言いましたよ?ソルティードッグは淵に着いた塩を舐めながら中の飲み物を飲むって」
「…!?…ああ…間違えました…失敗、失敗」
「いえ、失敗なんかじゃないはずです…なんせあなたは、そのためにソルティードッグを注文したのですから…」
「…どういうことですか?」
「簡単なことです…薄暗い店内で夕希様がどこに口を付けたのか分かりにくいから、ソルティードッグを使って濃厚な間接キスしようとしたんでしょう!!」
瞬間八雲ちゃんの笑顔が強張る。
「言いがかりはやめてください!」
「あなたこそ言い訳はやめてください!」
「喧嘩売ってるんですか?」
「いえ、これは喧嘩ではありません!護衛です!変な虫から夕希様を守る!!」
「ああ!?何が変な虫ですか!!あなたこそ変な虫でしょう!!」
「何が!?この淫乱女!やり方が狡いんですよ!!」
「お前こそ運でその地位を手に入れたくせに!!やりますか!!?」
「おおいいですともやりましょうか!?」
「ああん?」
「おおん?」
このあと、めちゃくちゃ出禁になった。




