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八兵衛の決意と意志


 周りのメイド達は全員頭を伏せている中、私は一人立つ。


「ほら、八兵衛…おいで、聞いてほしい事があるみたい」


 暖かく柔らかい最愛の声に導かれるまま、私は黒髪の彼に並び立つ。

 前には歯ぎしりをして、精一杯体を隠す小太りの少年。

 

「……ぐぅぐぐっ…」


 幾ばくかの膠着の後に…


「ぐぐぅ、ぼぼぉくは…今後一切…、天川夕希とご…ごぉ五条八兵衛との接触は致しません…ぼ、僕が悪かったです…す…すみませんでした…あぁぐぅ…」


 胸に絡みつく鎖が解き放たれ、目からは自然と熱いものがこみ上がる。

 

「八兵衛?もう大丈夫だよ、これからは僕が守ってあげるからね」

 

 彼は私の肩を抱いて、優しい言葉をかけてくれる。。鼻腔を通る爽やかな香り、触れる手からは熱さを感じる。

 

 女性に比べれば遥かに力の無い彼が、女性の中でも有数の身体能力の持ち手である私を守ろうというその言葉は傍から見れば全くおかしいものであろう。

 しかし、諦めないでずっと守ってくれた。行動を持ってその意志を証明してくれた。

 

「もう、”信じられない”口が裂けてもそんなこといえませんね…」


 やりたくてもできなかった信じるという行為、しかし今は、信じないという行為がやりたくてもできなくなった。

 この心は無条件に彼に向けて開かれている。

 

 私の…私たちの戦いはやっと終わった。

 

 △▼△▼

 

 帰り道、横を歩き微笑む彼の横顔を眺める。

 

 初めて見た時は、初対面の女性に向けてニコニコと笑う彼を奇妙に思った。よくそんなに笑顔がうまく作れるものだとある意味感心していた。

 

 そんな気持ちに少し波が立ったのは、彼の歓迎会の日だ。彼の優しさに触れて、少し信頼してもいいかと思った。だから私は彼自身を知ろうと彼を部屋に呼んだのだ。

 

 彼は女子寮に入ることをためらいもせず、夜に私の部屋に来てくれた。女子寮はラブホテルと同義。男子寮が安全面のため女性の入館が禁止されているため、女子寮がそういった行為の場所として認識されている。しかし、彼はそんなことを意にも介さず、部屋に来て怖がる私を甘えさせてくれた。

 

 そんな彼をまだ信じることはできなかった。道元の手紙を見て、いつかまた裏切られるじゃないかと怖くなった。どうせ私はこの学校を去るのだと、すべてに壁を作り、何からも逃げて、部屋に閉じこもった。

 

 でも、彼は話しかけ続けてくれた。気をかけ続けてくれた。物言わぬ私に話を聞き続けてくれた。生命線ともいえる彼の秘密を共有してくれた。凍り付いた心を温め続けてくれた。




 最後には私を守ってくれた。

 

 

 

 そんな彼に自然と話したくなる。

 

「ねぇ…夕希様?私、話したいことがあるの…」

「なに?」

「二人っきりの時はこうやって話してもいい?」


 自分の身を守るために、心の壁を作るために使っていた敬語は彼には必要ないだろう。そう思って出た言葉に彼も微笑んでくれる。

 

「もちろん!」


 それともう一つ私の望みを彼に伝える。


「でも、学校とか外では絶対に敬語使うね」

「え?なんで!?」


 先ほどの言葉と相反する言葉に彼は少し不満気だ。

 しかし、これは必要なことなのだ。私が私であるために。

 

「私は一応、夕希様の男児支援者ですから!」


 笑顔で答えると、彼も困ったように微笑み返してくれた。

 良かった彼と出会えて、良かった彼の男児支援者になれて、私は満足だと胸を張って言えるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな気持ちは嘘だ。

 彼に言えないことが一つだけ存在する。もちろん、彼が信じられないそんな事では無い。私は彼に救われて嬉しいし、彼の男児支援者であり続けることに偽りはない。

 

 ただ一つ外で敬語を使う理由だ。そのことについて一つだけ嘘をついた。

 

 本当の理由は…私は彼に支配されたいのだ。彼の男児支援者であると全世界に周知して、自慢して回りたいのだ。彼への恋慕と愛情と親愛と信頼とがぐちゃぐちゃに混ざり合った気持ちがそうさせるのだ。だからこその敬語だ。

 でも、そんな事を言うと無駄に彼に気を遣わせてしまう。彼が最高の男であり続ける限り、私も最高の男児支援者であり続けなければならない。私は命を懸けて彼を守り続け、死ぬまで彼と一緒だ。だからこそ絶対に本当の気持ちは隠さないといけない。

 

 

 死ぬまで彼と一緒…その事実に思わず顔がにやけそうになるが、全力で表情筋に力を込める。私は彼を怖がらせないと決めたのだ。

 だからこそ、この心から自然発生する性欲すらも抑え込むのだ。それが彼との約束。彼のフェロモンが効かないから、彼は私を信頼してすべてを任せてくれたのだ。

 

 もちろん、そんなことは無い。「彼の唇は柔らかそうで舐めたくもなる」し「彼のすらりとした手が私の体を撫でまわす想像」をしてしまう。

 でも、その気持ちを絶対に表には出さない。それが最高の男児支援者の嗜み。

 

 私は彼への歪んだ情愛を隠しながら、彼の期待に死ぬまで答え続ける。それこそが私の人生の使命なのだ。これだけは絶対に命を懸けて完遂する。それが私の決意、それが私の意志なのだ。

 

 だから彼に言う言葉は一つ。

 

 

 

「これからも、末永くよろしくね!」





 一生一緒なんだ。

 彼も一度くらい私の体を使いたくなる時が来るだろう。その時をいつまでも待とう。その時まで…その時まで…。

今日夜もう一本投稿します。

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