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やりたいことやらなければいけない事_3

 ずっと考えてきた…僕にできることは何かないかって?

 女神様には犯されるためにこの世界へと送ると言われたが、本当にそれだけで良いのかは疑問だった。

 じゃあ何ができるか?この世界においては腕力も立場も何もない僕には何もできることは無い。何もせずに襲われない様に隠れていく日々を送ろう…そんな負け犬根性を持つのが精いっぱいだった。

 

「でも、そんな考えは捨てなきゃ駄目だよね…」

 

 震える八兵衛の手を握り、自分に言い聞かせるように小さくつぶやく。

 長い廊下を止まることなく歩いて行く。そしてまっすぐ行きついた先にあるのは西郷道元の部屋。

 

「ここが道元の部屋なんだよね?」

「はい…昔に屋敷の間取りを全部覚えさせられましたので、間違いないはずです…ただ、本当にお会いになられるのですか?」


「うん、八兵衛は辛いだろうけどあと少しの辛抱だから僕を信じて?」

「い…いえ、私は良いのですが…夕希様はこんな所まで来て何をされるつもりなんですか?ごめんなさい…やっぱり、心配になるんです」


 道元の部屋の前で伏し目がちに震える八兵衛。そうか…何も言わずにここまで引っ張ってきたものな…。でも、八兵衛には行動で示す他は無い。いくら言葉で慰めたとて八兵衛の安心が得られることは無い。

 だからこそ一言。

 

「大丈夫だよ、僕はずっと八兵衛の味方だから」


 その言葉と共に大きな扉をノックすると中から声が聞こえてくる。

 

「誰だい?入ってきたまえ!」


 その言葉を聞いた僕は意を決し、ドアノブを回し勢いよく開ける。

 見えた風景は子供の遊び部屋みたいな部屋。そんな部屋に一人、金を基調とした服を着た小太りの少年―西郷道元が座り込んでいた。

 

「こんにちは道元君、少しいいかな」


 座っている道元君に挨拶すると、彼も僕の顔を見て表情を綻ばせる。

 こいつが八兵衛を男性不信に追い込んだ張本人…そう思うとふつふつ怒りが湧いてくるが、そんな怒りは抑え込む。今日はそんな話をしに来たわけではないのだ。

 そんな僕の気持ちはお構いなしに、ニコニコとすり寄ってくる道元君。

 

「おお!!天川君ではないか!?君が来ると知っていれば客間に向かったのに!!全くメイドはほんとに使えないなぁ!悪いねぇ天川君」


「いえ、いいんです…僕が勝手に押し掛けただけですから」


「いやいや、いらっしゃる男性をもてなせないのは家の失態だ、さぁこちらに座ってくれぇ!!」


 しかし、そんな道元君も僕の後ろにいる存在に気付いた瞬間に表情を変える。

 

 

「それはなんだい?天川君?」



 目を細め蔑むような目、怒りと呆れを内包した目だ。

 

「もう一度問おう…答えてくれ…天川君、それはなんだい?」


 道元君は間違いなく八兵衛に目を向けて"それ"と言い放つ。僕に見せる表情とは全く違う。しかし、僕はその目に立ちはだかるように八兵衛を背中に隠す。

 

「五条八兵衛です、道元君の元男児支援者のはずだから知ってるはずだけど」

「そう言うことを聞いているのではない!!それが何かではない!!それがなぜここにいるのか聞いているのだ!!」


 僕の返答に大声を張り上げてくる。

 後ろの八兵衛はこの声に完全に委縮してしまっていた。なんども聞いた怒声…体が恐怖を覚えているのだろう。

 こんなところに長居するのも八兵衛に良くないだろう。さっさと話しをつけて帰ろう。

 言いたいことを頭の中で整理して呼吸を整える。

 

 

「ええ、もちろん用事があったので八兵衛をここに連れてきたんです。だから…単刀直入に言いますね。僕は八兵衛を信じることにしました」


「はぁ?何を言っているんだ君は?」


「僕は八兵衛を信じることに決めたって言いました。だから二度と僕たちに関わらないで欲しいっていうお願いをしに来ました」


 

 こんなはっきりとものを言ったのは前世、今世含めても数える程しかない。だから…相手に舐められないように、八兵衛を安心させるために精一杯背筋を伸ばす。

 そして、そんな僕を見た道元君は爪を噛み始める。

 

「君は真面目にぃ…言っているのかぃ?もしかしたら僕の聞き間違いの可能性もある…もう一度聞いてみよう、君はそれを連れてここへ何しに来た?」


「あれ?聞こえませんでしたか?ここで二度と僕らの前に姿を現さないことを誓えって言ってるんですよ」


 怒気を孕むのは仕方ないが、あくまでも声色は崩さないように…これはお願いなんだ。強気でしかし頭は冷静に話をするんだ。

 

「君は僕の忠告を無視するってそう言いたいのかい?彼女は売女の強姦魔だぞ!!それでもいいって言うのかい!!?」


「ええ、どうでも良い事です」


「いつか君に絶対に牙を剥くぞ!!それでもいいのかい!!?」


「絶対にありえません」


「そ…そうか、なるほど、もしかして君は次の支援者が見つかるか心配なんだろう!!この世はくそ女だらけだからねぇ!!大丈夫さ!この西郷出版次期党首の西郷道元が会社の全勢力を上げて、少しでもマシな女を見つけてあげよう!!それにその他のことも支援しよう!!西郷出版は政界にも顔が効くんだ!!どうだい?悪い話ではないだろう?」



「必要ありません、僕が望むことは一つ、二度と僕たちの前に現れないで欲しいという事だけです」



 取りつく島も持たせない。これは交渉では無い。僕から彼へのお願い。しかし、彼の断るという選択肢が無いというだけの話だ。

 しかし、往生際の悪い彼は僕を押しのけ、後ろに隠れる八兵衛に怒鳴りつけ始める。

 

「おい!!八兵衛!!お前が何か入れ知恵したか!!」


「ひうぅっ!?」


「てっめえはプライドが高く!女のくせに生意気で、到底ダントクにいるべき人間では無い!!君の!!せいで天川君がおかしくなってしまっているではないか!!早く彼に説明したまえ!!”私は卑しい雌である、いや!豚である。ごめんなさい”と早く!!」


「や…やめてください…やめてください…ごめんなさい…ごめんなさい…」


「何をしているんだい!そんな言葉を僕は聞きたいわけではない!!この愚図!!君は強姦魔なのだぞ!!君の家、五条家もそれを認めている!!だからこそ西郷家に示談金を支払ったのさ!!さぁ!君の口から天川君に言うんだ!!解雇してください!!お願いしますと!!さぁ!!」


「ぁ…ぁぁあ…!!…ああ…!」


 西郷道元は怒鳴るような声でまくしたてる。その声を聞いた八兵衛は顔を青ざめさせ、頭を抱えることしかできない。そして八兵衛に向かってもう一度…。


「君はもう一度お仕置きされたいのかい!!早く!!言うんだ!!ダントクを辞めると!!」


 駄目だ…抑えろ。ふつふつと憤怒が湧き上がるのを感じる。


「君は…西郷家を舐めているのかい?君も…君の妹も絶対にこれから日の目は見させない…覚悟しろよぉ!」


 駄目だ…今日はお願いに来たのだ…抑えろ、今日を乗り越えれば…今日を乗り越えさえすれば…!!怒りを抑えてここから言い返す言葉を考えろ。

 

 

 パチンっ!!

 その時、部屋の中に大きな平手打ちの音が響いた。西郷道元が八兵衛を殴ったのだ。

 

 

「この愚図!!もう決定だ!!西郷出版の力すべてを使って君の悪事を公表してやる!!自分で言えないんだから!!当然のことだよなあぁあ!!」

 

 

 駄目だ…もう止まれない

 八兵衛に迫るこいつの姿が本性。

 瞬間、僕の腕は西郷道元の胸倉を掴んでいた。

 

「道元君…おまえ、ピーピーうるさいんだよ、僕らの前に二度と姿を現さないってさっさと誓えって言ってるでしょ」


「は…え?天川君…?君は今何をしているのか自覚しているのかい?この西郷出版次期党首、西郷道元の胸倉を掴んでいるのだぞ!!分かったら早く手をどけたまえ!!」



 そのまま、壁際に向かって胸倉を掴みながら思いっきり押しのける。

 

 

「おまえが八兵衛にした仕打ちは本当は土下座させたいところだけどそれは許してやるって言ってんの。いいからおまえはさっさと誓えよ」


「ぐぅっ!?」


 言葉が止まることは無い。どうしても我慢できなかった。僕から八兵衛を奪い去ろうとしている存在を。現在進行形で八兵衛を脅かしている存在を許してはいけない。

 握る拳に力を入れて、西郷道元の言葉を待つ。

 

 

「…誓え…二度と五条家の人の前に姿を現さないと!!誓え!!さっさと!!」



 その瞬間、よく嗅ぎなれた肉食獣の臭いを感じ取る。僕を狙う女性の臭いだ。しかし、その濃度は今までとは比べ物にならないほどであの八雲ちゃんに匹敵するほどだ。

 ただ…その臭いは一瞬で消え去ってしまった。


 その後、僕の背中に柔らかな温もりを感じた。

 

「夕希様…もう…大丈夫です…もう…それ以上は夕希様自信にも多大な迷惑がかかることになってしまいます」


 八兵衛が僕の背中に体を預け、胸倉を掴む僕の腕に手を這わせる。

 

「もう…私は満足しました…こんなことは必要ないのです。たったこんなことだけでも復讐心って満たされるものなんですね。私はそれを知れただけで充分です。」


「は…八兵衛…でも、こいつまた嫌がらせしてくるかもしれないよ?」


「大丈夫です…夕希様と二人なら乗り越えていける、そう確信しましたから…」


 そう言いながら、八兵衛は西郷道元を掴む僕の手を優しくほどく。

 西郷道元はゲホっゲホっ!という嗚咽と共に床に崩れ去っていく。

 

「夕希様…もう帰りましょう、長い間、私を苦しめていた西郷道元はもう地に伏しているのです…こんな満足なことはありません」


 僕の二の腕を触りながら、目を見て語り掛けてくる八兵衛。

 吐息がかかるような距離だ。

 

「ええ…そうですとも…もう帰りましょう…二人で…二人っきりで…私の居場所…ずっと死ぬまで私のいるべき場所をやっと見つけた」


 先ほど嗅いだ肉食獣の臭いが一瞬だけこの場に流れ出す。

 そして、また瞬間にその臭いはしなくなった。

 そのあと、僕の胸元で八兵衛はブツブツと念仏のように何かを唱えだした。

 

 

「おっと危ない…夕希様に迷惑をかけてはいけない…私は夕希様の過去を知り、夕希様を守る盾なんです…その私が…こんな劣情など…いや、しかし…あ、危ない駄目…我慢しないと…夕希様は私を信頼してくれたんです…ああ…でも、夕希様の吐息で頭がおかしくなりそう…耐えろ…耐えるんだ八兵衛…お前はあの厳しい五条家の教育を耐え抜いたではありませんか…いや…しかし、こんなの耐えられるわけ…ふぬぐぅうううう!!あ…危ない…絶対に雌の性臭なんか出したら駄目だ…耐えろ…ひっひっふぅううー、ひっひっふぅううーー!」



 僕の胸元のしなだれかかる様にして荒い呼吸をする八兵衛…恐らく、西郷家に長いこと居て緊張で疲れが出てしまったのだろう。

 

「八兵衛!?大丈夫」

「ええ…大丈夫です…夕希様…」


 かすれるような吐息交じりの声で何とか返事をする。

 疲れ切った八兵衛…もうこの辺が潮時だろうか?願わくば西郷道元から言質を取りたかったが仕方がない。

 

 そう考えたとき地面に倒れ伏した西郷道元が大声を張り上げる。

 

「てめえらあああ!!そうかい!!そうだったのかい!!天川君ももう八兵衛に懐柔されてたってわけかいぃ!!ああ…そうか、そうだったのか…男だと思って優しくしてやってたのにつけあがりやがってぇええ!もう駄目だ!!てめえら、絶対に生かしては帰さねえからな!!」


 鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げて僕たち二人へものすごい剣幕を向ける。

 

「おい、メイドども!!全面戦争だぃ!!あつまれええええええ!!」


 その言葉と共にメイド隊が僕たち二人をずらりと取り囲んだ。

更新遅れてごめんなさい…今週からペース戻していきます

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― 新着の感想 ―
[一言] 道元、女性に手を上げたな、全面戦争じゃ!!
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