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お姉ちゃんと登校


 登校中であれ、姉である朝美は弟を守らんとばかりに夕希の手をギュッと握って離さない。


 朝美は普段から夕希に対して照れを隠そうとツンツンとした態度をとるのだが、こういうところで本音が出るのはとても可愛いものであった。


 朝美は、金髪でお人形さんみたいな精巧な顔をしている。

 黒髪である夕希と血がつながっていないかと言えばそうではない。

 綾子が購入した精子が違う人のものであって、端的に言えば異父兄弟だからである。


 ともあれ、そんな可愛い朝美と手をつないで登校できるのは、夕希にとってとてもうれしいものであった。


(前世では、こんなことできなかったからなあー。ただ、この世界ではなんで僕のフェロモン体質が効かないんだろう)

(まあなんでもいいや!効いてないだしラッキーと思っておこう!)


 6年後…この甘い考えが夕希に悲劇を起こすことはこの時の夕希には知る由もなかった。


「で、ゆうきは学校に慣れた?」

 と朝美が顔を覗き込んでくる。


「うん!だいぶ慣れたよ!友達もいっぱいできたし!」

「そう、それは良かった。じゃあその友達とやら全員の面接テストをしなきゃね」

「面接テスト!?なんでそんなことしなきゃいけないの?」

「それは、ゆうきが男だからよ。ゆうきも<<赤ずき男>>のおとぎ話は知ってるでしょ。」


 <<赤ずき男>>の話とは赤いずきんを被った男の子が、おばあちゃんのお見舞いに行くという話である。

 しかし、行った先のベッドに眠るのはおばあちゃんの振りをした若い女性である。

---

「おばあちゃんの耳は何のためについてるの?」

「それは、赤ずき男の声をよーーく聞くためさ」


「おばあちゃんの目は何のためについてるの?」

「それは、赤ずき男の顔をよーーく見るためさ」


「おばあちゃん口は何のためについてるの?」


「それはね…」


「おばあちゃんの下のお口は赤ずき男ちゃんに(ピーーーーーー)するためについてるのおおおお!もう我慢できませーーーーン!」

---

 という突拍子も無い話である。

 女性は誰でもオオカミなんだということを世界に広めるために書かれたらしい。


「<<赤ずき男>>はあくまで作り話だよ。それに僕の友達はみんな優しいよ!」

「ゆうきがそこまでいうなら面接はいいけど、それでも気をつけなさいよ。女はみんなオオカミだから」

「そんなこというなら朝美ねえもオオカミなの?」

「バカ!わたしはいいの!」


(否定はしないのかあー…)


「まあ、ゆうきに変な虫がついたら私が追い払ってあげるけど」

「その時は頼むよ」


 こういう姉の女気溢れるところは素直に助かる。しかし、この女気が悪く出ちゃうところもあって…。

 朝美はかなり嫉妬深いのだ。


「ところで、ゆうき今日なんでお母さんとチュウしてたの」

 と先程のことを思い出した朝美は夕希に問い詰める。


 前世の経験から夕希は(ここで選択を誤ればやばいことになる…)と考えていた。


 母だからいいだろうと母のフォローに回れば、姉は不機嫌になるだろう。その場合は機嫌を直すのにすごい時間がかかる。


 かといって、母にすべて無理やりやられた本意じゃない。と言えば姉が「じゃあ、あたしがお母さんにゆうきが嫌がってたって言っといてあげる」と言い出すだろう。

 その場合は、母が泣くことになるだろう。


 かなり思考をした結果

「あの時はボーっとしてたし、気が付いたらおでこにキスされてたんだよね。別に家族とならおでこにするぐらい良い気もするんだけどね。おでこならね」

 必死に言い訳を考えるが、姉は何のそのという顔をしている。


「じゃあ、あたしともしなさい。」


「男の唇は大事なものらしいから、朝美ねえからならいいよ。僕の唇には絶対にだめだからね」


「ゆうきのくせに生意気ね、まあいいわ。それで。」


 この後の手も考えていたのだが朝美が早くに、夕希は内心よし!と思っていた。

 これくらいで済むなら全然OKだ。完全に口は禁止したし、ひどいことにならないだろうと…


「じゃあ、するわ!」

 と意気揚々と姉の口が僕のおでこに近づいてくる。そしてそのまま


 おでこをスルーして耳をなめ始めた。


「ちゅ、んちゅっぴちゃ」

「ちょ、ちょっと姉さん!?」

「んっん、ちゅ~」

「朝美ねえ、みんな見てる!」


 もう学校近くに差し掛かっており、周りからたくさんの視線が向けられてた。

「ペロッペロり!」

「あ、朝美ねえ!もうおわり!」


 なんとか、引き離すことに成功したが往来で耳をなめられるなど初めての体験で傷は大きかった。


「ゆうきもこれからお母さんにチュウされたら私に言うこと!そのあと、私ともチュウね!」


(もう、誰にも簡単にキスさせない)と夕希は強く誓った。





 小学校の階段の傍までやってきた。

 朝美は小学3年生で2階、夕希は小学1年生で1階なのだからここで一時お別れとなる。


「じゃあ、姉さんまた放課後にね」

「……」


 お別れとなる。


「姉さん?」

「……」


 お別れとなるはずだが、朝美はつないだ手を放そうとしなかった。

 周りの生徒は不思議そうな目で見るものと、男の手をずっと握ってるなんてギリッというものが半々くらいであった。

 無言を貫いていた朝美がまだわからないのかという顔で口を開く。


「ゆうき!絶対浮気しちゃだめだからね」

「浮気って…」

「浮気しないって今日も誓えるなら手を放す!」


 そう、今日<<も>>ということは朝美は毎日夕希にこの浮気誓約を誓わせているのである。

 面倒くさいことこの上ないが、女だらけの場所に弟を放り出す姉の心境としては仕方のない面もあるだろう。


「分かった、今日も浮気しません!これでいい?」

「よろしい、それじゃあまた」


 安心した朝美は手を放して階段を上がっていった。

 やっぱり、こういう面倒くさいけど素直なところは可愛いなあと思いながら教室へ向かう。

読んでいただきありがとうございます。

他にもあべこべ物執筆しているのでよかったらそちらもお願いします。

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