ふたりがかり
これまで十四年間、夕希の姉としての自覚を持ち守り通してきた。登下校はもちろんのこと学校内、休みの日など、常に夕希に気をめぐらせ生きてきた。
いつも「お姉ちゃん大好き」とくっついてくる弟は可愛さの権化であり、夕希に尽くすことは生きがいとも言えたし、その童貞はいつかは自分のものになると確信していた。
しかし、そのすべては強姦未遂事件によって奪われることになる。生きがいも夕希の童貞も…あたしの宝物が奪われていく。それと同時に日に日にやつれていく躰…。そんな時だ。ふと夕希の残していった男子入寮要綱の一文が目に入る。
「男子寮は厳重なセキュリティが敷かれています…ご家族の方が男子寮に入る際には身分証と住民票を提示してください…?」
この時だ…悪魔の作戦を思いついてしまう。最低な作戦だ…。しかし、実行しなければあたしの存在意義である夕希が奪われてしまう。
実行するのに躊躇は無かった。
――とある姉の自白より――
「八雲ちゃん…頼んでいた例のものは持ってきてくれた?」
男子寮の前で真っ白な髪を持つ少女に耳打ちをする。怪しげなあたしたちの姿に警備員も訝しげだ。そんなことも気に留めず八雲ちゃんは紙袋を見せてくる。
「持ってきましたよ…西園寺家に抜かりはありません」
そう言う八雲ちゃんの表情はニコニコとしているが、内心ではあたしを信じ切れていない様だ。それもそのはず、あたしが他の女を夕希の部屋に招くだなんて普通はありえないからである。
しかし、これから協力していく仲だ。誤解は早めに解消していないといけない。
「八雲ちゃん、あたしのことまだ疑ってるの?」
「え…なんのことですか?」
しらを切ろうとするがそんなものは通じない。くぐってきた修羅場の数を思い浮かべればそれも当然。身に着けた直観はそういった心の奥底を見通すのだ。実際に、夕希の「おねえたんと結婚したいよ~」という心の叫びすらも嗅ぎ取っているのだ。はあはぁ、ほんとに夕希大好き。
……話はそれたが、あたしは八雲ちゃんと協力したいのだ。
「そういう欺瞞、疑念に対するあたしの直観は冴えてるの。八雲ちゃんも知ってるでしょ。」
「……」
「大丈夫、あたしは八雲ちゃんのことを信頼しているの…八雲ちゃんになら夕希の第二夫人の座をあげてもいいと思ってんの」
「……でも、それだけだと協力する理由にはならないと思いますが…」
「ええ…そうね、協力を取り付ける一番の理由は敵の強大さよ、あなたも見たあの八兵衛ってやつの親しさ…残念だけど、一人では苦戦を強いられるかもしれない」
夕希を取り戻すためには一人ではなく、二人がかりでなければ駄目だ。その点八雲ちゃんはその任を担うに値する。何度も夕希の窮地を救い、夕希に対する愛はあたしに匹敵するほどあると認めている。
「これは、夕希に関すること万が一は許されないわ…協力関係は絶対に必要なの…あたし達のためにも、夕希の未来のためにも…あんな、ポッと出に奪われてはいけないわ」
「……なるほど…確かに、そういうことならば…。協力は私たちの義務かもしれませんね…」
二人は固い握手を交わす。二人の心は一つになる。
「あたしと八雲ちゃん二人がかりで取り戻すのよ…ここから、あたしたちは一蓮托生だから」
「分かっていますとも…あの泥棒猫から…いいえ、すべての女から夕希くんを守るには一人では足りないことを自覚しています、ここからは聖戦です」
、男子寮へ向けて一歩、また一歩と足を進める。
▲▽▲▽
学校を終えて寮へ帰る。いつも通りの毎日。しかし、寮ではいつも通りではない景色があった。姉と八雲ちゃん…二人の姿だ。
「お姉ちゃん?八雲ちゃん?どうしたの?」
「夕希くん、待ってました!今日は夕希くんが前からやりたいと言っていたものを持ってきました!」
するとその場で八雲ちゃんは紙袋をあさりだして、中から機材の一つを見せてくれた。
「え!?それって!!VR機材じゃん!?すごい!!八雲ちゃんありがとう!!」
「いえいえ…これはお姉さまからの提案なんです…だから、お礼を言うならばお姉さまに」
「そうなの!?お姉ちゃんありがとう!!大好き!!」
「ぶふぅっ!!げほぉっげほ!!……いいわよ、別に…それよりも、速く試すわよ!部屋に案内しなさいよ」
「あ…ごめんそうだったね!!すぐ部屋に案内するからついてきてよ」
二人を自分の部屋まで案内する。男子寮は防音完備で広さも一部屋核家族が暮らすのにに申し分ないほどの広さがある。いくら騒いでも大丈夫。今から、VRが楽しみだ。
「散らかってるけど…まあ大丈夫か。さあ…入ってよ!!」
脱ぎ散らかした服とか、朝ごはんの時の片付けていない食器とかあるけど、仕方ない。長い付き合いなのだ、そんなものを恥ずかしがる間柄でもない。
「は…お宝の山…まるで、お菓子の家じゃないですか…」
「え…ちょ…ちょっと夕希!?ち…散らかしすぎよ!!あ…後でお姉ちゃんが片付けてあげるから、あ…その時は少し席外しなさいよ」
二人は顔を赤くして僕の部屋に対する文句を言っているが、まあどうでもいい。それよりも今はVRだ。八雲ちゃんの持ってきた紙袋を勝手に漁る。仕方ない…前世を含めてやったことのない文明の利器だ。気にならないという方がおかしい。
「ねえ!!八雲ちゃん!!もうこのVRやってもいいかな!?ええと…使い方は…」
そんな、僕のことを見て二人はニッコリと笑う。
「夕希くんったら…興味津々ですね、可愛いです!」
「もう…ちょっとは待ちなさいよ。今説明してあげるから…
ええと…1.まずは薄着になること…これ、本当に書いてあるんだからね!私たちの願望じゃないからね!」
僕はすぐさま姉に言われた通りに薄着になろうと着替えだす。下はハーフパンツ上はインナーで着るためのタンクトップだ。
その時だ、八雲ちゃんの様子がおかしい。いつも通りの気品のある笑顔なのだが?
「あれ…八雲ちゃん、鼻と口から血が出てるよ!?大丈夫!?」
「何を言ってるのですか?そんなものはありませんよ?もう夕希くんったら冗談が上手なんですから…早く、続きをお願いします」
八雲ちゃんは笑顔を崩さず、顔に流れている血をハンカチでふき取る。
「いや…え…でも…血が…」
「もう!八雲ちゃんも大丈夫って言ってるでしょ!だから次行くわよ!マニュアルの2!!女の性臭が感じ取れなくするため……じゃなくて!!臨場感を出すための付属のお香を焚く!!」
最近のVRはそこまでやるのかと…驚いていたが、そんな間にも八雲ちゃんがてきぱきとお香の準備をしてしまう。
「お姉さま!お香の準備はできました!」
「分かったわ!!じゃあ最後!!ベッドやマットの上などの安全で場所で寝転んでヘッドフォンとゴーグルをつけてスイッチを入れる!!」
すると八雲ちゃんが持ってきたカバンの中から大きめのマットを持ち出して床の上に敷き始める。驚くほどの手際だ。
「さあ!!夕希くん…寝転んでください…」
「さあ!!夕希!!この機材を最後に着けて!!」
言われた通りに機材を付けて、スイッチを入れる。ヘッドフォンからは音楽が流れだして、外の音は微かにしか聞こえなくなる。ゴーグルからも映像が流れ出す。
「あ…なんか出てきた?あ!!犬がいる!!しかも二匹!!本物みたい!!」
(とりあえず、成功したみたいね…)
(ここからはパラダイスですね…)
外で二人が何かを言っているが、ヘッドフォンのせいで良く聞こえない。まあ…どうでもいいか今は映像を楽しもう。
そうこうしている間に映像の中の犬がお腹を舐めだしてくる。しかも、舐められている感触までお腹に伝わってくる。
「うわぁ!!なにこれ!?ほんとに舐められてるみたい!!すご!!かがくのちからってすげー!!」
(うわ、美味し!!なにこれ少ししょっぱくて…でもコクがあって…ちゅぱぁ、ちゅぴぃ…)
(夕希ったらほんと生意気だわ!!お姉ちゃんをこんなに狂わせて!!責任もってお姉ちゃんがペロペロしたげるからね!!べっろん!)
映像の中の犬は二匹とも一心不乱にお腹を舐めてくる。まるでドッグフードを食べてるように。そのうち映像の犬はさらに何かを求めるように服の中に忍び込んでくる。
「ちょっと、そ…そこはくすぐったいって!!」
『はぁ!?ここ…さっきの三倍美味しい?あ…ふぅ…本当に夕希生意気だわ。も…もう我慢できない…す…吸っちゃってもいいかな?』
『え?何言ってるんですか?私はもう吸ってますよ?じゅびゅぅぅぅう、じゅぼぼおぉ』
「え…ちょっと!ほんとにくすぐったいって!!」
反射で映像の犬を引きはがそうとするが、どうしようもない。すごい力でしがみついてくる。だめだ…そもそも、シャツの中にいるのだ。引きずり出すこともできない。
そうだ!!こんな時は押して駄目なら引いてみろ理論だ!!北風と太陽理論だ!!太陽が旅人のコートを脱がせてセッ〇スした話!!あれしかない!!
「よしよし…犬さん落ち着いてね」
シャツ越しに暴れ狂う犬を撫でる。それはもうこれでもかというほどだ。
すると効果はあったようで犬も少しずつ落ち着いてくる。
(だ…駄目です!こんなに幸せなのに、ものすごい切ないです…満たされてるのに満たされてないような、もっと舐めたいけど…体が…)
(わ…分かるわ…この内ももから鼠径部にかけてたまるイライラが…く、くそぉ…ご…誤算だった、一旦撤退するわよ!!)
撫で続ければ、シャツの中の犬はくぅーん、くぅーんと鳴きながら離れて行ってしまった。本当にリアルだ。作りこみがすごい。
そうこうしている内に映像が切り替わる。
(え…映像切り替えちゃいました…)
(何の映像?)
(す…すみません…ええと…あ…ドラゴンを倒して王子様を救い出してその後にゃんにゃんする映像です…)
(はあ!?夕希になんてもん見せんのよ!!)
目の前にいる屈強なドラゴンが火を噴きだしてくる。横には自分の仲間の魔法使いと僧侶がいる。
「うわ!?すごい!!本物のRPGみたいだ」
(で…でも楽しんでるみたいですよ…)
(い…いやでも…夕希が男とにゃんにゃんするだなんて認められない!!)
(お姉さま良く考えてみてください!!その男のふりをして私たちも楽しめばいいだけのことです!!)
映像では紆余曲折を経てドラゴンを倒して、王子様を城へ連れ帰る。凱旋式や王との謁見などのイベントが簡単に流れていく。そして、気付けばベッドの上で僕は王子様に組み伏せられていた。
「は…え?ちょっとまじ?これってそういう展開?え?まじで?」
映像の中の王子さまは、「ドラゴンを倒すその姿に惚れた」とか「もう結婚するしかない」だのめちゃくちゃなことを言ってくる。
(い…いやでも、大丈夫かな?これって夕希の性欲が歪んじゃわないかな!?)
(お姉さま!!ビビっていては前へ進めませんよ!!もう私一人で楽しみますから!!そこで指くわえて見ててください!!私の処女卒業式をね!!!)
(は!?それは駄目よ!!どうせするならあたしが先よ!!!)
そうこうしている内に映像の中の王子様は僕のズボンをずらしてくる。
「いやだ!!初体験が男だなんて嫌だ!!絶対に嫌!!初めては絶対に好きな人がいい!!」
もう続きが見てられなくて、頭についているVR機材を外す。すると目に入ったのはVRと同等のレベルの異様な風景だ。
「あれ…八雲ちゃんとお姉ちゃん何してるの?」
僕の股の上で半裸で掴みあって、僕の方を向き目をパチクリとしている。
「夕希くん今なんて言いました?」
「初体験はまだって言った?」
「ええと…」
状況がつかめない、ええと…さっきまでVRを見ていて、今は二人がつかみ合ってて…ええと…。
そうこうしている内に玄関の扉が開く。
「おーい!天川ぁ昨日言ってたゲーム持ってきたぜ!昨日言ってた通り時間通りに来たぞー!!」
寮長であり、担任でもある虎山先生だ。最近は仲良くなって夜一緒にゲームをしたりする仲だ。そういえば今日遊ぶ約束をしていたな。「寝ちゃうかもしれないから、勝手に入ってきてね…鍵は開けておくから」って約束したんだっけ?
二人が来たせいで完全に忘れていた。
「入るぜー天川ぁー、って、なんだこの臭い…なんかいつもの匂いとはちげーぞ…」
リビングへつながる最後の扉を虎山先生が開ける。
…邂逅、三つの獣が出会ってしまう。
その瞬間、三人の闘気が爆発する。
「…お前ら何してんの?」
規制にビビってしまった僕をお許しください。
ついでに投稿頻度が減ってることもお許しください…。その分一本の質は上がってるはず?たぶん…!!
 




