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八兵衛とのおうちデート_1

 あの夜以来、明らかに八兵衛の態度が柔らかくなった。どれぐらいかって言うと、隣を歩いている八兵衛を見るとニコッて微笑み返してくらいには態度が柔らかくなった。

 それに、朝の登校の時…

 

「今日の夜、よろしければ私の寮部屋まで来てくれませんか…一緒に見て欲しいものがあるので…」


 意味深な感じで頼み込んでくるものだから、二つ返事でOKを出してしまった。

 後から八兵衛に寮の門限とかを聞いてみたが、「女子が男子寮に入ることはできませんが、男子が女子寮に入る分には何にも制限はないです」ということらしい。 

 つまり、学園側は女子寮での不順異性交遊を推奨しているということだ。

 そう考えると少し心配にはなる。心配にはなるが…相手は八兵衛だ。大丈夫だろうとタカを括って断らずに夜になってしまった。

 

「ええと、指定の夜八時だし…315号室だし…ここか」


 女子のお部屋に入るなんて前世も併せて初めてだ。

 男子寮とは比べて少し質素なその扉を大きくノックをする。

 ノックの30秒後…ダダダッという音が聞こえて扉が開く。

 

「ごめんなさい、待たせましたか?」


 そういって、出てきたのは髪の結びをほどいた八兵衛。部屋着用のウサギフードがついたパーカーを着ていて普段とは雰囲気が違った。


「いや大丈夫だよ!上がらせてもらってもいいかな?」

「はい!どうぞ上がってください」


 靴を脱いで上がる…すると八兵衛が僕が脱いだ靴をすぐさま揃えてしまった。

 ギョッとした顔を向ける。なんか自分の無作法を咎められたようでめちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「あの…驚かれた顔をしていますが、多くの支援者はこういったことをしますよ…」


「え…マジで…?ジェイソン&ナタリアとかもこういうことしてるの?」


「いや…あの人たちは少し特別ですから分かりませんが…可能性はあります…それに、中には靴下履かせることや歯磨きなんかも支援者にやらせる人もいるらしいですよ、たいていの女性はご褒美だって喜んでますが」


 なんかすごいカルチャーショックを受ける。まじか…支援者って大変なんだな…。

 

「そうなんだ…でも、僕はいいや。そういうことは自分でやる癖をつけたいから、八兵衛の希望が無い限りはやらなくてもいいよ」


「そうですか?それなら私も特別やりたいわけでもないので…今後は控えさせてもらいますね」


 八兵衛の感覚が自分と近くて安心した。

 

 

 ……まあそんなことは置いておいて、部屋の中に案内してもらう。

 部屋の間取りは1Kだが十畳ほどとかなり広い。流石に男子寮よりは狭いが、前世で僕が過ごしてた一人暮らしの部屋の倍の広さはある。

 

 八兵衛はその広い部屋に生け花などを置き綺麗に飾っていた。他にも、琴、古書、絵画など知性を感じさせる部屋だ。

 人の部屋を物色するのは良くないが、そんな八兵衛らしい部屋を見て少し微笑む。


「あ…あの…そんな見ないでもらえますか…?恥ずかしいので…そこのソファに座ってください…」


 キョロキョロしていた僕をたしなめるように座らせる八兵衛。

 ソファに座ると、八兵衛はキッチンに向かう。どうやら、飲み物を入れてくれるみたいだ。

 

「夕希様はお茶かコーヒーかどっちがいいですか?それか他ですか?」

「それじゃ、コーヒーをもらおうかな」


 そんな簡単なやり取りの後、コーヒーセットを持ってきてくれた八兵衛は僕の横に座る。座るところは色々あるのに、ソファにわざわざ二人で座る。さすがに八兵衛でも緊張してしまう。しかも、僕の方をじっと見てくる。しかも何も喋らない。

 緊張感に絶えられず、自然とコーヒーに手が伸びる。

 

「ええと、コーヒー美味しいよ…ありがとう」

「そうですか…」


 コーヒーの味を褒めて場を持たせようとするが、そんなのも意に介さずすぐさま会話を取りやめてしまう八兵衛。それなのに僕の方をじっと見つめる八兵衛。いったい何が目的なんだ…?

 分からないまま時間だけが過ぎていく。

 

 そんな時に突然、八兵衛が意を決したように横にあるカバンをごそごそと漁りだす。少し不安が膨らむ。いったい何なんだ。

 

「ええと…あった、良かった…」


 そしてお目当てのものを胸元に掲げて見せてくる。

 それは…

 

「誰もいない館にて…?」


 映画のDVDパッケージだった。パッケージには女性と暗い館みたいなものが映っている。どう見てもホラー映画のパッケージだ。

 

「ええと、澄っていう私の妹がいまして…あ…会ったことありましたか…その澄っていうのがですね、男の子と仲を深めたいなら映画だって言ってまして…あ!?ええと懇ろになりたいとかじゃなくて、せっかくなら仲良くしたいですし…」


 しどろもどろになりながら、思いを伝えてくれる八兵衛。どうやら、僕と仲を深める案を妹に聞いたら映画だって返されたみたい。色々、考えてくれてここまで準備してくれる八兵衛に愛おしさが沸く。

 

「あの…澄がこの映画が良いって貸してくれて、見たくないならいいんですよ!無理しなくても!!…でもよろしかったら一緒に…」


 控えめに誘ってくる八兵衛が可愛らしい。こんなタイプの女性と会うことも初めてで…断るわけがないだろう。ホラーそんなに得意じゃないけど大丈夫かな…?そんなこと考えながら二つ返事でOKを返す。

 

 

 ……

 

 …

 

 女性がお婆さんの霊に取りつかれて発狂するシーンで映画はエンドロールを迎える。なかなか怖い映画だったが…怖い映画だったのだが、僕は怖がり切ることができなかった。

 なぜなら横を見れば……

 

「ブルブルブル…」


 両手をグ―にして膝の上に乗せてプルプルと震えている八兵衛がいるからである。見せ場のタイミングの前で八兵衛が先に大声を出して怖がってしまうから、あんまり驚くことができなかったのである。

 そんな、八兵衛の握りに肩をチョンと指でつつく。

 

「ぴゃあああああぁああ!!」


 驚いた瞬間に僕の胸に飛び込んでくる八兵衛。そして、僕の胸でお経の様なものを唱える。

 

「なむあみだぶつ!!ごめんなさいぃごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃい!!っふぁあ夕希様!?ごめんなさい!わきゃああ!?いったあああ!!」


 お経を唱えているのかと思いきや、霊に許しを乞うているのかと思えば、僕に抱き着いていると気づき謝りながらも、どけようと思い足を痛打していた。

 なんとも、忙しい女の子だ。そんな八兵衛は今もソファの上でうずくまって震えている。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!こんな怖い映画だって知らなくて…わ…わたし映画見るのも初めてで…」


 こんな八兵衛を見るのも初めてでとっても新鮮だ。仲良くなってからは色んな八兵衛が見られるな…と感慨深くなる。

 そんな八兵衛が可愛らしくて、何とかしてあげたいと思い手を差し伸べる。

 

「ほら…怖いんだったら、手をつないでもいいから」


 そういった瞬間、ぎゅうっと恋人つなぎをしてきた。手汗がべちょべちょで少し痛いくらい握ってくる八兵衛を見て、そんな意図はないだろうと思うが…。

 これが僕の家族以外との初恋人つなぎになった。

すまない、予約投稿失敗してました。

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