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八兵衛の本心

 

 夜道を八兵衛と歩く。八兵衛の美しい黒髪は夜風に靡き、キラキラと月の光を跳ね返している。

 

「夕希様…今日はありがとうございました…」


 急に聞こえる声に少しビクッとした反応を漏らしてしまう。

 なぜなら、八兵衛から話しかけてくることなど久しぶりだからである。

 

「今日…私があの恋愛測定器を嫌がったの気にしてくれましたよね?

「ああ…そんなことね、気にしなくてもいいよ。ジェイソンとナタリアにも困ったものだよね、あはは…」


 乾いた笑いを漏らしながら、八兵衛に微笑みかける。八兵衛は本当に律儀だ。こんなこと気にしなくても良いのに。しかし、そんな僕の考えを見通したように八兵衛は話を続ける。


「夕希様にとっては特別なことでないのかもしれませんが、私にとっては特別なことなのです…」


 感謝の言葉をつらつらと述べる八兵衛。その言葉に嘘っぽさの欠片もなく、本心からの感謝のようだ。そして、その言葉は止まらない。まるでその心の感情を垂れ流しにしているようだ。

 

「こんな私にあんなにも気遣ってくれて…本当に勿体ないです…。こんなにも優しい男性が私の支援男児だなんて本当に勿体ない…」


 そして八兵衛は最後に一言付け加える。



「こんなに男性嫌いの私には勿体ない」



 一瞬耳を疑った。男性嫌い…?この世界にも多種多様の人がいるのだから、男性が好きでない女性も一人くらい居ても不思議ではない。何はともあれ詳しく聞くまでは何もわからない。八兵衛も一歩踏み込んで話してくれたのだ、僕も踏み込まないといけない。

 

「え?でも…それってどういう事?男性嫌いってどういうことなの?詳しく聞かせて欲しいな」


 すると、八兵衛は一瞬驚いたような顔をして歩を止める。まるで帰ってくる言葉が思っていたのとは違う…そんな表情だ。


「まさか…こんなことを言っても…私の話を聞きたいと、そうおっしゃってくれているのですか?」

「そうだよ…八兵衛の話が聞きたい。そう言ってるんだ」

「なんで…なんで、そんなに優しいんですか…私は男性が大っっ嫌いなんですよ!!もう…解雇してくれてもいいんですよ…」


 泣きそうな声で、まるで解雇してくれというように僕に懇願する。彼女の逃げだと…そう直感する。嫌いな男性から逃げるための彼女の心の壁。

 

「もう解雇って言ってくださいよ…そしたら、もっと可愛らしくて…明るくて…優秀な男児支援者がやってきますよ!絶対にその方が夕希様にとっても良いはずです…」

 

 解雇をせよと縋り付いてくる。そうすれば、新しい優秀な男児支援者がやってくると本当にそう思っているみたいだ。しかし…そんなものを通すわけがない。

 八兵衛はその真面目さ…律義さ…美しさ…そのすべてを使って既に僕の心を掴んでいるのだ。今更、解雇って言って「はいさようなら」って言うのは通すわけがない。


「八兵衛…それは駄目だよ。僕が仮に解雇をする時は笑顔じゃないと駄目だ、ね?大丈夫だから、僕に話してよ。抱えてることのほんの少しだけでもいいから…」


 僕は八兵衛の頭を抱いてそのさらりとした髪を撫で続ける。その涙が乾くまで…彼女の心が落ち着くまで。ずっと…ずっと…。

 月明りは二人で一つの影をぼんやりと照らしてくれる。

 

 ………

 

 ……

 

 僕と八兵衛は二人してブランコに乗っている。夜の公園は虫の声が聞こえる程静かで、話すのには持って来いだ。

 ブランコの音がキイィと鳴る。八兵衛が軽く揺らしているのだ。

 

「聞いてもらえますか…大した話でもありませんが…」


 その八兵衛がぽつぽつと昔のことを語りだす…。

 

 

「私の家は五条家、名だたる武士の家で一流の教育が一流の人間を生む。そういう考えを持つ家でした。実際に私も有名なスポーツ選手や、優秀な家庭教師によって教育されてきました。」


 僕も何も言わずに八兵衛の言葉に耳を傾ける。

 

「その先生たちの教えもあって、私の成績はぐんぐんと伸びていきます。同年代では私に敵うものなどいませんでした…。両親もとっても喜んでくれました…。私自身も私の成績が伸びるのは楽しかったし、努力は何も苦ではありませんでした。そんな私の性格も相まって、さらに私の成績はとどまるところを知りませんでした…」


 順風満帆な生活だ。幼少期の話をする八兵衛には少しの笑顔さえ見えた。しかし、八兵衛はここから少し口元を引き結んでしまう。

 そんな八兵衛にエールの言葉をかける。

 

「大丈夫だよ…ゆっくりでいいから、自分のペースでいいから。」

「すみません…続きを話しますね…。そこでお父様からダントクに入学するよう指示されました。初めはやる気を出して勉強していたのですが、実態を知るにつれてやる気を無くしていきました…。傲慢な男性が多いという実状を知って…、なぜ、こんなにも努力してこき使われる毎日を送らなければならないのだと…」


 ダントクにはジェイソンのようにラブラブカップルみたいな感じで支援者と付き合っていく人もいれば、まるで従者のようにあれこれ命令だす人もいる。

 むしろ、後者の方がやや多いか?それが一週間過ごしてきた僕の考えでもある。だが、命令されても男性と一緒にいたいという女性が一定数いるのも確かだ。こういう、男性を減らせというのも無理な話である。ダントクはそういうものだと考えるしかない。

 

「それでも、ダントクに支援者として入学することが女として成功することだと言い聞かされて勉強をつづけました。それで実際、入学して一人の男性の支援者に任命されました。家柄の高く愛想のない私をよく叱りつける方でした。日々すり減っていく精神、支援者をやめざるを得なくなりました…

 なんで…あんなにも男性は女性に対して傲慢になれるのでしょうか…。支援されている立場なのになぜ私をあんなにも怒るのでしょうか…。」

 

 怒りと疑問がないまぜになって、ぶつかってくる。

 

「確かに…私も自分の成績を鼻にかけて傲慢な部分はありました…。でも、あんなことまでされなければならないほどでしょうか…。それから、私は男性嫌いになりました。」


 怒りと後悔と悔しさと…色々な感情がごちゃ混ぜになって、八兵衛の涙となってあふれ出す。

 僕はブランコから降り、隣のブランコに座る八兵衛の後ろに回りその頭を抱く。八兵衛にも色々あったのだ、その中の一つでも僕から否定することはできない。だから、言える事は一つだけ…。

 

「八兵衛…頑張ったんだね」


 その瞬間、八兵衛から嗚咽が漏れだす。

 そして、その嗚咽と共に、自分への呵責があふれ出る。

 

「う…うっ…なんで、そんなに優しいんですか…、私こんなにも我が儘で女失格な人間なんですよ…うぐっ…こんな女掃いて捨てていいのに…」


「僕は知ってるよ、八兵衛が頑張り屋さんでいっつも僕のことを気にかけてくれてるってことを…だから自分を卑下しないで…僕でよければずっと側にいるから…」


 この日僕と八兵衛の距離は大きく縮まった…。

来週が2回くらい投稿できたら、いいかな…ってくらい忙しいので今週いっぱいは頑張ります

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