歓迎会
転学から一週間、ジェイソン&ナタリアによって僕の歓迎会が開かれることになった。
場所は簡素な定食屋を貸しきって行われている。恐らく集まってくれた人の中の誰かの伝手だろう。集まってくれた人は僕を除いて20人以上-全員の名前は覚えていないが、僕のために良く集まってくれたものだ…しみじみとする。
「それじゃあ!みんなかんぱーい!!」
ナタリアが乾杯の音頭をとり、カツンッ!とジュースの入ったグラスを付き合わせる。みんながカツンッカツンッと音を鳴らしている中、一人サササッとレジ裏に捌けていく女の子がいた。
その人は何やらガサゴソと準備をしているようで、黒いものを何やら鞄から出しているようだった。少し不安を覚えるがジェイソン達も何も言わないし、気にするものでもないか…そう考えようと思っても気になるものは気になる。
そう思っていると、その少女はレジ裏からいきなり飛び出して!
「一番!!佐藤!!手品やります!!ちゃららら~」
佐藤と名乗る女の子がマントとシルクハットを携え出てきた。
口をあんぐり開ける僕。そんなのもお構いなしに、少女はステッキから薔薇を取り出して僕に渡してきた。
「どうぞ!美人な夕希くん、君にぴったりの深紅の薔薇だよ」
展開についていけなくて、とりあえず差し出された薔薇を受けとる。すると、となりのジェイソンが声をかけてくる。
「驚いたかい?うちの歓迎会はいっつもこんなかんじなんだ。出たいやつを集めて、やりたいことをやらせる。それが一番楽しいじゃないか!まあ言っちゃ悪いが、実質みんなの懇親会みたいなものだよ、はっはっは!」
でも、歓迎会でも懇親会でもどっちでも良い。なぜらな、男子も女子も入り乱れて騒いでいる空間など初めてだったからだ。この経験したこともない空気感に僕の胸は高鳴りっぱなしだ。
前で芸をする人は、手品から歌から漫談まで型など何もなくぐちゃぐちゃだ。中には芸に対して野次を飛ばしている人もいる。しかし、どの人も笑顔だ。そんな、みんなを見ていると僕も笑顔になってくる。
そんな時に隣から声がかけられる。
「こんにちは!天川さん楽しそーですね…」
背は僕よりも低いくらいというか小学生…?その黒い髪の毛を後ろで上げてくくっていた。ポニーテールというやつだ。というか…この顔誰かに似ているな…。
「あ!もしかして八兵衛の妹さん?」
「そうです!!よくわかりましたね!!満点をあげます!!私こそがあの五条八兵衛の妹!澄です!!」
その小さい胸を張りながらエッヘンという言葉を漏らす。この少女は八兵衛の妹だと当てられて嬉しそうで、姉を誇りに思っているようだった。
いつまでも背筋をピンと張ってどや顔で可愛らしい。ちょうどのところに澄ちゃんの頭が来ているので、その小さな頭を撫でてやると「エヘヘ」という蕩けた顔をする。
「それで、澄ちゃん…でいいかな?澄ちゃんは僕に何か用があったの?」
「おっと危うく忘れかけてまし!!お姉さまの支援男児に見合うかどうかを確認しに来てやったです!!」
澄ちゃんは忘れてたとばかりに僕に指を突き出して、品定めをしてくる。
わざわざ、お姉さんのために僕を見にこようとは…お姉さん思いだ…。そんな澄ちゃんは人差し指をせわしなく動かして、最後には力なく下げる。
「顔よし!!体よし!!笑顔よし!!声よし…、匂いよし…、ええと…今のところ完璧だ…少しでも何か悪いところがあったら難癖付けて私の支援男児にしようとおもったのに…くそお!!」
澄ちゃんは力なく俯いてしまう。私欲が丸見えの澄ちゃん、お姉ちゃんとは性格が全然違うようだった。ま…まあ、お姉ちゃん思いなのは確かだし!!
「で…でも、お姉ちゃんのためにわざわざ僕を見に来るなんて、本当にお姉ちゃん思いなんだね」
「当たり前です!!…お姉さまは優秀なんです!!勉強も運動も!!私の百倍です!!あんな完璧超人がそんじょそこらの男児を担当しているようじゃ国の失態です!!」
澄ちゃんはお姉ちゃんに対してかなり高い評価なようだった。それに対しては僕も全くの同感で、この一週間過ごしてみて、その立ち振る舞い、勉強、スポーツに至るすべての点が完璧だった。なんなら、担当してもらっている僕の方が申し訳ないほどだ。
でも、そんな八兵衛が前の人と上手くいかなかったって不思議だよなあ。そんな時、澄ちゃんが気になることをボソッと呟く。
「お姉さまは完璧なんです。それなのに前の男性と…」
「前の男性と…?」
「は!?これは私から言うべきことでもねぇです!!気にしねぇでください!」
慌てて口を噤む澄ちゃん。なんだろう気になる。頑張って聞きだしてみるか、そう考えている時にジェイソンから声がかかる。
「おーーい!!夕希!!?ちょっとこっちに来てくれ」
「ああ…ジェイソン!どうしたの?」
「やっぱ、主役のお前がいないと駄目だって話になってな!八兵衛も待ってるから来てくれよ!!」
話は途中だが澄ちゃんを見ると「行ってきてあげてください」と手を振っていた。
仕方ないか…今日は羽目を外して笑いあう日だ。気になることは後回しにしよう。僕はジェイソンについていって真ん中の席へ歩いていった。
………
……
僕と八兵衛は隣り合って肩が触れる程近くに座っている。そして、僕達の前にはハート型の電球が刺さっている手のひらサイズの機械がある。
「どうだ!!夕希これは相性チェッカーって言ってな!二人の相性を光の色と強さで図る機械だ、試しに俺とナタリアでやってみるから見ていてくれ」
そう言ってナタリアとジェイソンは機械から出ている電極を二人で持つ。すると、ハート型の電球がピンク色に強く光り始めた。
その、電球を見てジェイソンとナタリアは嬉しそうにハイタッチする。
「やったね!ジェイソン私たちやっぱりラブラブだわ!!」
「そうだね、ナタリア!!みんなにおすそ分けしたいくらいだ」
いったい何を喜んでいるか分からないが、楽しそうなので僕も苦笑いをする。
そんな様子を見かねたのか八兵衛がこっそり耳打ちしてくれた。
「これは、電球の色がピンクに近いほど現在のラブラブ度が強いらしく、光が強いほど潜在的な愛情が深いらしいです」
「なるほど、それで二人は現在も潜在的にもラブラブで嬉しがっていたというわけか…それで、これを僕たちでやるの…?」
「先ほどからずっと夕希さんを呼んで来たらしてもいいって断っていたんですが…まさか本当に連れてくるとは…すみません…」
二人でこそこそと話していると急にジェイソン&ナタリアは持っている電極を僕たちにずいっと渡してきた。
「おい、八兵衛と夕希もやってみろよ!お前らの相性気になるな!!」
「そうよ!やってみてよ!たぶんラブラブだよ」
八兵衛の顔を見ると、少し嫌そうな顔をしていた。僕としては彼女を無理強いさせることをはしたくない。ここは僕の口からはっきり断るか。
「いや、止めておこうかな…僕は八兵衛との仲はゆっくり深めていきたいしね!それにこんなので測らなくても『僕は八兵衛のことを好ましく思ってる』って口で伝えることにするよ」
ね?と同意を求めるように八兵衛の顔を見るが口をパクパクさせるだけ。
その瞬間、ワアアアアアアアアア!!と会場が盛り上がる。
「夕希が言ったぞおおお!かっこいいいい!!」
「そんなこと言われたら絶対ムネきゅんじゃああああん!!」
「夕希くうううううん!!結婚してえええええ!!」
次々と野次が飛んでくる。あ?あれ?こうなるはずじゃなかったのに…この場を収めてもらおうとジェイソンを見ても「これは負けたなあ…やるなあ夕希…」と呟くばかり。渦中の八兵衛の顔も真っ赤だ。収集を付けることができなくなった。
しばらく、僕と八兵衛は顔を真っ赤にして俯くことしかできなかった。
昨日は色々重なって投稿できずにすみません…。できるかぎり毎日投稿で頑張っているのですが…。




