功罪
そこからの事後処理は西園寺家―つまり八雲ちゃんの実家が手伝ってくれて、すべての手続きはつつがなく進んだ。また、強姦事件を起こした三人も警察に突き出されることもなく厳重注意で済んだ。それに関しては八雲ちゃんが僕の意見を聞いてくれたというのが大きいだろう。
しかし、当の僕本人は…
「まさか…【ダントク】に転校とは…」
男子特別支援学校ー通称【ダントク】とは名前の通り、【何らかの事情で一般学校に通えなくなった男性】と【それを支援する優秀な生徒】が通う学校である。
だがその実態はガバガバで男性であれば望めば誰でも入れるらしい。
そのため、現状では【ダントク】に通う男子学生は9割を超えるらしい。実際に、僕の受け入れ先も男女比は驚異の5:5という数字をたたき出している。
それに、その男女比によって多くの男女がここで生涯の伴侶を見つけるらしい。
そりゃこんなところがあれば、女性もここに進学するために必死に勉強したり、異性交遊も推進できたり政府も万々歳だろうな。そりゃ一般校に通う男性も少ないはずだよ。
まあなんにせよ、明日からはその【ダントク】に通うわけだ。。
「準備はこれで良し…それに今日から一人暮らしか…こんなこと前世以来だな、懐かしいなこの感じ…」
学校の立地的な問題もあって寮暮らしが始まる事になった。まあ姉や母がいる実家まで2時間くらいの距離だが、その移動はつらかろうと学校側が寮を貸してくれる運びとなった。
そんなベッドに寝転びながら、携帯をいじっているとピコンと通知音が鳴る。
八雲からメッセージだ。
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>『ハァ…はぁ…今、何色のパンツはいてますか?』
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一瞬目を疑う?あの八雲ちゃんが?しかし、その後すぐに…
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(西園寺八雲がメッセージの送信を取り消しました)
>『すみません!!友達が勝手に送って…ごめんなさい!!』
『あはは…大丈夫だよ気にしてないから』<
>『ホントすみません、、ところで一人暮らしの準備とか大丈夫ですか』
『大丈夫だよ!色々心配してくれてありがとね♪』<
>『良かったです!また何かあったら私を頼ってくださいね♪』
『ありがとう!お礼にパンツの色書いとくね…赤のボクサーパンツだよ( ´∀` )』<
(天川夕希が写真を送信しました)
>『すみません、急用ができました…またあとで』
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八雲ちゃんとは長い付き合いだからこういう冗談をいくらでも飛ばせる。
実際履いているのとは違うパンツの写真を送ると、八雲ちゃんは照れてすぐ『また今度』とか送ってくるのだ。
前も指で割れ目作って、『これ僕のお尻の割れ目だよ』って写真送った時も、こうやって照れてすぐ連絡用SNSやめちゃったんだよなとニヤニヤする。
そうやって、楽しんでいると今度はプルル!プルル!と携帯がバイブしだす
姉の朝美からの電話だ。
「もしもし?お姉ちゃん?」
「ゆうき?大丈夫一人で寂しくない?」
「ん?大丈夫だよ!新しい学校は不安だけど何とかなると思うよ」
「そう…ゆうきは寂しくないのね…お姉ちゃんは寂しい…」
そんな甘えた声が電話越しに漏れてくる。
僕が寮暮らしにすると言ってからずっとこんな感じで甘えてくる。
「いや、そんなこと言われても…もう散々話し合ったじゃん…」
「でも寂しいものは寂しいんだもん…寂しくて猫になっちゃうもん!にゃあにゃあ!」
「もう、お姉ちゃん…はいはいよしよし…」
「にゃーにゃーみゃうみゃう!」
猫になった姉を必死に宥める。転校が決まってからこのパターンが非常に多い。
強気な姉は意外と甘えたがりだったようだ。
それでも、明日の朝も早くこのやり取りをいつまでも続けるわけにはいかない。
「はいはい、子猫さんはもう寝る時間ですよ、それじゃね!おやすみ!」
「ふしゃああああ!!あと30分!あと30分でいいから付き合いなさいよ!」
「ええ…!?明日も朝早いんだけど……ンゥッ!!」
姉の言動に少し辟易してたところ、急に胸の中が熱くなる。
言葉を発することができなくなる。
「…んぅ!!……!!…んん…!」
「ゆうき?ゆうき?」
「…んぐぅ…!!……!!」
いくら声を発そうとも少したりとも音が出ない。
少しずつ胸が熱くなってくる。
さすがに状況がおかしいと感じた朝美も不安の声を上げる。
「ゆうき?どうしたの?大丈夫?大丈夫だったら返事をして?」
「……!!」
胸の中が耐えられないほど熱くなる。
何かがおかしいと自分の胸を確認すると、あの夢のように自分の胸が光っている。
女神様に施されたハートマークの形にだ。
その瞬間、頭の中に声が響く。
<<やっとつながりました…時間がかかりましたが、お声をお借りしますね?>>
そう言ったのは女神の声だ。胸の熱さが少し喉に移る。
僕の体が僕のものじゃないみたいだ。自由が利かない。
そしてそのままコントロールを奪われた僕の体は電話に向かって…
『<<大丈夫だよ…それよりもさ僕のあそこが固くなっちゃったからお姉ちゃんにさすって欲しいんだよ!!>>』
声が自然に溢れてくる。いくら喉を絞ろうとも、口に手を当てようとしても何一つ成功しない。
僕にはどうしようもない、この出てくる声をどうすることもできない。
そんな、僕のことを見透かすように、携帯に向かって誘うような言葉を発し続ける。
『<<お姉ちゃん!ほんとにつらいんだ!辛すぎるから、今すぐエッチな声聞かせてほしいな?>>』
「え?え?ゆうき?えぇ!?」
電話越しには朝美の困惑する声。
電話を持ち固まる僕。
<<いつまでも行動を起こさないゆう様のお手伝いさせていただきました!それでは、後は楽しんで!…あ、そうそう!言い忘れてました!これからもたびたびこのペナルティシステムは使う気なので悪しからず!!それじゃまた!!>>
頭の中から女神の声が消えていく。
それと同時に胸と喉の熱さも消え去る。
冷や汗が止まらない。手汗もベッタベタでつい携帯を落としてしまう。
落とした携帯の画面を見るとまだ通話中になっている。
「…ぁん……んくぅ…」
携帯からは微かにかすれ声が漏れ出している。
この携帯のスピーカー部分から漏れ出すピンク色の空気。耳をつけて聞くのは怖い。
僕はそのまま、通話終了のボタンを押すことにした。
僕はこの日、女神様の恐怖を思い出した…。




