降り立った地で。
雑草の独特なツンとくる香りが鼻を掠める。
程良い温度の風が髪を揺らし、心地いい。
瞼を開くと、木々の木漏れ日から差し込む光が綺麗に交ざり合い、黄緑色のコントラストが美しく見えた。
そして、ここが森の中であるということが容易に理解できた。
「……なんでこんなところに?」
しばらく眠っていたのだろうか、この前に起こった出来事を瞬時に思い出す事が出来ない。しかし間違いなく何かあったはずだ。
とりあえず自身の安否確認をしておく。
身体に傷は一切なし。体調も健康そのもの。所持品はいつものリュックに撮影機材。そして身に纏っている衣服は学生服だ。
ーーーー学生服?
学生服……学校……!!!
「俺、あれから黒い渦に巻き込まれて……あの美人な姉さんに……」
だんだんと思い出してきた。そうだ、俺は学校に遅刻して、その時に教室には誰もいなかった。でも気付けば何者かもわからないお姉さんが話しかけてきて……。クラスのみんな……というか、学校のみんなは異世界に飛ばされたんだ。
そして俺だけ別ルートとか言われて……。
「それじゃあここは……ひょっとして……」
森の中で光の強い方向に走り出す。きっとそこが出口だから。
そして森を出た先には……。
広大な世界を見渡せる、高い崖の上だった。
崖の下には運河が流れており、その先には村のようなものが見える。遥か遠くを見ると、天を衝く巨大な木が見えた。遠くからでも伝わる存在感。きっと近くで見ようものなら、あまりの存在の大きさに畏怖してしまうだろう。
すると、不意に思考にふわりとした声が聞こえる。
『認証中……スキルの開示を始めます。手持ちの道具を全てスキルへと変換いたします』
「は?」
機械的な声……例えるのであればAIアシスタントのような事務的な声。
スキル? RPGゲームであるようなあれか? しかし、手持ちの道具をスキルに変換ってどゆこと?
すると、俺が持っているリュックが光りだした。リュックが光っているというよりかは、リュックの中身というべきか。
……おいおい待てよ? 『手持ちの道具をスキルに変換』とか言ってたな? ちょ……まさか!?
急いでリュックを開けると、撮影機材やPCが消えかかっていた。
「タンマタンマ!! これ全部なけなしの小遣い貯めて買ったやつだから勘弁してぇぇぇえええ!!!」
しかし、無情にもそれらはたちまち消えていった……。
「うう……俺の撮影機材が……。全部で50万くらいかかったのに……」
俺は今この異世界でもっとも情けなく泣いている。
しばらくすると、再びあの憎っくきAIアシスタントのような声が聞こえて来た。
『スキルへと変換いたしました。ご確認をお願いします』
「うるせえ!!! 本人の了承も得ずにわけわからんことしやがって!!! 返せえ……! 俺のカメラとPCを返せえ〜!!」
『……ウィンドウを開くときは、『オープン』と口にすることでご確認出来ます』
「ムシすんじゃねえ!!! お前さてはあれか、ゲームでいうNPCみたいなもんか? ったくつっかえね……」
『うっさいわね!!! さっさと開きなさいよこのノロマ!!!』
キーンと来るほどデカイ声が耳元で鳴り響いた。これまでのような事務的な声音ではなく、やんちゃな少女のような声だ。……もしや、ただのAIアシスタントではないな?
「どこにいる? お前は誰だ?」
シーーン……。
何も反応がない。
もしかして俺の幻聴か? それにしてははっきりしすぎてたような。
「……まあいいや。オープンって言えばいいんだっけか? ……『オープン』」
すると、目の前から画面のようなものが現れる。
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* ヨウ ・ ワタラセ
* 種族: 人間
* 職業: 共有者
* Lv : 1
* 攻撃力:20 防御力:10 魔力:40 火属性耐性:0 水属性耐性:0 風属性耐性:0 光属性耐性:20 闇属性耐性:20
* スキル: 千里眼Lv1 模倣Lv1
*固有スキル: 記憶の連鎖Lv1 幻惑無視Lv2
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「……千里眼と模倣って、戦い向いてんのか向いてないのかようわからんな。それとこの記憶の連鎖ってなんだ? 聞こえはいいけど」
『記憶の連鎖とは、特定の人数人に記憶を共有するスキルです。現段階の発動条件は眠ることです』
先ほどから黙っていたAIアシスタント(仮)が、途端に解説を入れて来る。
おのれ、あくまで自分の仕事しかせんということか? ならばこちらにも考えがある。
「ほう、じゃあ千里眼はなんだ?」
『千里眼はその名の通り、遠くまで見渡せるスキルです。先ほどの道具によりこのスキルを習得することができました。Lv1ではそこまでの変化は期待できません』
先ほどの道具ってことは、多分カメラのことだな? しかもレベル1ってなんだよ……。道具そのままの方がよかったじゃん!
「……じゃあ、幻惑無視とは?」
『幻惑無視は、幻術などを掛けられても効き目が薄いということです。Lvが最高値に達すれば、一切の幻術は完全無視できます』
なかなか使えるじゃないか。さしずめ、スマホの機能か何かのおかげなのだろう。手振れ補正的な。
「模倣はなんだ?」
『模倣はその名の通り、相手の技や魔法を模倣することです。現段階では高度な技や魔法の模倣は不可能ですが、Lvが上がるにつれて模倣できるものも多くなって来るでしょう』
それはなかなか使えるな! え、ぶっちゃけ無敵スキルじゃね?