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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第二章 欲するもの
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狂い乱舞す国境突破戦

 なだらかな大地、青々と生い茂る草花や木々、そんな光景に筆で書き入れたように真っすぐに伸びる道を疾走する。太陽は未だ登り続けており、時々朝露が反射して視界の中でキラリと光る。


 風は追い風、駆ける私を押してくれている。といってもそれほど強く吹いているわけではなく、気持ちいいくらいでしかない。


 鼻腔をくすぐるのは鉄の香り、その元凶は私の体。どんなに速く走ろうともそれから逃れることは叶わない。鉄錆びた香りが離れることはないのに、乾燥した血痕は駆ける衝撃で逃げていく。


 別にこの身に漂う匂いが嫌いだとか苦手だとかそういったもことはない。あの悪夢の中、血を流さなかった日の方が少なかった。この匂いには慣れたものだ。ただ、どうせ剥がれ落ちていくのなら匂いも一緒に連れて行ってくれてもいいのにと思ってしまう。


 体のあちこちに作られた傷口は未だに完全に癒えることはない。魔法少女には常人以上に強力な治癒能力がある。多少の切り傷であれば十数分もあれば治る。だがそれも万能ではなく、傷の深さによって治るまでの時間は長くなるし、腕や足といった部位欠損は元に戻りきることはない。


 万全の状態とはとても言えないだろう。肩に空けられた穴も塞がってはおらず、痛みを訴え続けている。それでも今日このタイミングを逃せば私がこの国を出ることはほぼ不可能になる。


「『主よ、そろそろ見えてくるぞ…ここからが本番だ』」


「あの長い壁がそう?」


「『そうです、あの先にいけばティエルと言えど簡単には来れなくなるのです』」


「そう」


 一度その場に立ち止まるとその先を見下ろす。長く緩やかな坂の先には木製の簡素な国境を隔てる壁、軽快なリズムをとって進んでいく馬車、規則正しく動き回る魔法士たち。


 国境付近にいる魔法士たちの動きはどこか緊張しているように見える。動きが硬いというか、何かを警戒しているような。それぞれ自らの得物を構えて決められた範囲を警備している。ただ、人手不足なのだろうか。どこか配置にむらを感じる。


「『どうした小娘、まさか怖気づいたか?』」


「…ううん、いこ」


 後方に控える《働きものの左腕(アームズ)》たちに私に続くように指示を出すと、傷跡の残る右手で大鎌を握りしめる。大きく息を吸い込んで吐き出すと、再びゆっくりと息を吸い込みながらその先を睨みつける。姿勢を低くして足に魔力を集めて力むと一気に飛び出した。


 どんどんと距離を詰めていくと同時に空に無数の大鎌を作り出していく。それは瞬く間に数を増やしていくとカラスの群れのように宙を漂い、魔法士たちめがけて飛び込んでいく。


 私の接近にいち早く気づいた一人の魔法士が迎撃しようと剣を構えて走り出す。互いに得物の間合いに入ると同時に振り降ろし交差する。絡めとった剣を掬いあげて宙へと追いやるとそのまま無視して先へ行く。


 私を呼び留めるよう強い口調で追ってくるのが尻目に見える。しかし完全にその姿を視界から外す寸前、地面に作られた魔法陣から現れた6つの大鎌に地面に縫い付けられその命を散らすことになる。


 時を同じくして4体の《働きものの左腕》が飛び掛かり、大鎌の雨が降り注ぐ。運のない者、実力のない者らはその不意打ちで命を落としていった。駆け逃げる馬車にもその一撃は降り注ぎ、天幕を切り裂いて積載物をばらまいていく。


 だが、それで得た戦果は微々たるものだった。国境の守備を任されているだけはあり、多くの魔法士、魔法少女たちは上手く躱し、弾いていく。《働きものの左腕》の爪を用いた攻撃も捨て身の突進も巨大な盾や魔法によって阻まれていく。


 大きな鐘の音が何度も響き渡る。その音を聞いた者らは一様に気を引き締め、それぞれ武器を構えてこちらに攻撃を仕掛けて来る。


 誰もが迷いもなく弓からは矢を放ち、指先から雷が飛来し、鞭が何十メートルも伸びて私へと迫りくる。遠距離からの攻撃を右へ左へと避けると続けざまに大鎌を鞭へと振り降ろす。


 簡単に切断できると、そう考えていた。しかし意に反してそれは斬れるでも巻き付くでもなく、互いの得物の先端同士がギリギリと押し合っていた。


 心底驚いた。魂一つ使って強化した大鎌の一撃で斬ることが出来ず、それどころか相殺までされるとは。

 だが、そのまま押し切られる様子はない。こちらも押し負けるつもりもなく、柄を握る右手に魔力を流してく。


「ッあああああ!」


 威嚇するように叫ぶと鞭を弾き飛ばす。強化された腕力をもって競り合いに勝つとその勢いで宙で回転し、弱弱しく宙を漂う鞭へと足をつける。その上を飛ぶように距離を詰めていくと腕を振り上げ、降ろし、右へ左へと振り回す。その抵抗も虚しく器用にその上を渡っていく。


 暴れる鞭の上で綱渡りをする私目掛けて魔法が飛んでくるが、先の読めない軌道が狙いを定めるのを阻害していく。一方こちらもただ狙われ続けているわけでもなく、魔法の飛んできた方向に大鎌を返礼する。


 鞭使いの冷静だった顔が歪んでいく。また一歩詰めるごとに百面相していく。焦り、怯え、嘆き、恐れ。感情の荒ぶりは鞭捌きをブレさせていく。

 そうなれば後は楽なものだった。無作為に振り回す鞭には私を振り落とす力はない。私を振り落とすという強い意思のない行動に合わせるのは楽だ。


 その絶望に満ちた顔がよく見えるほどに近づくと同時にまずは一振り、鞭を握る手を斬り落とす。間髪入れずに二振目、その体を両断する。鞭を持つ手に力がなくなり、転ばないように飛び降りると次の標的を定める。


「次…!」


「くそっやりやがったなぁ!」


「あまり調子に乗ってるんじゃねえぞ!」


 血の絨毯の上に立つ私に向かって3人の魔法士が憤怒の形相で接近してくる。剣を振りかぶり、拳を握りしめ、両手に短剣を構えて次々と攻撃を繰り出してくる。それをバックステップで後方に下がりつつ大鎌を飛ばして牽制していく。


「ふううぅんぬぅ!《暴風掌(ストームブロウ)》!」


「ッ!」


 大柄な魔法士が拳を突き出すと現れた魔法陣から暴風が吹き荒れる。まともにそれを喰らうと後方に大きく飛ばされていく。空中で何とか体制を立て直して地に足を付けるとすぐに周りを見渡すが、大きく土煙が巻き上げられ、視線を塞がれてしまった。


「皆ッ、大丈夫?」


「『大丈夫です、我らのことはいいので戦闘に集中するのです!』」


「よかった、ッ!」


 土煙の中を潜り抜けて炎の渦や黄金色の刃を避けると土煙の中へと突撃していく。大鎌を振りかぶって突っ込んでいくと入り込む寸前で激突した。


 向かってきたのは4人、それぞれ片手剣使い2人に短剣二本使い、無手の格闘魔法士。無手の男の固有魔法は《風魔法》だと割れている。それともう一人、黄金の剣を持つ魔法士。未だバチバチと閃光を刀身から放っている。あれには見覚えがある、かつて私が殺した魔法少女が使っていたものと同じ。恐らく《雷魔法》で確定だろう。


 不確定要素は後2人、下手に使われる前にやるか、様子見で後回しにするか。数巡考えを巡らせると、同時に相手取ることに結論づいた。


「《偽魂(我が身は偽り)》!《分魂(この身は無尽)》!《縛魂(臆して座せ)》!」


「させない!《減刻(ロストタイム)》!」


「おおぁ!《爆風衝破(ウィンドブラスター)》!」


「《付与(エンチャント)》《雷付加(ボルテック)》!」


 たった一瞬、数メートルの間で入り乱れる魔法の乱舞、戦場は混沌へと落ちていく。透明な波紋が浸透していき、空間が歪み、大地は揺れる。

 短剣使いの連続攻撃を鈍い動作でギリギリ受け止めていくと、《偽魂》の効果を受け見当違いの方向へ攻撃している魔法士に私の分身体たちが向かっていく。短剣使いの斬撃を退けると向かってくる雷の斬撃を斬り飛ばし、《縛魂》をまともに受けた片手剣使いの首を断つ。

 強化された大鎌の一撃は容易に首を宙へと放り出していく。先ほどの鞭の硬度が段違いだっただけで、なまくらになったわけではないことをこの一撃で証明した。


 すぐさま視線を他の奴らに移していくと風魔法使いが分身体による数の暴力に押し負けて背中を貫かれるのを確認する。残った魔法士らが切先をこちらに迫ってくるのを視界の隅に捉えると思考を切り替えて大鎌を向ける。


「『あいつの固有魔法は《減速魔法》だ間違いないねぇ。やっかいな固有魔法だけど基本的に射程距離は長くはない、遠距離から2人もろともやっちゃえば?』」


「うん。《魂魄回収(ソウルガイド)》、《強制行動(オーダー)》。内包する魔力をこの一撃に!」


 戻ってきた分身体たちが姿を朧に変えて大鎌へと吸収されていく。同時に殺した魔法士の魂を回収し、その魔力を大鎌へと注ぐ。歪に輝く刃は強大なオーラを放ち、歯向かう者を委縮させる。


「はあああああああ!」


 暴虐的な力渦巻くその一撃が振り降ろされる。どす黒い飛刃は地は裂き、草花は吹き飛ばし、雲を2つに分かつ。迎撃に放たれた魔法の雨を脅威にはならず、相対する魔法士たちを薙ぎ払っていった。



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