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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第二章 欲するもの
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白光放つ戦場

 新たに生み出した大鎌を空中に固定してその上に乗り移っていく。付かず離れずの距離を維持しつつ、ゆっくりと旋回するように動いていく。私の足が離れた大鎌は切先をレイの方へと向けて飛翔する。強化された大鎌からは斬撃を振るい、その体を切断せんと飛んでいく。


 私を見上げるレイは冷静に浮かべている鏡で攻撃を弾き返し、光線で体を焼こうとしてくる。それを私が手に持っている大鎌で斬って相殺したり、周りを回る大鎌が受け止める。


 戦闘の余波で既に門周りはボロボロになっており、巨大なものが突撃してきた跡のようにも見える。周りの草花は光線や斬撃痕ですっかり荒れ果ててしまっていた。光線の影響で発生した焦げ臭い煙と血の匂いが混じり、酷い匂いが鼻腔へと入り込んでくる。


 互いの攻撃の手が緩くなり、相手の様子を窺う牽制攻撃ばかりになる。完全に戦況は膠着している。放たれる一つ一つの攻撃には殺すという明確な意思が込められているが、お互いにその一撃で殺せるとは思っていないだろう。


 レイにとって私が放つ斬撃や大鎌はほとんど脅威にはならないだろう。彼女が警戒しているのは私の持つ大鎌。そして全貌を把握しきれていない私の固有魔法。今もこうして牽制ばかりの中、ずっと視線は私の手に注がれている。

 少し大げさに右腕を動かしてみれば明らかに注視して視線を動かしている。


 右手ばかり警戒してくれるのならいいが、私には明確な弱点がある。左腕の欠損による手数の少なさ。それゆえに右手で大鎌を振るいながら左手で魂を出して魔法を使うといったことが出来ない。それに気づいていないわけがない。彼女は絶対にそこをついてくるだろう。


「お互いに牽制と様子見ばかりでジリ貧ね。そろそろ魔力が少なくなってきたんじゃないの?」


 私に聞こえるよう大きな声で話しかけてくる。当然、返答はすることなく無視する。下手な問答は隙を生むことになる。レイからはわからないだろうが、私は目に魔力を集めて視野化すれば相手の魔力量は見える。


 まだ魔力残量に余裕はある。最低でも、先ほどのように全力で魔力を使って《幾重鏡層砲(マルチプルバースト)》を避けることが十数度出来る程度には。

 レイが《幾重鏡層砲》を撃つために必要な魔力量はかなり多い。魔力残量の変化が目視で分かるほどに。その点、私は避けるだけだ。全力で回避行動をすればその分減りはするが、それでもやつの攻撃よりは魔力も使わない。素の魔力総量も私の方が多い。


 それでもこの町で見かけた魔法士とは明らかに魔力総量が違う。武器の丸鏡を使った攻撃に防御、回避行動の一つ一つに全く無駄な動きがない。ティエルと戦った時より余裕が生まれた分、相手の動きを観察できる。まじまじと見ていると洗練された動きに嫉妬してしまいそうだ。《六芒星(ヘキサグラム)》と呼ばれるだけのことはある。


 私から攻勢をかけてはいけない。《反射魔法》なんて明らかにカウンター狙いの固有魔法をしているのだ。撃ち放った大鎌に魔力で構成されている斬撃や《偽魂》と物理魔法関わらず反射してきている。恐らく、近接攻撃にも合わせて《反射(リフレクト)》を使ってくるだろう。


 接近すればカウンター、離れれば光線で焼き、遠距離攻撃も反射する。弱点らしいものも見つからない強力な固有魔法だ。それを相応の才能を持つ強者が固有魔法として持っているのがまた嫌らしい。


 現状を打破するためには耐えることが最適解だと考えている。右手から下手に大鎌を離せない以上、新たに《働きものの左腕(アームズ)》を召喚することはできない。町へと駆り出している7体に私の下へと戻るように帰還命令をだした。戻ってきてもらったら包囲してもらい、攻勢にでる。


 いま私がやるべきことは、レイ(あいつ)に妙な動きをさせずに、現状を維持し続けることだ。


 光線と大鎌による魔法の応酬を続けていると町の方から一際大きな音がこの場所まで響き渡る。私の場所からだと赤錆の騎士が未だに大暴れしているのが良く見える。20メートルの巨体は手に持つ錆びた剣を振り回し、魔法士の真似事のように8つの剣を浮かべては振り降ろし、突き刺し、叩き砕く。その衝撃でこちらに飛んでくる瓦礫を視界に入れることなく大鎌で叩き壊す。


「…あの呪塊は、あなたを倒せば消えてくれるのですか?」


「どうなんだろう?私にもわからない」


 実際死んだ後に《働きものの左腕》がどうなるのか私は知らない。呪縛から解放されてすぐに死んでしまうのか、それとも討伐されるまで暴れ続けるのか。どっちにしたって私には不都合はないが。


 レイは私の目をじっと見てくる。私が嘘をついているかどうか、その深奥を覗かんとしてくる。やがて何かに納得したように視線を一瞬町の方にずらすと視線を私の方へと戻す。


「そう、なら急がないといけないです、ね!」


「…?ッ!」


 悠長な攻撃ばかりだったのが突然激しくなる。レイの周りに浮かぶ鏡が私を囲うように飛んできては四方八方から光線を撃ち放つ。通り過ぎた光線が他の鏡に当たって反射し再び私を狙う。それを紙一重で避けると宙に浮く大鎌を操作して丸鏡を破壊していき、大鎌を振り回し3つの斬撃を飛ばす。


 レイはそれを反射して私の元に返しつつ新たに鏡を生み出しては私の元へと飛ばしてオールレンジ攻撃を仕掛けて来る。それだけでなく自身のそばの鏡からも光線が絶えることはなく放ち続ける。


「思えばあなた、あんなに攻撃的だったのに急に牽制ばかりになって、向かってくることがなくなりましたね。まるで何かを待っているよう」


「…」


「あなたが町中で放った《呪塊(カース)》は大型のものを含めて9体、内一体は私が倒した。…あなた、それが戻ってくるのを待っていますね」


 気づかれた。焦りが頭の中を駆け巡る。これ以上 《働きものの左腕》が戻るまでの時間稼ぎは出来ない。どうにかしてあいつを仕留める算段を考えないと。


 レイの元に続くよう階段状に大鎌を作り出して駆け降りる。このまま遠距離からがむしゃらに大鎌を放ち続けるだけでは勝てない、奴の光線の餌食になる。魔力が尽きるまで耐えることも難しそうだ。至近距離まで接近して必殺の一撃を与える、それ以外勝ち筋が見えない。


 私が接近し始めるとそこを狙うように光線が放たれる。それに負けじと大鎌を撃ち放ち弾幕を張る。相殺された光線と大鎌の破片がダイアモンドダストのように反射して輝く。


 近づくにつれて弾幕はさらに激しさを増していく。相殺しきれなかった光線が顔の横を通り過ぎていく。一瞬頬の横に熱が走る。避けきれてなかったのかうっすらと頬が切れて血がにじみ出る。唇の横にまでたどり着いた血を舐めると心なしか気が高まっていく。


 地上に降り立つと同時に光線の雨が襲いかかる。大鎌を上に掲げてぐるぐると回してかき消しながら大鎌を作り出し、空に浮かぶ鏡へと放って壊していく。降り注ぐガラス片を気にもせず一直線にレイの下へ駆け寄る。


 鏡を上に飛ばそうとするがそれを撃ち放った大鎌が制していく。制空権は絶対に取らせない。放つ斬撃も大鎌も奴を狙いはしない。下手な攻撃はただ反射されるだけで損しかない。奴が放った光線を相殺することと、鏡を破壊することにしか使わない。


 レイの作りだす丸鏡は一面しか鏡が張られていない。放った大鎌はくるくると飛んでいき、その切先を裏面に突き付けて壊す。


 大鎌を振るい光線を切り払っていく。威力を上昇させてきたのか、完全に打ち消せずに分散した光線が足元や空へと広がり焼いていく。

 あちらも私に接近されないようにと弾幕を張りながら私との距離を離していくが、それでも私の方が早い。あともう少しで喉元に噛みついてやれる、もう数メートル進めば大鎌の射程圏内に入る。


 それをレイが許すはずがなかった。やつの前に再び何重にも鏡が重ねられていく。一度見た構えだ。《幾重鏡層砲》の準備中にも関わらず周りに浮く鏡からの砲撃は止まない。いや、むしろ私を囲いこもうとしている。


「もう逃がさない!これで仕留める!」


 罠に嵌められた。が、まだ取り返しはつく。この距離ならまだ間に合う。《幾重鏡層砲》が来る前に重ねられた鏡を叩き割り、そのまま命を刈り取る。やってみせる。


 足に魔力を流して一気に駆ける。目の前に迫ってくる光線を全てすれすれで避け、追いすがってくる鏡の悉くを叩き割り、ついに大鎌の射程圏に入る。


「ふぅッ!」


 振り降ろされた大鎌を見事に幾重にも重ねられた鏡を叩き割る。さあその面を拝んでやろうと正面に向き直る。


 そこにはもう一つの《幾重鏡層砲》の土台。光が魔法陣の中心へと集まり、今にも放たれようとしている。照準の中には私の間抜け顔が無様にも映し出されていた。



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