《六芒星》の魔法士
活動報告に詳しく書いてますが、期間限定で「ネット小説大賞十」のタグを入れさせてもらってます。
門の内側から丸鏡を周囲に浮かべて私の下へと近づいてくる。風と共に血生臭い匂いが私の方までやってきて亡者のように纏わりついてきた。
顔を窺えば口元は笑みを浮かべているが目は鋭く私だけを見つめている。服装のどこをみても斬れたり破れたりしたような後はない。血の代わりに先ほど倒してきたであろう《働きものの左腕》の黒塵だけがうっすらと付着していた。
「ここまで悲惨なことになるとは思いませんでした。それもまさか呪塊の手によってではなく、魔法少女であるあなたの手によって」
「そう、残念だったね。もう行ってもいい?」
「まさか、そんなことをさせるとお思いですか?」
そう言うと手に持っている丸鏡を一つ巨大化させて彼女の背後に浮かべる。すると鏡の中に魔法陣を映し出してカッと光を放つ。その光が彼女を飲み込んでいき、姿を変えていく。
真っ黒な髪は長い総白髪に、服装も青色をベースに白と構成されていたものが反転して白をベースにしたものに。
「あの時、町中であなたを見かけた時に殺しておけばよかったですね。あの油断一つでここまで酷いことになるなんて」
「…へぇ」
彼女への警戒心をさらにワンランクあげる。どうやら《偽魂》を破ったあとらしい。ということは今彼女には本来の私の姿と皆が肩に乗っているのが見えている。彼女は私が「しぃ」であることを確信しているだろう。
「『…しぃ、良い報告と悪い報告の2つがあるのです』」
めずらしくいつもと声色の違うスイの声が聞こえる。何か切羽つまったような、とにかくまずいことが起きているのを内心察する。
「…じゃあ悪い方から」
「『彼女は《六芒星》と呼ばれる6人の魔法士の一人です。ティエル・アーディアと肩を並べるほどの存在です』」
あの魔法士と女と同じレベルの強者。つまり、いま目の前に立っている魔法士は私を殺せる力を持っているということだ。そう思うと少し身震いがする。
ティエルとの戦いを忘れる時間はひと時もなかった。それほどに強烈に私の中に残って蝕み続けている。
《六芒星》については皆から聞いたことがある。このゲームに存在する6人の強力な魔法士の総称。ティエル・アーディアもその一人である。そして、今目の前にいるこの魔法士も。
なぜ今まで分からなかったかと言うと本来の力を隠していたようだ。また、本来ならこんな場所にいる魔法士ではないのだとか。
魔力総量が多いものは見る者次第では分かる。それを隠していたのと容姿の違い、いるはずがないのにいるというイレギュラーが起こっている。しかも今の変身で魔力を全て解放した。つまりここからは全力で来るということだ。
「もう一つ、良いことは?」
「『あの魔法士、レイ・フラムハートは《六芒星》内で最弱の魔法士です、勝ち目はあるのです』」
「『逆にティエルが武闘派すぎるんだよねぇ。だから勝てなくて当然さ』」
勝ち目はある、それさえ聞ければ十分だ。逃げても追ってきて国境のやつらと挟み撃ちになるか、ティエル本人と挟み撃ちになるかのどちらかしかない。幸い、町中は《働きものの左腕》のおかげで魔法士をこちらに向ける余力はないはず。おまけにこちらにいた奴らは全滅している。
やるには今しかない。
「…その黒猫、テレパシーが出来るんですね。私への隠し事の相談は終わりましたか?」
「…一度降りてもらえる?」
「『いいよ、どうせ結界の影響で攻撃は通らないだろうしね。契約主さまの枷になるのもごめんだね~』」
「『小娘、負けるでないぞ!』」
ミカンとアカはそう言うと肩からするりと降りて少し離れたところに座る。それを見届けると彼女、レイの方へと向き直る。彼女の目、手足の動きを常に見て警戒し続ける。指先の細やかな動きにすら気を遣う。それはきっとレイも同じことをしているだろう。
「待ってくれるなんて、人間にしては優しいね」
「…?ええ、少なくともあなたより優しい自信はあります」
「そう」
短くそう返すと同時に腰を低くして大鎌を構える。狙いは彼女の魂その一点。
私の動きの変化に合わせてレイも宙に浮く五つの鏡と指先をこちらに向ける。狙いは私の命、ただ一つ。
合図なんてものはない。場の緊張が高まっていき、自然と足は彼女目掛けて走り出した。同時に真上に無数の大鎌を作り出してレイの方へと射出する。
それに呼応するように、レイの前に浮く五つの丸鏡は横一列に並んでは私へと光線を放つ。空から放たれた大鎌の雨は彼女の背後から現れた十の丸鏡から放たれる光線によってすべて相殺される。
町中を疾走する時よりも一本一本が太く、そして早い。だが反応は出来る。反応できれば対処も出来る。地面から五つの大鎌が現れそびえ立つ。放たれた光線に負けぬようその大鎌も大きさを変えて完全に受け止めきる。
大鎌が壁になり、私の姿が隠れているその隙に2つの魂を呼び出す。
「《行動強制》!内包する全魔力を持って我が大鎌をより鋭利に!」
一つ目の魂には持っている大鎌に対して全魔力を使ってもらい、より強力なものに仕立て上げてもらう。私の持つ一振りにだけ使ってもらい必殺の一撃を放てるようにする。《行動強制》によって逆らえず、渦に飲み込まれるように大鎌へと吸い込まれていって命を散らす。
「《行動強制》!内包する全魔力を持って我が体に堅牢なる障壁を!」
もう一つの魂には全ての魔力を使った防御壁を作ってもらう。いくら魔法を使えるからと言えど体がめちゃくちゃに丈夫になっているわけではない。魔力を使った身体強化に耐えられる程度には丈夫になっているが、同じ魔法士の攻撃を喰らえば血は流れるし、腕も爆ぜる。
だから防御壁を張ってもらってダメージをある程度カットしたり、致命傷を防いだり出来るようにする。《行動強制》によって命令に逆らえず魂の形を広げてゆき、やがて少しずつ薄くなって完全に鼓動は消える。
「はあああ!」
大鎌の壁越しに思い切り薙ぎ払う。その一撃は壁を綺麗に切り裂き、飛んでいく斬撃がレイを狙う。しかし命中することは叶わず、一際大きい鏡によって阻まれることになる。
「やりますね…!お返しです、《反射》!」
一度鏡の中に吸い込まれた斬撃は彼女の詠唱と同時に解放される。私が放ったものの威力と寸分たがわず、飛び交う大鎌程度であれば簡単に切り裂いていく。
それを手にもつ大鎌でいなしつつ、新たに大鎌を射出する。レイも周りに浮く鏡や指先に作った極小の鏡から光線を放つ。お互いに撃ちあう大鎌と光線で場の密度が高くなっていき、邪魔者が入ろうものならその体を斬撃と光線で穴だらけにして倒れ伏すことになるだろう。
「《偽魂》!」
「それは一度打ち破りました!《反射》!」
鏡を盾のように使って《偽魂》を跳ね返してくる。半透明な雫をしたその魔法を私は抵抗なく受け入れる。《魂魄魔法》の使い手にして魂の支配者である私には魂を介した攻撃全般に対して耐性がある。故に、跳ね返されたり、模倣されたとしても私がその影響を受けることはない。
「喰らった!?いや、意味がないのね。ならこれはどうかしら!」
冷静に状況を分析すると今度は鏡を一カ所に重なるように生み出していく。それは最初の一枚は小さくとも二枚目、三枚目と大きくなるように作られていく。
「何重にも重ねられた光線、避けないと消し炭になるわよ!《幾十鏡層砲》!」
「ッ!」
今までの比ではないほど極大で、強大な光線攻撃がレイの手元から放たれる。見れば分かる、恐ろしい程に掛け合わされた魔力の収縮砲撃、あれをまともに喰らえば防御壁を破ってそのまま死に至ることになる。さっきのように壁を作って防ぐとかそんなちゃちなことじゃあ防ぐことはおろか、威力の減衰すらしないだろう。
魔力の超全力消費、それに伴う一瞬の超高速移動で大きく横に避ける。躱すことは叶ったがその衝撃で生じる暴風が小さな体を空へと吹き飛ばす。
吹き飛ばされた体をなんとか立て直し、生み出した大鎌を空中に固定してそれに掴まって逆上がりの要領で柄の部分に乗り見下ろす。牽制がてらに撃つ大鎌は鏡に反射されわたしの真横を過ぎ去っていった。
「避けられたうえに反撃までしてくるなんて、お強いですね」
余裕そうな顔だがどこか疲労が見える。どうやら今の魔法を使うには大量の魔力を消費するようだ。私自身もだいぶ魔力を消費しているが、持久戦になるなら勝ち目はあるのかもしれない。そう思いつつ大鎌を握りしめた。




