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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第二章 欲するもの
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偽りの忠誠を掲げよ

グロ表現注意です(今更

 指先に五つの魂を呼びだす。その魂はどれも今までの魂と変わりなく淀んだ色をして蠢いている。数の暴力に対抗するには数の暴力というのは今も昔も変わらないれっきとした対処法だ。


 私が全て払いのけることも出来るかもしれない。だが、それではいけない。魔力は一応有限のものだ。全力で動いたり魔法を使ったりすれば減るし、なくなればただの少女と変わらない。


 その為の《働きものの左腕(アームズ)》だ。彼らを顕現するのに魔力は少し使うが、顕現さえすれば後は彼ら自身が持つ魔力が尽きるまで私の敵を討ち滅ぼしてくれる。


「《魂の支配者(ドミネーター)》しぃのの名において行使する!私は命を弄び魂を貶める者にして自らの死を求める者。無くした左腕に代わり、偽りの揺り籠より覚め、その身を粉にして尽くせ!《再誕(リ・バース)》!」


 指先に魔法陣が広がっていく。降り注ぐ魔法を避けながら省略された詠唱を紡ぐ。言いきると同時に魔法陣は光を放ち、五つの魂は形を成す。姿を現した《働きものの左腕》にいけと命じると私を追ってくる魔法士、魔法少女に飛び掛かっていく。


 続けて三つの魂を呼び出し再び同じように詠唱する。それらも紡ぎ切ると同時に形を作り上げていき私のそばに控える。私に代わって接近戦を仕掛けて来るものに巨腕を振り降ろしていく。


 8体の《働きものの左腕》たちは皆ほぼ同じ姿形をしている。獣と人の特徴を合わせ持っており、顔の部分は人のようだが耳や頭頂部には獣のような耳や羽を生やしている。手先足先は鋭い爪で構成されていて、図体も人間の数倍は大きい。踏み込めば魔法士同様に素早く力強く動き、壁を這い、爪で斬り裂いていく。全身は青黒く染まっており、蠢くたびに塵のようなものが舞い散る。


 彼らの中で唯一の違いは体に空いている穴の場所。ぽっかりとそこだけが開いていて向こう側の景色が見えそうだ。それは胸元だったり腹部だったり足だったり、顔に穴が開いている個体もあった。


 増えた手勢によって、チェイスはさらに混沌としていった。私を追っていた者らは5体の《働きもの左腕》の手によって散り散りにされ、一人、二人と私から離れていくか、命を落とすことになる。


 私のそばに控える3体の《働きものの左腕》たちは私の周りを回る大鎌よりも立体的に、かつ高速的に降りしきる魔法や武器を撃ち落としていき、近づくものは振り払っていく。優秀なボディガードだ。


 ふと屋根の上から下の方を見下ろすと、人間の集団が足早に進んでいくのが見える。老若男女問わず皆一様に同じ方向へと向かっている。


「『あれは広場に向かっている集団です。《働きものの左腕(赤錆の騎士)》が中心部で暴れまわっているですので慌てて避難をしているのですね』」


「『ちょうどいいじゃん!あそこから一人かっぱらって人質にしちゃおう!』」


「人質?わかった」


 屋根瓦をすべるように落ちていくと、ちょうど避難している人間の顔を踏みつけるように降り立つ。


「うわぁ!だ、誰だ!」


「あなたは持ち運びにくそうだからいらない」


 そう言うと無慈悲に大鎌を振り下ろす。一瞬のうちに両断され、裂けて道へと倒れ込む。何が起こったかわからない。誰もが思考を止め、辺り一帯は静寂に満ちる。しかしそれは誰かがあげた甲高い悲鳴によってかき消され、パニックは広がっていく。


「逃げろ!逃げろ!」


「やめ、押すな馬鹿野郎!俺だって死にたかねぇ!」


「ニック!ニックはどこ!?私の子はどこ!?」


「あなたもうるさいから死んで」


 落ち着いた清流は一気に激流へと変貌する。人間があげる悲鳴や怒声のコンビネーションはこの場所に地獄絵図を生み出していく。


 目の前の人間を手に持つ大鎌や回りを飛ぶ大鎌で斬り伏せてゆき、《働きものの左腕》たちがその爪で肉を抉り骨を断っていくと川の中で光る宝石の原石のようにちょうどいい人間が見つかる。私より小さくて、腕の細い髪を伸ばした女の子。


「お前が、ちょうどいい」


「ヒッ!やぁ、やだ、やだ!やだ!誰か、助けて!」


「『舌を引っこ抜けば黙ってくれるよぉ』」


「うん」


 アドバイスに従って容赦なく叫ぶ口に手を突っ込む。グニと柔らかいものを指先で掴むと勢いよく引っこ抜く。女の子は激痛で顔を歪ませ、悲鳴にならない叫びをあげ唾と共に血を吐き出して口元を汚していく。


 その姿を見てやがて静かになるだろうと満足すると後ろを振り向き追っ手の様子を窺う。間に合わなかったかと悔しそうに歯を噛みしめてこちらに向かって一直線に来る。


 それを見るやいなや女の子の襟首を掴んで走り出す。攻撃や防御のほとんどは《働きものの左腕》に任せて、周りを飛ぶ大鎌を操作して最低限の防御行動をする。


 人質を持って逃げ始めると明らかに攻撃してくることがなくなった。鏡を使った光線攻撃もしてこない。代わりに少しずつ集まり始めた魔法士らが私を囲うように陣を組み始めているのがわかる。手は一切出してこず、心中の激情を押さえつけて冷静に立ち回ろうとしている。


 そうして走り続けているうちに国境に近い方の門にたどり着いた。門の前は案の定、多人数の魔法士が待ち構えている。


「詠唱開始!ぶちかませ!」


 隊長らしき人間の号令を合図に3列に並ぶ魔法士たちが一斉に口を開く。掴んでいる女の子を目の前に掲げるが少しひるんだ様子を見せるだけで魔法を撃つことに躊躇いはなさそうだ。


「じゃあ、もういらない」


 一度右手を後ろに引いてゴウッと勢いよく女の子を投げつける。無様に回転しながら投げつけられた女の子は魔法が放たれるよりも早く到達し一人ノックダウンさせる。しかしそれだけでは詠唱は止まらない。


「周りの奴らはお願い」


 3体の《働きものの左腕》にそう言うと一体は後ろに、他の二体はそれぞれ左右にいる魔法士の方へと飛び出していく。


 同時に奴らの魔法が飛んでくる。岩や氷の弾丸に炎の槍、風の刃、バチバチとはじける雷球。それらが一斉に降り注ぐ。様々な魔法が相乗し、通常よりも大きく、さらに早く、鋭く私目掛けて飛来する。


 同時に左右から魔法陣が現れ、先端に棘の付いた鎖が手足を狙って一直線に迫りくる。足元にも現れた魔法陣が光を放ち、次の瞬間踏み込んだ右足がつるりと滑り、勢い余って宙に浮く。


 打つ手はもうない、必死だ。誰もがそう思っただろう。


「しっかり捕まって!」


「『ああ!わかったぞ小娘!』」


 女の子を離した手から大鎌を生み出し地面に叩きつける。その衝撃で土煙が周囲を覆い隠し、同時に衝撃で対空時間が延びる。空中で体制を立て直し、大鎌を無数に作り出す。

 一射目で飛んでくる魔法を全て迎撃し、二射目を橋のように配置して一直線に飛ばす。その上を大鎌が飛ぶ速度よりも速く飛び移り一気に門へと詰めていく。当然その速度に鎖は付いてこれず虚しく空を絡めとる。


「な、あ!?」


「《付与(エンチャント)》、《魂奪(我が鎌を魂を奪う)》」


 眼前まで一瞬で詰められ、驚愕する隊長らしき男の顔を拝見する。口はパクパクと魚のように開いて目は私を化け物のように見ている。それを一瞥すると大鎌で顔を薙ぎ払った。


 ばたりと体は倒れ、脳髄がぶちまけられる。続いて周りを飛ぶ大鎌のサイズを元に戻し、一気に場を蹂躙する。逃げる者の背中を斬り、錯乱する者の腹を抉り、蛮勇にも飛び掛かってくる者の剣を叩き折り腕を切断する。


 土煙が完全に晴れ渡る頃には門の入り口には血の絨毯がこさえられていて、その中心を私は進んで町から出ていった。


「肩慣らしにはなった」


「『出会った頃に比べて大分動けるようになったではないか、小娘。感心したぞ』」


「ありがと」


「『主よ、魔力はまだ余裕だな。体が温まっているうちにいくぞ』」


「うん」


 返事をして足を動かす。今の一戦で緊張が和らいだのだろうか、こころなしか軽快に足が動くように感じる。


 だがいいことだけではない。後ろから迫ってくる気配、同時に魔力の高まりを感じる。サッと身を翻して避けると光線が横をすり抜けていく。


「…へぇ、倒してきたんだ」


「苦労はしましたけどね」


 見上げるとそこには、《反射魔法》の使い手たる魔法士の女性が立っていた。



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