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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第二章 欲するもの
25/32

《働きものの左腕》



×××××



 真ッ暗だ。どンなに手を伸ばシてもその先には何もナイ。


 泥沼の中デずっと空を掴んでもがき続けていル。拳を突キ出した姿勢のマま四肢は動かない。


 動かそうにもギシギシとナリ響いて拘束を強めていく。


 そんなナか、悪夢ヲ見続ける。


 私の部下が皆死ンデいく。


 胸を貫かれ、上半身と下半身を分かたれて、バタリ、バタリと倒レていく。


 体カラ溢れる血は全ブ私の元に流れ込んできて叫ビ訴エテクル。


 イタイ、クルシイ、ツライ、アツイ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ。


 不甲斐ないワタシを許してくれ。ヨワイ私ヲユルシテクレ。


 ウマレカワッテ、アノバケモノヲウチタオス。


 カミ様はチャンスをクレタヨ。ワタシノ怨敵ハソコニイルト囁イテクレル。


「目を開いて。そこにあなたの敵はいるよ」



×××××



 人気のない裏通りを歩いて時計台を目指す。街灯は既に照明を潜め、暁の光が町を包む。今の時刻は5時を少し過ぎるころ。時間はまだ余裕がある。


 拠点にしていた空き家を出る前に念入りにともう一度私の魔力波長を変え、人通りが少ないとはいえ定期的に《偽魂》を使うのは忘れない。魔力の節約のため対象範囲は狭くなっているがやらないよりはましなはずだ。それに魔法を全般的に使い慣れてきて魔力漏れや残滓を残すようなことは少なくなってきている。以前より情報戦に耐性が付いてきていた。


「『そこを左に曲がったら表通りに出る。イレギュラーが起こらない限り今その先に巡回の目はない』」


「わかった」


 移動は素早く、静かに。決して油断はしないように警戒は怠らない。自分の魔法を絶対だと驕ってはいけない。


 大鎌はいつでも構えられるように常に右手は開いて歩く。魔法は使っても油断せずに他の魔法士の魔力を探る。


 感情に素直に従ってはいけない。怯えるな、恐れるな、憤怒するな、憎悪するな。爆発した感情は制御を失ってイレギュラーを引き起こす。ただ自分の願いの為だけに動く。自分の死だけを想い続ける。


 表通りを歩く距離は最短に、時計台の元までたどり着く。その時計を見てみると5時半になる少し前と予定通りの時間だ。


「『さあ、始めるですよ』」


「うん」


「『久しぶりのお祭りだねぇ!』」


 改造の済んだ魂を指先から呼び出す。どす黒く変色したそれはプルプルと震えて今にもはじけ飛んでいきそうだ。


 手のひらの上に浮かぶ魂を地に降ろすと同時に足元に紫色の魔法陣が広がる。さらにそれだけでは飽き足らず道をを食い破って私を囲い守護するように大鎌――というには手のひらサイズだが――が現れ周りをぐるぐると飛び始める。


 私が詠唱をする間、無防備になるのを防ぐための強引な手段ではある。もしかしたら私や皆が気付かなかった敵が隠れているかもしれない。その攻撃を防ぐための対策だ。


 口を開き息を吸い始めようとしたその時、どこからともなく炎の矢が飛来する。私を中心に回転し続ける大鎌はその矢へと矛先を向け見事に防ぐ。


 矢の飛んできた方向を視認すると屋根の上に人間がいることに気付く。どうやら追われていたらしい。弓を真っすぐに構えこちらを見据えている。第一射が防がれたのを見るとすぐに炎の矢を作ってつがえて二射目、三射目と撃ち放つ。

 放たれた矢の悉くが撃墜されたのを見届ける必要はない。仲間を呼んでいようが既に詠唱は始まっている。


「…《魂の支配者(ドミネーター)》しぃのの名において行使する。私は命を弄び魂を貶める者にして自らの死を求める者。されど追い求める死への道は遠く、光は海の底へ沈みゆく。無くした左腕に代わり、偽りの揺り籠より覚め、その身を粉にして尽くせ!《再誕(リ・バース)》!」


 以前の不完全な詠唱とは違う完全な詠唱。紡ぎ切ると同時に魔法陣は一際強く輝きを増す。


 瞬間、その魂は剣のような姿に代わり地面に突き刺さる。その割れ目から真っ黒な黒煙が噴き出して剣を包み込んでいく。完全に見えなくなると上へ上へと黒煙は登っていき形を成していく。


 完全に形を成すと風船のように膨張していって爆ぜる。黒煙が晴れ渡っていくと、20メートルを超える赤錆色の騎士が剣を地面に突き立てた。


 2日前、魂の改造作業をしている時にアカが言った。いつまでも自分の作品を化け物と呼び続けるのは風情がない。私の作り上げる化け物は私の左腕の代わりに動く。《働きものの左腕(アームズ)》、そう名付けられた。


「『迸るような魔力だ…小娘、良いものを作るではないか』」


「そう?ありがと」


 ふと私を妨害していた魔法士の姿を見やる。援護に来たのか周りの魔法士の人数は増えている。しかし突然時計台に現れた《働きものの左腕》に驚いているのか動きを止め愕然としている。


 私もこのままここで棒立ちというわけにはいかない。控えている赤錆の騎士に蹂躙するように命じる。


「目を開いて、そこにあなたの敵はいるよ」


 そう言うと頭にかかる靄が晴れ渡ったのか突き刺していた剣を抜くと低い声で咆哮し魔法士たちに飛び掛かる。


「く、くるぞ!」


「くそ、なんなんだあれは!?何を呼び出したんだ!?」


「まさか《呪塊(カース)》を呼び出したんじゃ!?そんなことができるのか!?」


 魔法士を狙って振り降ろされた錆びた剣は舗装された道や周辺の家を斬る、というよりは叩き砕く。言わずもがな赤錆の騎士が20メートルの大きさを持つのに比例して剣も巨大だ。そこらの家なんかは造作もなく崩れさる。そこに住んでいた人は既に死んでいることだろう。


 その倒壊音と衝撃で周辺のものらは異常に気付くはず。それはだんだんと拡散していき、町の中はパニックに陥ることだろう。


「すごい」


「『我らもここを離れるですよ』」


 そう言われて飛来する魔法を弾き飛ばしながら時計台周辺から離脱する。魔力の反応的に何人か追ってきているようだ。後ろからたびたび放たれる魔法を迎撃するために一瞬だけ振り向いて位置を確認すると私の直線状に魔法陣を設置し、空中に人数分の大鎌を作り出して打ち放つ。


 追ってくるものの気配が三つから二つに減る。大鎌が当たったわけではない。ただ大鎌を避けた時に私と直線状の道にシフトしてしまった魔法士が魔法陣に仕掛けられた《衝魂》に引っかかり意識をシャットダウンさせた。


 しかし敵も一筋縄ではいかないらしい。後ろから迫る気配に反応してさっと横に避けると私が放ったはずの大鎌が打ち返されてくる。ちらりと後ろを見ると装飾華美な丸鏡を構えている。どうやらあれに跳ね返されたようだ。


「『あの魔法士の固有魔法は《反射魔法》だ。下手な攻撃であれば返されるぞ』」


「わかった」


 一度魔法を拝見すればあとは皆が種を明かしてくれる。固有魔法の分からん殺し、初見殺しは私にはほぼ効かない。


「『ねぇねぇあの魔法士さ、昨日ぶつかった魔法少女と一緒にいたやつじゃない?』」


「そうなの?覚えてないや」


 尻目に顔を見るが全く覚えがない。一個人には興味がないから覚えないのも当然だが。


 そうして町を走り抜けていくうちに私を追うものが増え始める。《働きものの左腕》に応戦している者の方が多いようだが、それでも私を追ってくるものはいる。NPCに限らずプレイヤーでも追ってきている者がいる。事情をしっかりと把握はしていないようだが緊急だということは分かっているのか、それぞれの顔には鬼気迫るものがある。


 私も上を取られないように表通りから屋根上へと逃走経路を変更し、追ってくるものには大鎌を放ち、待ち伏せる者は一合の後に切り伏せるか逃げるかする。少しずつ人が密集してきたらそこへ向けて《偽魂》を放ち攪乱する。


 飛来してくる剣や槍、矢、水や氷と言った魔法には周辺を結界のように飛び続ける大鎌が防いでいくので攻撃と逃走に専念することができる。


 だが、《反射魔法》の使い手はなかなか厄介だ。私が攻撃すれば反射してくだろうし、しなければ彼女の周りに浮く鏡から光線が放たれる。


 逃げきることに関しては問題なさそうだが国境用の魔力が持たないかもしれない。


 とするとそのための手段は使っていかないといけない。まだ出していない《働きものの左腕》を放出することだ。そう考えると行動は早く、大鎌を一度投擲し指先に一つずつ魂を呼び出した。


紅茶と和菓子がよく合うんじゃ~(モグモグ

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