人を隠すなら町の中
昼夜逆転してきてる…。
生活リズムを戻さなければ…
移動と休憩と作業の4日間。ただそう聞いただけならとても退屈な日々としか感想は出てこないだろう。でも中身は充実した日々であったのは間違いない。
追い風だったのもあり移動はスムーズに進んで、休憩中は《操魂》で魂を改造しながらお喋りして色々教わる。時々ノイズがやってきたら斬って捨てていく。夜はまた作業しながらお喋りして眠りにつく。以前では考えられない充実ぶりだ。
充実した日々は朗報を呼び寄せる。昨日の夜久しぶりに呪塊の集団と遭遇した。スーパーやコンビニで売っているようなお菓子の小箱をミノムシのように無数に身に纏ったナメクジのようなやつだ。
眠っている最中にガサガサと音をたてて起こされたものだから徹底的に切り刻んでやろうと考えていたのだが、アカを肩に乗せてその呪塊たちに接近したら急にブルリと震えてその場に立ち止まってしまう。何事かと思ったら今度はその身を極限まで平たくして平服してくる。するとアカは「『ああ、そういうことか』」と言って納得していた。
どうやら皆のことをただの猫だと思って近づいてみたら私のリボン越しに繋がっている契約の魔力で大呪塊だということに気付いたらしい。それで社長に媚を売る平社員のように平服、もとい土下座をしたのだと。
扱いをどうするか聞くと、この呪塊たちを通して私らの存在を他の呪塊に広めさせるとのこと。私を味方認定して決して手を出さないように。なんなら命令を聞くようにと。おかげで呪塊と戦う機会はなくなりそうだ。それどころか貴重な戦力が手に入った。
「『もうすぐ森をでるぞ』」
「うん」
今日の昼前には森を出て草原に着く予定だ。私が最初に転移された草原とはまた別の名前があるらしいが興味がなかったので覚えていない。
森を出たらそのまま国境へ直行する、というわけにはいかない。国境に一番近い町へ潜入して一晩身を隠す。原因は私の魂の改造がまだ終わっていないからだ。強行突破も出来るという見解だが万全を期していった方がいいと結論が出た。
それにティエルが追いつくまでまだ時間があるらしい。ならばしっかりと準備をさせてもらおう。
「『町でやることはそれ以外にもある』」
「そうなの?」
「『ああ、潜伏ばかりではいかん、ひと騒ぎ起こすのだ』」
「なんで?」
「『1つ目は慣らしが目的だ。国境に行く前に体を温めておいた方がいいだろう。もう一つは国境の手を少しでも薄くさせることが目的だ。そのためにいま作業をさせているだろう?』」
「国境用だけじゃなかったんだ。まあ一日あったら全部終わるから大丈夫」
×××××
「次の方、どうぞ」
門の前に並ぶ長い待機列がまた一つ進んでいく。並ぶ者は町を渡る行商人や正規の魔法士、中には首都からやってきたプレイヤーの姿もある。町に入るにはこの門と、反対の門の2カ所しかない。長い列を並んで町に入るのはどこに行っても恒例行事だ。皆諦めて最後列へと並んでいく。
周辺には首都から派遣されてきた魔法士、魔法少女が門を守護していたり、辺り一帯を徘徊して常に呪塊の接近を警戒している。
「荷物の中身と町に来た目的をお願いします」
「荷物はこの袋の中に入っている食料だけ。町には観光で来た」
そう言って黒いローブの少女は薄茶色の小袋を門番に渡す。一人はその中を見ると「こちらはおかえしします」とすぐに返してくれる。もう一人は手元の紙にすらすらと何かを書き込んでいる。
「魔法士の方でございますね?最後にこの魔道具に魔力を流してもらえないでしょうか?」
そう言うと懐に吊るしてあった棒のようなものを寄こしてくる。特に抵抗なくその魔道具に魔力を注ぐとぽいと投げて返す。
「…少々お待ちください」
いそいそと近くの小屋へと入っていく。何をやっているかまでは分からないが耳に魔力を流して聴力を強化してみると「問題ない」という声が聞えてくる。
「…はい、すみませんおまたせしました。お通りいただいて大丈夫です」
一礼すると町の中へ入ってもよいと促してくる。敬礼する彼を尻目にすごすごと通っていった。
「…思ったより簡単だった」
「『そりゃあね、契約主さまの固有魔法ってそういうの向いてるしねぇ。成功してあたり前さ』」
いつの間にか肩にミカンが乗っている。否、最初から乗っていた。
まず最初に、私は一度も変身を解除などしていない。彼らが勝手にそう見えていただけだ。《偽魂》を列の最後方に並んだと同時に雫が水面へと落ちて出来た波紋のように静かに、かつ広域にかけていった。あとは私の後ろに人間が来るたびに同じことの繰り返し。
町の中に入れると油断していた奴らはあっさりと効果を受けた。誰一人として違和感を感じなかっただろう。私の姿は黒いローブのものに、皆の姿は認識すらできない。私の姿絵が行き届いていようと真実の姿を認識できなければ意味はない。
魔力測定があることは皆が知っていた。魔力を持つ人は皆それぞれ違った波長のようなものがあるらしい。私はその波長をティエルとの戦闘で放出された魔力の残滓から知られてしまったようだ。私の波長データは国内全域の町に、もしかしたら外国にまで行きわたっていると皆は考えたらしい。
波長を変えることは出来ない。それは生まれつき決まったものだから。それがこのゲーム内での常識だ。
しかし《魂魄魔法》の使い手たる私は話が別だ。することは単純明快、自らの魂を改造して波長を弄るだけ。右手を胸元に添えて自分の魂を引き寄せてちょいっと弄れば魔力の波長は完全に別人。だから魔力測定も無事突破できたというけだ。
「この後は家探しだっけ?」
「『そうです。空き家があればそこを、なければ宿をとる。最終手段は強奪ですね』」
「ん」
一晩安全に魂の改造作業をするためには最低でも拠点が欲しい。路地裏で一晩じゃだめなのかと聞いたらならず者の処理が面倒くさいのと、表通りには巡回が回っているからやめた方がいいらしい。
右へ左へと町を散策していく。一定間隔で《偽魂》を使うのは忘れない。魔力の波長は変えようとも姿は魔法少女のままなのだ。
それにしても、現実ではあまり見かけない建築様式で少し新鮮な気持ちだ。家の形、舗装された道路、一定間隔で置かれている街灯。どれもこれもレトロチックで見てておもしろい。
ただ、少し気持ち悪い。こうして風景ばかりを気にしていないとどこを見ても人ばかりでくらくらする。常に他の魔法士の魔力を探知しようとしているせいで余計に認識範囲が広がっていて脳がこんがらがりそうになる。
今は大鎌を持っていないが前から人が向かってくるたびに反射的に作り出して斬りかかりそうになる。このゲームが始まってからほぼ交流せずに殺してばかりだったからと自分では思っている。元より人間相手にまともにお喋りをするわけはないが。
表通りに出て人の波を縫うように進んでいく。一度拠点探しは切り上げて私の食料補給だ。パンはまだあるがいつ尽きるか分からない。これから先町に入ることすら出来なくなるかもしれない。なのでここで買い込んでおこうというわけだ。
飲み水は遺跡から持ってきていた魔道具《命の杯》があるから問題ない。全く役に立たないものだと思っていたけどこうして逃避行を続けることになった以上大躍進だ。
買い物をするお金は道中に殺した人間らが持っていたのを拝借した。死人にお金はいらないだろう、拝借しても問題ない。三途の川の渡し賃すら残してやらない。
まあ、三途の川へ向かおうにもその魂は私が捕らえているのでそもそもいけないのだが。
「わっ」
油断して前からやってきた人間に体をぶつけてしまう。これまでずっとそうならないように細心の注意を払っていたのに情けない。
「…」
「あ、ええっと…すみません」
面倒くさいのはぶつかれば否応なく言葉を交わすことになるからだ。それだけで時間は無駄になるし、何より不快な気分になる。こちらからは何も言葉を交わすことなく素っ気なく立ち去る。ぶつかった奴はもう一人とこちらを見ているようだが訝しんでいる様子はない。
「『今の魔法少女はプレイヤーか。小娘、《偽魂》はかけていたな?』」
「だね。あと、魔法は大丈夫」
ぶつかったと同時に反射的に使っている。その点は抜かりない。
「でもなんか妙な感じ」
魔法少女なら私の魔力探知の範囲に入ればすぐにわかるはずなのにぶつかる寸前まで近づかれてようやく反応した。後は服装がそれっぽいなとはぶつかった時に思った。
「『潜在魔力の少ない魔法少女だったのだろう。ああいうのは才なしと呼ばれている。要は木っ端だ』」
ならば気にする必要はないかと切り替える。色々見ながら買い物をしていると空は茜色に染まりつつあった。
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