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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第一章 求めるもの
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崩落する海中遺跡

もう一本!

 猫へと姿を変えた呪塊をお腹の辺りまで抱き上げる。しばらくは《傲慢》が「『シャーッ!』」と声を上げて抗議をしていた。一通り怒り終えたのかいきなり鳴りを潜めると声色を変えて声をかけてくる。


「『…はあ、まさかこのような姿になるとはな…期待はしていなかったが…』」


 いつの間にか入れ替わったのか《諦念》の声がする。顔を覗き込むと朱色の混ざった金眼だったのがターコイズのような色合いの混ざったものに変わっている。意図したわけではないが目の色で見分けがつくのは分かりやすくていい。


「動きやすいからいいでしょ?」


 実際かなりコンパクトになった。この大きさなら人間にもそうそう見つからないはずだ。そもそも問題だったのは動きやすさと巨体ゆえの見敵率の高さだ。呪塊特有の気配は結界の力で強く感じられない。他の魔法少女が周りにいてもあまり近づかれすぎなければ大丈夫だろう。

 実際私も部屋に入って結界付近に近づくまで呪塊の気配だと分からなかった。何か恐ろしいものがいるという漠然とした感覚が部屋へと通じる通路にあふれ出ていた。あれは呪塊の気配ではない別物だったのだと今なら分かる。


「『愛玩動物にされるなんてねぇ。我らもびっくりしたよ。まあ《傲慢》みたいに怒るなんてことはしないけどね』」


「『《同調》、いまはそうやって煽るのは止めるのですよ。…さて契約者しぃよ、早速だが外に出るのですよ。あまり時間もないのですよ』」


 金眼に混じる色がオレンジへ、さらに緑へと目まぐるしく変わる。《同調》が言葉を続けようとすると途端、先ほどの爆風にも似た衝撃が部屋の中を包む。


「『…始まりましたのですよ』」


「なにが起こっているの?」


「『この遺跡が崩壊を始めたのです。我らは魔法で定期的に位置情報を確認されていたのです。もし特定の位置からずれていればすぐにでも自壊を始める、そういう設定になっているのです』」


「…ここ、壊れるの?」


「『そうだ!さっさと転移魔法陣へと向かうぞ!特別に案内してやろう、この我らが直々にだ光栄に思え!取り合えず部屋を出ろ!』」


 《傲慢》の号令と同時に魂を前に先導させて走り出す。重厚な扉を蹴り飛ばし部屋を飛び出した。


「…あれ?」


 さっき通った時のように荒れ狂う魔力の嵐に襲われない。一度通った場所だから大丈夫だろうとは漠然と考えていたが身体に全く異常を感じない。


「『ここに張り巡らされていた魔法の動力はあの部屋の結晶だ。あれが破壊された時点でもうここでは何も起こらぬよ。お前が気にすることはない、そんな下らぬことよりこの先分かれ道を左だ』」


 どうやら私が勝手知らぬうちに解決していたようだ。なら気にする必要はないと《傲慢》の指示に身を委ねる。


「ここが壊れるまでどれくらい時間あるの?」


「『そうですね…思ったより余裕はありそうです。少し寄り道をするですよ、道は同じですから問題ないです』」


 他の頭たちも異論はないらしく、そのまま道なりに走り続けていく。時折《傲慢》と《同調》が口論になりかけたり、揺れの影響で生じた通路を塞ぐ落石の山を破壊したりしていると「『ここです』」と言われその部屋の前で足を止める。壊れた扉の残骸を飛び越えて入るとそこはあの魔道具(リボン)を見つけた部屋だった。


「何をすればいいの?」


「『ここに来る理由は一つしかないのです。残っている魔道具を出来る限り多く回収し、出来なかった分は壊すのです』」


「わかった。あんまり魔道具詳しくないから分別は任せる」


 そう言うと腕から呪塊を離す。すると高く飛び跳ねてガラスケースの上に乗りちょこまかと動き始める。私はというと大鎌を振るって近くのガラスケースを片っ端から壊しては粗雑に魔道具を引っ張り出しては投げ山のように積んでいく。時々「『これを回収しろ』」と言われてはそのケースを壊して最優先で回収していく。


 最後のケースを破壊し終えて魔道具の山へと戻ると口と尻尾を器用に使って魔道具を選り好みしていた。


「『ああ、ちょうどいいタイミングですよ。選別し終えたのでこれらをしまって後は壊すのです』」


 《同調》はそう言って尻尾を指のように動かして指示してくる。言われた通りに大鎌を魔道具の山に突き立てる。その勢いでガシャリと宙を飛ぶ魔道具を両断していく。そして残った魔道具を端末の《倉庫》機能でしまっていく。


「倉庫の中一杯になっちゃったけど、あと一つ残ったのはどうする?」


「『その袋は元より入れるつもりはないのですよ。腰の辺りにぶら下げておくのです』」


 言われるがままに大鎌を手放し右手をせわしなく動かして結びつける。薄い茶色をした小袋は私の服装とは世界観がかけ離れていて浮いているように思えた。


「『まだ少し余裕があるのです。食料庫に行きますよ』」


「『なんで食料庫にいくのぉ?我らは食事を必要としないでしょぉ?もしかして《平等》バカになった?』」


「『バカはお前だ《同調》、人間は生命活動に食事が必要だ。このゲームの中でも何日も飲食をしなければ餓死する。全く面倒くさい仕様だ』」


「…取り合えず、食料庫に行けばいいんだね」


 口々に言い合う呪塊を肩に乗せて右手で軽く支えながら走り抜ける。正直左腕が不自由なせいでお腹の辺りで抱えて走るのは辛かった。おまけに体制的にとても走りづらかった。

 揺れは少しずつ大きくなってきており、時々石レンガやトーチが降り注ぎ、遠くからは何か倒れたような鈍い音を響かせていた。


「たしかこの辺に…」


「『主よそこだ、その塞いでいる柱を壊せばすぐだ』」


 《諦念》が尻尾を使って指さすように石柱へと向けるのを横目に一度呪塊の体から手を離し大鎌を構える。


「捕まってて」


 スゥッと息を吸い込み右足を踏みしめ、走り幅跳びのように石柱へと飛びつく。間合いに入ったところで縦に一閃、地に付けた左足を軸にさらに横に一閃。一瞬のうちに行われた2回の斬撃は石柱にはオーバーキルだったようで瞬きの間に砂塵へと帰した。


「…ふぅ」


「『しぃ、その腰の小袋はあなたの端末の《倉庫》とほぼ同じ機能を持っているのです。とりあえず限界まで詰めておきなさい』」


「わかった」


 右手を腰の小袋に添えて一度外す。片方の紐を私が、もう片方を今主導権を握っている《傲慢》に口でくわえてもらってめい一杯に広げる。それからはまた作業だ。見える範囲のパンや缶詰を右手いっぱいに掴んで不器用に小袋に入れていく。呪塊はそれを見ているだけでなく、時々私が落としたパンを背でキャッチしては尻尾で器用に入れていった。


「『…そろそろ時間じゃないの?揺れも強くなってきたし、契約主さまと一緒に生き埋めは我らゴメンなんだよねぇ』」


「でも、まだ入るけど…」


「『いや頃合いだ。撤収するぞ小娘、想定外が起こってはたまらぬわ』」


「『そうですね、ここは決して安全な場所ではないのです。食料も十分ですし、行くのですよ』」


「…分かった」


 一瞬《同調》が何かしたような違和感を感じる。ふと呪塊の顔を覗き込んでも目の色は既に緑色になっており痕跡を感じさせない。気のせい、だったのだろうか。

 疑念を払拭して小袋を足で踏みつけ紐を強く引っ張る。口の閉じた小袋をさっきと同じように要領よく結びつける。それを一度ポンと叩くと、再び呪塊を肩に乗せて導かれるように転移魔法陣へと向かっていった。



またしばらく定期的に投稿できればなぁ…とは考えています。

(最近始めたTRPGの影響でモチベあがってる…かも?)

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