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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第一章 求めるもの
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その身を変えて

…遅くなりました。

超絶久しぶりの投稿です。

 巨大な呪塊と契約したのはいいがわかりやすい変化はいまのところ感じられなかった。魔力が迸るとか、力が異様に張るとか、感覚が冴えわたるような感じもない。


「…何か変わったの?」


 目線を上に向け問う。強大な存在と契約して強力な力を手に入れる、みたいなご都合主義のような展開を望んでいたと言えば嘘ではない。


 なにも変化がなかったわけではない。リボンを通して呪塊と魔力が繋がっている感じはしている。逆に言えばそれだけだ。何か特別なことが出来そうな感覚は全くない。


「『いいや、確かに変わっているところはあるぞ。結界を見れば分かる』」


 そう言われてすぐに結界を見つめる。見た目の変化は何もない。相変わらず強固な結界が依然と存在している。

 

 視覚的な変化でない。そう考えて視点を変えてみる。契約したばかりの呪塊が虚言を吐くとは思えない。


 触れる、しかし結界をすり抜けることない。柔らかくなったとか脆くなったとか、そんな感じは全くしない。やはり私が壊すのは無理そうだった。五感的に感じられるものに変わりはなさそうだ。


 ならばと目に魔力を集中させる。ただ見ようとするのではなく魔法的な変化を探す。するとあっさりとそれは見つかった。

 ただ見るだけでは全く分からなかっただろう。結界を壊そうとしたときには呪塊と結界という二つで捉えていたものが、今はどちらも呪塊としてしか捉えられない。


「どういうこと…?」


「『気づいたようですね。我らは契約時にあなたとその魔道具を通じてこの結界の特性を改変したのですよ。簡単に言うとこの結界の所有者を我らのものにしたのです』」


「『まあ、だからといって結界を破れるわけではないんだよねぇ。結界の持つ我らを封じる特性が失われたわけじゃあないからさ。我らを封じる物を簡単に改変して解けるのであれば結界なんて作られないからねぇ。』」


「…じゃあ何をやりたかったの?」


「『はあ…さっきも言っただろう。いいか、結界を壊すのは今ではない、ここを出ることが先決なのだ!結界から出られないなら()()()()動けばいいというわけだ!』」


「そんなことできるの?」


「『出来る!出来なければやらぬわ』」


 曰く、この結界は()()()()に呪塊を封印する物。なら結界が自分たちの物になれば一歩踏み出すごとに結界も()()()()という情報を更新して共に動く、というカラクリなのだとか。


 そう懇切丁寧に《傲慢》に説明されて納得した。私自身、魔法の知識が乏しいせいで出来ること出来ないことが全く分からない。しかしこの呪塊が言うことに間違いないはないのだろう。人間の言うことよりは信用できる。


「…ところで、その姿で外に出るの?」


 遺跡から出たとしてこの巨体と行動を共にすれば目立つ。結界を破る方法を模索しつつ逃避行ををするというのは無理難題もいいところだ。


「『…うむ、もとよりこの体で動くことは諦めている』」


「何か方法はあるの?」


「『もちろんあるさ!そのために君の協力が早速必要になるけどね』」


 細めた目で私を見て《同調》は私の魂魄魔法について説明し始める。

 

 魂魄魔法は自らの魂や他者の魂に影響を与える魔法である。それは私でも知っている。今までも魂に衝撃を与えて気絶させたり、魂の形や在り方を変えて化け物を作ったこともある。


「『でもねぇ、固有魔法一つと言えど適正や得意系統も個人によって変わる。契約時の魔力から読み取った結果ね、君は適正については全く問題ないねぇ。系統的には魂を変容させる魔法が一番得意なはずさ』」


「ふうん…」


 魔法の適性が低ければ使える魔法の種類も必然と少なくなるらしい。

 炎の魔法であれば《火球(フレイム)》は使えるが《消失砲(バニシング)》が使いない様なものだ、と《同調》は言うが生憎《消失砲》がどの程度の魔法なのか私は知らない。


 魔法の得意系統というものは、使えるかどうかではなく使える魔法の中でも使いやすさと魔力の変換のしやすさになる。私が最も得意である魔法を《変容系統(シェイプ・ツリー)》とすると魂魄魔法には他に《心撃系統(クリティカル・ツリー)》という魂に直接攻撃する魔法や《生成系統(バース・ツリー)》いう疑似的に新しい魂を作り出す魔法などがあるらしい。


「そんなものがあったんだ」


 思えば知らないことだらけだ。説明書なるものを読んでいればもっと知っていることもあったのだろう。まあ、静かに死ぬつもりでこのゲームを始めたのだ。あの時の判断は間違っていない。


「『説明も終わったことですし、本題ですよ。小娘には我らの魂を弄ってもらうですよ』」


「形を変えるってこと?」


「『そうですよ。このままでは危惧した通り体が大きすぎるのですよ。なので我らの魂を弄る過程で体の大きさや形容を変えてほしいのですよ』」


「それでいいの?後で今の姿に戻せる?」


「『…そこはお前次第だ。我らはこの姿のままでいるのを一度諦めている。この姿に戻すにしろ何にしろ、お前の望む死の形にすればいい』」


「そう」


 短い返事を返して右手で結界に触れる。魂を弄るのはこれが初めてではない。一度出来たのだから出来ない道理はない。手は結界を通り抜けることはない。だが、団子のように固まっている5つの呪塊の魂は抵抗なく手のひらへと吸い込まれていく。


 それは結界越しにするりと手のひらの中に収まる。同時に呪塊の巨体と結界は収縮していき、まだ結界の感触が残っているうちに膨張していって爆ぜた。

 空間が軋むような衝撃は倒壊した石柱や結晶の残骸を根こそぎ吹き飛ばし、辺りには灰色の煙が充満する。追いかけてくるようにもう一度爆風が起こり、辺りの煙を霧散させるとそこには何も残っていない。


 ぼさぼさの髪は気にもせず、短くなった左腕で服を軽く整えると視線を手のひらにある黒色の魂へと向ける。


操魂(委ねよ)


 省略した詠唱を紡ぐと同時に右手に魔力が集まりだす。新たな器をイメージして少しずつ魔力を流していく。

 魂の形を変えようと魔力を流すたび、その残滓が飛び散っては紫色に輝いて明滅を繰り返しては消えていく。作業の片手間にふとその光景を目の端に入れると、いつか見た花火のようだと感じた。


「……」


 スッと目を細め、懐かしい情景を思い浮かべようとする。でも浮かんでくるのは楽しかった日々より辛い日々ばかり。何度も、何度も、その日々を思い出すほどに自らの弱さや無力さに苛まれ、人間への怒りと恨みばかりが募っていき、私の中の()()()は肥大化していった。


 程なくして新たな器の形が出来上がる。前回のように巨大な化け物を作るわけではなかったので使った魔力も少なく、時間もかからなかった。特に変わった様子もなく、魂が手の上で暗い光を放ち続けていた。


 そっと魂を手から降ろすと床から50センチほどの高さで浮かび上がる。降ろした手を魂の方へと向けて歌うように唱える。


「契約主『しぃ』の名において行使する。汝は私の手足にして私の死の象徴、新生されたその身を暗闇から私の元へ。偽りの揺り籠を破り、私の声に応えよ。《再誕(リーイン)・転生(カーネーション)》!」


 最後の一節と共に展開された幾重もの魔法陣から光があふれ出す。呪塊の魂を中心に周りにいくつもの光が生まれては吸収されていく。少しずつ集まる光が形を作っていく。最後にどこからともなく「『グオオオオオ!』」と咆哮を轟かせて光が一段強く輝くと、魔法陣は急速に光を失っていく。そして完全に光が収まった時その上に姿を現した。





 ちょこんとお座りをした黒猫が。


「『…どうやら上手くいったようだな。…だがしかし、この姿はなんだ!?まさかこのような愛玩動物の姿に変えるとは…!』」


 自らの体の変化に早速気づいたのか変わらずに朱色の混じった金色に光る瞳をこちらに向けて《傲慢》が怒鳴り始める。先ほどまでの雄大な姿とは一転し、毛を逆立てて怒る姿に今は愛嬌というものを感じる。足早に近づいて座り込み、その姿をじっと見つめる。


 真っ黒な毛に海蛇(ヒュドラ)の時と変わらない金色の瞳、ふんわりとした耳、そしてゆらゆらと揺れる5つの尻尾。足元と尻尾の先端部は白い毛が覆っており、尻尾の部分は龍の頭のようだ。


 すっと右手を差し出して背中を撫でようとすると硬いものに阻まれて触れることが出来なかった。恐らく結界のせいだろう。


 結界にも手を出そうとはした。だが、あまりの理屈の分からなさに匙を投げることしかできなかった。もし次があったら結界を破る…か感触を変えるか挑戦してみたい。


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