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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第一章 求めるもの
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突然の果て

久々投稿です。



×××××



 暗い、暗い、暗い、暗い、暗い。


 ここはどこだろう。私は何者なのだろう。


 何を、していたんだっけ。


 私は、私は確か、悲しくて泣いていた。


 でも、なにが悲しくてないていたんだっけ。


 黒いナニカが私へと絡みついていく。


 これは…何?


 分からない。なにもワカラナイ。


 助けて。何もワカラナイ私をタスケテ。泣いているワタシをタスケテ。


 タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ。



×××××



 生まれた化け物は大きく身を震わせる。体から流れ出る泥のようなものが飛び散り、付着した木々や雑草は異形のものへと変わっていく。


「できた…」


 化け物の姿は私の思い描いた通りのものになっていた。この魂の新たな器、私の思い描く人間という存在の本来の姿。それがこの化け物。


「なんですかこいつは…まさか、呪塊!?」


 異形と化した木々は四方八方から触手を伸ばしてティエルへと襲い掛かる。


「くっ!…いえ、この程度なら!」


 ガラス棒で触手を弾き、投擲して爆破する。異形は泥のようにべちゃりと地面に叩きつけられた。しかし、化け物が杖を突き立てると泥のようなものや潰れた異形の下に魔法陣が展開される。数秒もせずに禍々しい光に飲み込まれる。光が消え去ると、そこには泥から突き出した手としか表現できないなにかが現れる。一度しならせると触手のように伸ばしてティエルへと襲い掛かった。


 大鎌の雨、無数の異形と突き出す手、倒されようと形を変え新たな異形を作る化け物。手数は圧倒的に増えたがティエルに焦りは見えなかった。すべての物事に対応しながら話しかけてくる。


「…ふむ、まさか呪塊を作るなんて、想像以上に危険分子でしたか」


「…」


「少しくらいお話してくれてもいいのでは?」


 残念ながら話す気などない、話すことがない、話をする時間がない。


 そう、時間はもうないのだ。


 大鎌を射出するのを止め、ティエルを見る。こちらを見る目が化け物へと向けられた瞬間、全速力で駆けだした。私は、逃げた。



×××××



「…逃げましたか」


 しぃが逃げた方向を一瞥し、ティエル・アーディアは化け物と対峙する。対象が少なくなったのを喜ぶべきか、一度でもこの場から逃がしたのを悔いるべきかは、ティエルには分からなかった。だが、逃げた方向が国境側ではなかったことは喜ぶべきことであった。


「さて…」


 しぃを逃がしたとは言え、やるべきことはまだある。ティエルは化け物の方へと標的を一時的に切り替える。

 大きさは目測10メートル。全身のいたるところから手を生やし、その手一つ一つに化け物と同じような大きさの杖が握られていた。容姿は巨大な少女と数種類の生物が混ざっているように見える。


 少女の姿をした呪塊をティエルは見たことがなかった。


 だが、そんなことは何も問題にならない。


 ティエルが魔将と呼ばれるのはそれ相応の強さと実績があるためだ。対呪塊の戦闘において常勝無敗を誇り、去年の遠征では他国家の魔法少女とともに『慟哭の怪鳥』とも呼ばれた大呪塊の一体を討伐することに成功している。

 彼女の戦功は対呪塊だけではない。数年前にあった国家間の戦争をティエルは自らの固有魔法である《音魔法》を巧みに使い、暗殺、敵陣の壊滅、重要人物の捕縛など、対人戦においてもその強さは発揮された。

 ティエルは間違いなく、最強の一角と呼ばれる魔法少女だった。


「《音爆(ノイズボム)》!」


 突き出されたガラス棒の先端から幾数もの魔法陣が展開され放たれていく。不可視の魔法は目前の異形の集団に着弾し無音の爆発を起こす。


 切り開かれた道を駆け化け物へと距離を詰めていく。四方八方から放たれる子供の手のような触手を容易に避けていく。始めこそ戸惑ったもののティエルにとってこれしきの数では脅威にならない。標的は化け物だけでしかなかった。


「はあ!」


 投げたガラス棒が化け物に突き刺さる。一拍して無音の爆発が巻き起こる。化け物は大きくのけ反り、叫んだ。


「アァ、イタイイタイイタイィィ!」


「! 呪塊が、言葉を…!?」


「イタイ、タスケテ、ワタシハ、アアアアア!!」


 驚きの出来事に杖から放たれた一撃に反応が数瞬遅れる。遅れただけであり、なんなく回避するが一度後方へ下がっていく。


「…ふむ、どういうこと…でしょうか?」


 呪塊と戦闘した経験は幾百あれど、言葉を発する呪塊とは遭遇したことがない。いや、そもそも呪塊に話す能力はないはずだ。意味のない叫びを繰り返し、無差別に生きるものを襲う。それが呪塊だ。なら、目の前にいる化け物はなんなのかと、ティエルは考えたが答えは浮かばなかった。

 ただ、ティエルは目の前の化け物がとても哀れに思えてきた。


 言葉を発することなく一気に化け物へと近づく。飛び交う触手は恐れるに足らず、杖から放たれる泥の砲撃を避ける。


「これで、終わりにしてあげます」


 ティエルの真横に巨大なガラス棒が虚空より生まれる。それは一直線に化け物へと放たれ、胴体を穿ち抜いた。


「ア、アア、アアアアアアアアアア!!!」


 ガラス棒は爆ぜ、悲鳴を上げながら化け物は地面へと崩れ落ちた。ボロボロと色んな箇所が岩のように崩れ落ちていき、最後になにか見えないものが砕け散ったような感覚を感じた。それが砕け散ると同時に異形共も苦しむように蠢いては爆発四散していき、遺骸で大地を黒く染めていく。


 呪塊のように、その体を黒い靄へと変えていくことはなかった。


「では、行きましょうか」


 報告することが増えましたねと少し憂鬱になりつつ、ティエルはしぃが去っていった方へ駆けだしていく。







 一時間後、ティエルが見たのは崩れ落ちた崖だった。


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