5 ようこそ裏社会へ
銀首輪のアシミットと決着をつけた俺たちは一度、仮面の彼女が宿泊しているという宿屋へ戻った。
「お、お邪魔します・・・」
「とりあえずベットにかけてくれ」
彼女にそう言われ俺はペコペコと頭を下げながら彼女と対面になるベットに腰を下ろした。
「・・・何を緊張してるんだ?」
若干呆れたような声音で聞いてくる彼女におれは目を逸らしながら答える。
「い、いやぁ、さっきはかなり見苦しいところを見せてしまいましたし・・・」
俺は数十分前のアシミット率いる奴隷商人グループとの戦闘を思い出しながら頭を抱える。
来て早々やらかした。
彼女が裏側の人間だと確証がないまま本性をあらわにしてさらには当たり前のように強奪魔法を使ってしまった。
彼女が味方かどうかわからない以上俺の危機は消えない。むしろ増える。
何とか彼女のおかげもあり奴らに殺されずにすんだが彼女の上にどんな人間がいるかで俺の生き死にが決まる。
・・・割とマジで。
「まあ、何はともあれやっと落ち着いて話ができそうだし早速本題に入ろう」
そう言って彼女は俺の方を見た。
「お前に私と一緒についてきて暗殺者になってほしい」
「・・・はい?」
え?、なに?、よく聞こえなかった。
ま、まさかそんなご都合主義な展開があるわけがない。確かに、後で情報を集めてからそういう系の集団、またはギルド的なものを探そうと思ってはいたが・・・
「ちなみに私の素顔と名前を知ったら拒否権がなくなる」
割とマジな話でした。
震える手を押さえながら俺は口を開く。
「・・・み、魅力的な誘いですが、決心がつかないといいますか何と言いますか」
突然のこと過ぎてどうしても煮え切らない感じになってしまう。
「その言い方だと前からなりたかったような感じだな?」
彼女が若干怪しそうに聞いてきて俺はギクリと肩を震わせる。
ヤバい、思ったより鋭いぞこの人・・・って今のは誰でもわかるか。
ここはできる限り本当のことを言った方がいいだろう。
目的は近くなる方がいいに決まっている。もしかしたら彼女も役に立ってくれるかもしれない。
「・・・俺、王族と貴族に殺したい奴らがいるんです」
「ほぉ・・・?」
俺の言葉に彼女は興味深そうに声を漏らす。
「えっと、風見隼人って聞いたことありますか?」
「なっ・・・!?」
彼女の仮面の下から明らかに動揺した声が漏れる。そのまま動揺した様子を隠さないで続ける。
「聞いたことあるも何も圧倒的な力で魔王をねじ伏せた勇者だぞ。おそらく知らない奴はもうこの世にはいないと言っていいだろう」
「俺は・・・そいつら勇者一行にちょっとした因縁がありまして、その風見隼人、岩天心、磯貝麻紀音、九条逸希の四人を殺そうと思っています」
俺がそう言うと彼女は黙り込んでしまった。
ヘタをすればここで俺は殺される。逃げられたとしても国家転覆の罪とかで追われる身になるだろう。
彼女がもし王国側だったらという話だが。
そう思いながら俺は彼女の動きを見る。
殺そうとするならば何かしらの動きがあるはずだ。
それから数分俺たちに重い沈黙が降りる。
・・・というかいつまで黙り込んでるの?
悩んでたりするのはわかるんだけどもう十分以上たってますよ?
「・・・あの」
「あ、すまん。今上と連絡を取っていた」
「えぇ・・・」
異世界すげぇ。
あんなテレパシーみたいなことできるんだ・・・
なんてあほなことを考えて現実逃避をしている場合ではない。
「すまないな、上にお前のことを伝えたら大層気に入ったそうだ」
「は、はぁ・・・つまりどういうことですか?」
俺が聞くと彼女は若干明るくなったような声で言った。
「お前に拒否権が完全になくなったってことだ」
つまり断れば始末すると・・・
やべっ、望んでたことのはずなのに涙が出てきそう。うれし泣きとかではなく。
「というわけで名乗っておくべきだな。私の名前はシャーネ・リクニス、シャーネと呼んでくれ」
「え?、あ、はい。俺は如月光夜って言います」
彼女は俺の名前を聞き首を傾げる。
「その名前から察するにまさか勇者たちと同じ出身だったりするのか?、それならお前の力も納得なのだが・・・」
彼女の質問に俺は苦笑いをしながら目をそらす。
この人とことん鋭いな!!
「え、ええまあ。そこでいろいろとありまして・・・詳しい事情は話せないのですがこの力もあいつらに復讐するために得た力なんです」
「なるほど、まあ仕方ないだろう。あの勇者一行は人に恨まれるようなことをしている」
「そうなんですか?」
ほんのちょっとだけ意外だ。さすがに勇者として、国王、貴族として多少の自覚があるかと思ったが案の定権力に溺れていたらしい。
まあだろうなぁとは思っていたが。
というかそっちのほうが好都合だ。始末した後のヘイトが少なくて済みそうだし。
「あいつらは前王がお亡くなりになったあと、悪政の限りを尽くした。姫は彼の企みをいち早く気づいておられたが奴らの外面や周りの目もあり姫であるあの方ですら奴を止めることができなかったんだ」
シャーネの声が若干苦しさを帯びていた。まるで自分のことのように苦しんでいる。
俺はなんとなく彼女の立場を察する。
おそらくシャーネはその姫様と何かしらの関係があるのだろう。味方的な意味で。
「・・・貴女のいる場所で力をつけたら、奴らの首に俺の刃は届きますか?」
「ああ、約束しよう。それはお前の目的でもあり、我ら教団の目的でもある」
シャーネはそう言って手を出した。
俺はそれを強く握る。
「ようこそ、こちら側へ。如月光夜、君を歓迎しよう」
こうして俺のアサシンとしての人生が幕を開けた。