3 強奪系アサシンの覚醒
数十分ほどで査定が終わりお金を受け取ってハンディマン・ショップからでた。
俺は袋の中をもう一度覗く。
中には金貨百五十枚と銀貨五十枚が入っていた。これが一体どれぐらいの価値かわからないが横にいたニネットは目を見開き査定していたおっさんは興奮気味に「S級のレアアイテムじゃねぇか!!」的なことを叫んでいたような気がする。
二人の反応からするにおそらくかなりの価値があったのだろう。
「・・・あの、この金額ってどれくらいの価値なんですか?」
俺が前を歩いていたニネットにそう聞くと彼女はかなり驚いた顔でこちらを見た後、すぐに説明してくれる。
「しいて言うならば王国で少し小さい家が買える額・・・でしょうか。値段として表すなら15500Gです。・・・つまりかなりの大金ってことですよ」
どうやらこの世界のお金の単位はゴールド(G)らしい。・・・どっかで見たような?
おそらくは金貨一枚で1000G、銀貨一枚で100Gぐらいだろう。そして王国の家・・・王国の地価を東京の一等地と同じくらいと仮定して価値としては東京に安めの一軒家を買うのと同じくらいということだろう。この世界では1Gの価値は思ったよりも相当でかいらしい。
我ながらなかなか分かりにくい例えだが・・・
しばらく歩くとニネットは振り向いて口を開く。
「・・・あのキサラギさん。少しよりたいところがあるのですがいいでしょうか?」
「え?、あ、はい」
突然の彼女の言葉に思考が追い付かず間の抜けた返しをしてしまう。
俺が答えるとニネットは方向を右に変え、スタスタと不自然な早足で森の方へと向かう。
「薬草が足りないので、ついでに取りに行こうかと」
ニネットは振り向かずにそう言った。
嫌な予感がする。彼女の状態は普通じゃない。
今まで・・・少なくとも万事屋に行くまではそんなそぶりは一度も見せなかった。
いや、思い当たる節は何個かあった。
部屋にあった大量の粗末な服、布袋と袖の血、仮面の女が言っていた言葉・・・疑わない方がおかしかった。
「・・・まさか」
「着きましたよ」
俺が呟いたとたん、ニネットは底冷えするような冷たい声でそう言った。
周りを見回すとそこは森の奥地。村なんてもう見えなかった。
どうやら俺はまんまとはめられたようだ。
「ニネットさん、何が狙いだったんですか」
後ろ姿の彼女に問う。自分でも驚くほど冷静だった。
「全部・・・と言えばいいでしょうか」
ニネットは振り向きながら答える。その顔は数分前の優しい治療術士ではなく悪魔・・・人の命など簡単に捨ててしまいそうなほど冷たく、見下した目だった。
「私の名前はアシミット・アイボリー、盗賊兼奴隷商人をしています」
彼女は最初、ニネットとしか名乗らなかった。つまり、彼女は名を隠さなければいけないような人間だったということだ。
おそらくは多くの旅人も俺と同じように落としてきたのだろう。
鉄の仮面がはがれた今、それはもう関係のない話だが。
「・・・一文無しの俺の何が欲しいんですか?」
少しでも考える時間を稼ぐためにわかりきった質問をしてみる。
「そうですねぇ、しいて言うなら全部ですかね」
「全部・・・?」
結構簡単に食いついてきたので話を続けるために問う。
「ええ、全部です。持ち物や金を全部剥いだ後、そのまま奴隷として売るんです。女なら性奴隷として、男なら労働用の使い捨てとしてね・・・まあたまに、男を処理用として買うもの好きもいますが」
正直勘弁願いたい。労働も嫌だが処理用とか冗談抜きでヤバい。このままでは復讐やアサシンどころではないだろう。
質問をしながらどう切り抜けようか考える。
アシミットのみならば身体強化もあり何とかなるだろうが、何せ武器がない。他にも仲間がいたとしたらまず勝ち目はないだろう。
「立ち話もなんです。そろそろ料理しましょうか。貴方は結構可愛いですからね・・・調教して愛玩動物にでもしましょうか?、そうすればそっち系のご令嬢が買ってくれるかもですよ?」
アシミットが今まで見たこともないような不気味な笑みを浮かべた。
するとぞろぞろと茂みから俺を囲うように武装した男が五人出てくる。
全員赤いフードを被り顔は見えない。片手斧持ちが二人、直剣が二人、長い両手杖が一人。
どうしよう、勝てる気が全くしない。
冷や汗を掻きながら息を吞む。
異世界に転生して一日もたたずにバットエンドの奴隷コースは何としてでも避けたい。
せっかくあんなクソみたいな世界に別れを告げ、尚且つ復讐も憧れも達成できる最後のチャンスなのに、ここで終わるわけにはいかない。
「・・・黙っていればすぐに終わりますし、痛くもありませんから。大人しくしててくださいね?」
アシミットがそう言って男たちが動こうとした時だった。
「・・・っ!?」
「なっ!?」
目の前にいた片手斧持ち二人が同時に倒れた。
「胸のナイフ」
二人の男が倒れた方から聞き覚えのある声が凛と響いた。
俺はあの時の胸の重みを思い出す。
「っ!、この!!」
後ろからいち早く我に返った直剣持ちの男の一人が切りかかってくる。
そこを振り向きざまに胸のポケットに入っていたナイフを鞘から抜いて重心を低く下げて薙ぎ払う。
それと同時に男の腹からナイフに向かって赤い曲線が引かれる。
「あがぁっ!?」
男は鈍い声を出しながらその場に倒れる。
「・・・油断するな」
どこからともなく聞こえたその声とともに後ろにいた直剣の男も背中から血を出して倒れた。
「クソっ!」
ニネットの隣りに立っていた両手杖の男が杖を構える。
『フレイム・ボール!!』
・・・魔法だ!
男がそれを見せた瞬間、俺は彼に向かい手を突き出していた。
そして杖の先が光ったその瞬間、力いっぱい叫んだ。
『プランダァァァ!!!』