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2 フードと仮面と疑惑

久々の温かいご飯を食べてゆっくりと息をつく。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


「いえ、喜んでもらえて何よりです」


そう言ってニネットは微笑んだ。人にこんな風にやさしくされるのはいつぶりだろう。


そういえばここ一年ぐらいは親ともまともにしゃべってなかったな・・・


「私は洗い物をしますのでキサラギさんは着替えて売るものをまとめておいてください。着替えは寝室のタンスの下から二番目の引き出しにありますから好きなのを着てくださいね」


「わかりました」


俺は二ネットの後に続くように席を立ち数十分前まで自分が寝ていた寝室に入る。それと同時に後ろからは水の音が聞こえ始めた。


「下から二番目・・・っと」


大きくて目立つタンスの前に立ち言われた通り下から二番目の引き出しを引く。中には二ネットの服と同じような草布でできた男物の服とズボンが数着、綺麗に畳まれていた。


その中から比較的落ち着いたクリーム色のような服と草色のズボンを出して着替える。


「・・・サイズは問題ないようだ」


ここでふと疑問が浮かぶ。・・・なぜ男物の服が彼女の家にごく自然にあるのだろうか、と。


父親か、それとも旦那がいるのか。治療術士と言っていたし俺のような患者などの着替えという可能性もある。


そこまで考え今は関係ないと判断し、自分の中で納得して制服や不要物(万事屋に売るもの)を整理することにした。


整理はそう長くはかからなかった。とりあえず売るものは学校の制服一式、財布とその中身、スマホ。もっていくものは胸ポケットに入っていたボールペンと手帳、おやつにと何気なく右ポケットに入れていた飴玉二つだけだ。俺は不要なものはすぐに捨てれる人間だから基本的に使えなさそうなものはすべて売ることにする。


二ネットの言い方からすると制服一式とスマホは結構高値で売れそうだ。だが一つ心配なのは値段をぼったくられることだ。この世界の物の価値を知らない以上、出された値段が正当なものかどうか俺にはわからない。ましてや値上げの交渉なんてできる自信がない。


二ネットはおそらくそういうのには詳しくないだろう。これは勘だが戦力にならないと考えて動くのが安全だと思う。


ならば、万事屋の細かい反応や表情などから噓を見抜くしかないということだ。


幸い・・・なのかどうかはわからないが長い間いじめのせいで人間不信状態になっていたおかげで人の表情やしぐさを読むのには自信がある。これを生かせば少なくとも大損だけは避けられるかもしれない。


そこまで思考を巡らせたところで後ろの扉からコンコンと軽く叩く音が聞こえて俺は扉の方を向いて軽く返事をする。


「・・・入ってもいいですか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


俺がそう言うと二ネットが扉を開けて入ってくる。


「そろそろ行こうと思って・・・キサラギさん、整理は終わりましたか?」


「はい、できれば袋などを貸していただけると嬉しいです」


「わかりました、それじゃあ・・・これを使ってください」


ニネットはそういって後ろの壁にかけてあった布袋を差し出してくれる。


「・・・ん?」


ニネットが差し出す袋をみて袋の下の方と彼女の袖に赤黒い染みがあるのを見つける。


それに目が行ったまま俺はとてつもない恐怖と寒気に襲われる。


「どうかしましたか?」


彼女の手を見たまま固まっている俺を不信に思ったのか疑念の声で俺に言った。


・・・気づいていないのだろうか。


気がつけば先ほどまでの寒気や恐怖は何かに消されたかのように何ともなくなっていた。


「いえ、ありがとうございます」


それでも違和感がぬぐい切れないまま袋を受け取り中に制服一式とスマホと財布を中に詰め込む。


「それじゃあ行きましょうか。遅くなる前に済ませたいですしね」


「はい」


そういって歩みだすニネットの後ろについて歩き出した。


改めて外に出て気づくことはこの村はそんなに大きくないということだ。


家はぱっと見で十数軒ほど、人もいないわけではないがそんなに多くはないといった印象だ。


他には・・・やけに村の男たちが俺のことを見ていることだろうか。


「着きましたよ」


そう声をかけられニネットの方を見る。目の前には英語で『ハンディマン・ショップ』と書かれた看板がかけてある家があった。確か「handymanハンディマン」とは「便利屋、万事屋」とかいう意味だったはずだ。


ニネットはその扉をノックをせずに扉を開ける。そこにはカウンターに四十代ぐらいの男と客だと思われる深緑のフード付きローブを身につけた人物が一人いた。フードで顔が隠れて見えず体つきからも性別を判断することはできない。


「お客さん連れてきたよ・・・って、先客がいたんだね」


「ああニネット。大丈夫、今終わったところだ」


カウンターに座る男がそう言ったあとフードを被った人物がこちらを振り向く。俺はその姿に言葉を失う。


そのフードの中にあるはずの顔は機械のような仮面で隠されていた。


無言でスタスタとこちらに向かってくる人物に俺は少しだけ身構える。


人物が俺のすぐ横に来た時、突如凛とした声が微かに、まるで・・・いや、確実に俺に向けた、俺だけに聞こえるようにした声で《彼女》は言った。


「・・・その女に気を付けろ」


そういって彼女は俺にわざとぶつかった。途端、胸の近くに少しだけ重みが感じられた。


触ると胸元に二十センチほどの長さの何かを入れられたようだ。


「・・・何だったんでしょうか」


ニネットが不思議そうに呟く。その顔に一切の疑いや敵意はなかった。しかし、彼女が視線をこちらに戻したせいで胸元の何かを確認することができなかった。


「不思議な客だった。別の大陸から来た旅人らしくてここに旅人や冒険者はどれぐらい来るのかということを聞いて帰ったよ」


男の言葉を聞いてニネットは一瞬、微かにピクリと肩を震わせた。


「そ、そうですか。とりあえずこのキサラギさんのものを買ってあげてください。どうやら賊に襲われたらしくて・・・持ち物を売ってお金にしたいんです」


「そうか・・・わかった。品物を見せてみろ」


俺は言われるがまま中身を取り出す。


結局それからは彼女の言葉のことで頭がいっぱいで万事屋の男の表情なんて見る余裕がなかった。

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