36 チキチキ賊振り払いレース
「確かに!、賊がたくさん出るとは聞いてたけどぉ!!!」
後ろから追ってくる屈強な男たち。正確には女も混ざっているが。
先頭に立って馬に乗り、すごいスピードでこちらに近づいて来るのは、間違いなく賊と言うにふさわしい姿をしていた。
「そこの馬車ぁ!!、死にたくなければ積荷と女を追いてけぇ!!!」
「オウキ商会の馬車は積み荷がいいからなぁ!ヒャッハー!」
いやいや、そんな叫び方普通せんだろうよ。世紀末かて
「すごい数の賊ですね」
「おじさん!、もっととばせないの!?」
「やってるっつぅの!!、お嬢ちゃん達も何とかしてくれねぇか!?」
「私遠距離攻撃できない!!」
このままでは舌を嚙んで死ぬか、奴らに捕まるかのどちらかである。
多分、アザレア先輩の相手ではないだろうが、馬車を止めて片づけるには相手が多すぎる。
非戦闘員であるアシェットとおっさんを守りながらとなるとなおさらだ
まあ、そろそろ俺もふざけるのをやめにしよう。だいぶ集まってきたし
「それじゃあ、ここは俺に任せてください」
「あ、うん」
ドヤ顔すぎた。引いてる
俺は誤魔化すように真剣な顔を作り、腰のホルスターから十五センチの杭を四本抜いた。
『しゃぁ!狙いは脳天だぁ!!!』
「テンションたけぇな」
脳内に響く深淵の叫びに苦笑いで呟く。
左手に杭を持ち、狙いを定める。
的は馬に乗り走る賊どもの腐れ頭
『アクセラレイション・ショット!!』
瞬間、手から杭は消え、前にいた男の頭が弾け飛んだ。
「それは、サファティさんの・・・?!」
どうやら知っている人だったらしい。あとで話聞いとくか。
「まだまだいくぞ!『アクセラレイション・ショット!!』」
自分でもなかなか驚くほど狙いは正確。
多少外れても肩や、乗っている馬に直撃して戦闘不能になる。
効率はかなり悪いが効果は抜群だった。
「あっ、杭が切れた」
「はぁ?!、どうすんの?!まだいっぱいいるよ!」
「心配ありませんよ・・・雷槍!!」
手から突然現れた雷の槍を全力で投げて賊を打ち落とす。
『楽しくなってきたなぁ!!』
「あぁ!!『フレイムボール!!!』」
業火の球体が直線に飛びながらまっすぐに賊を凪いだ。
「おいおいなんだ!?、化け物が乗ってんぞ!?」
少し後ろにいた賊の男が叫ぶ。
思っていた以上に危険だったということを悟ったのか前にいたやつが支持を出して訓練されたような陣形を作って馬車を囲みだす。
こう、周りに沢山いると一人ひとりしか殺せない今の俺の魔法では難しい。
あれだけドヤ顔で啖呵を切っておきながらこのザマだ。なんとも恥ずかしい。
『めんどくせぇな』
悪態をつく深淵。完全に同意だ。
「仕方ないなぁ。思いついた時点でこの手は使いたくなかったんだけど・・・」
そう言ってアザレア先輩は後ろを見る。
「ねえ、おじさん。この火薬っていくら?」
「あぁ!?、いまはそれどころじゃ」
「いいから」
有無を言わせない声におっさんは「さ、30ゴールド」と答えた。
「じゃあお買い上げってことで。アシェット、障壁の杖は?」
「持ってますよ」
「光夜、私がこれぶん投げたら、フレイムボールあれに当てて」
なんとなくやろうとしてることがわかり背筋に汗をかく。
「りょ、了解」
「フラッシュするから目ぇ瞑ってね」
俺たちにしか聞こえないギリギリの声でそう言ってアザレア先輩は懐からスクロールを出してなれた手つきで広げる。
俺たちはそれと同時に目を瞑った。
『フラッシュ』
瞼の向こう側が白く染まるのがわかった。
目を開けた瞬間、手に持っていたそこそこの大きさの火薬袋が投げられる。
それに引き寄せられるかのように目をやられた賊たちがスピードを落として下がっていく
『フレイムボール!』『オレンジシールド!』
俺の火球のギリギリを攻めるように橙の壁が目の前を覆う。
瞬間、地が揺れるほどの爆音と揺れ。
馬車が一跳ねするが、おっさんの腕がいいのか横転はしない。
壁の向こうにできた地獄絵図は、想像もしたくなかった。
「ふぅ…なんとかなった」
「と言っても、国道ぶっ飛ばしましたし、これは責任問題ですかねぇ」
「賊に被せときゃいいでしょ。イツキ・クジョウの首を取ってきてこいつがやりました〜って言えばよくない?」
「それもそうですね」
最低だった。ヤツのことは死ぬほど憎いし殺したいほど嫌いだが、これはちょっと同情する。
「おじさんごめんね。こんな方法しか思いつかなかったや。後で多めに払うよ」
アザレア先輩がそういうとおっさんは馬車を運転したままこちらを振り返る。
「あぁいいよ。護衛を任せたのはこちら側だしな。火薬代は流石に払ってほしいが、命と商品守ってもらったんだ。感謝しかないさ」
「そう言ってもらえると助かるよ〜」
アザレア先輩って意外と常識人なのかも・・・?
対応を見ていると少しだけそう思えてしまうが、その前の会話を考えるとそうでもないかもしれない。
このあとも、音に引き寄せられた魔物や仲間の賊による襲撃のなんとか回避して進む。
巨大王国跡地、カストドートまではもうすぐだ。