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35 知っている

帰ると、師匠であるシニカさんから大きなため息をつかれた。


物品倉庫に寄り、ルロイに作ってもらった杭と回復薬などの補充を行いとりあえず経緯を話すため宿舎の管理室へ来たのだが…


「そんな得物をポンポン変えたら戦い方を変わっちゃうじゃない・・・しかもよりによって日光剣だなんて・・・」


そんなの俺だって思うと内心唇を尖らせながら黙って説教を受けていた。


そう、いくら同じ剣とはいえ日本刀と西洋剣では扱い方が圧倒的に違う。


何なら違う武器と言っても過言ではないだろう。


しかも、扱い方によっては簡単に折れたり刃こぼれをする日光剣こと日本刀は遥かに高い技量が必要だった。


「確かに無期限とは言われたけど・・・明日出発ならここでゆっくりと基礎からやる時間もないじゃない」


「はい・・・」


俺が悪くないはず・・・なのだが、もっと他になかったのかと聞けなかったのは落ち度である。


「とりあえず形にしないとまともに使えないでしょうし、一度外に出て見せて」


「わかりました」


そう言って俺はシニカさんとともにあの広場へと出る。フル装備で


「まあ、まずは好きに振ってみて」


俺は頷いて柄を握る。


蒼月の柄を確かめるように撫でてからゆっくりとその蒼い刀身を抜こうとする。


だが、それを脳の奥底の何かが遮る。


『・・・妙だ、俺は"知っている"』


深淵が顔を歪めそう言った。


「どうしたんだよ」


突然の独り言にシニカさんが訝しげな顔をするが続ける。


『この刀の使い方から、戦いの記憶、殺意、熱情。手に取るようにわかる』


「・・・それって」


『お前にもできるはずだ。こいつを使ってきた人間たちの全てを俺たちは知っている、こいつが教えてくれて、呼んでるんだ』


「でも、あの長剣のときには何も・・・」


『だが、あのナイフ捌きは素人のものではなかった。あのときは俺が覚醒していなかったからなんとも言えないが、恩恵の効果とはいえ違和感があったんじゃないか?』


確かに、あまりにも手に馴染みすぎていた感じはある


まさか、殺しに対するあの冷静さも、あのナイフの・・・?


『とりあえず、俺たちはこいつの記憶を奪える。借りると言ってもいいが、奪うほうが俺たちらしいだろ?」


「・・・あぁ、そうだな」


長話をし過ぎた。すまないな蒼月。お前の力を見せてくれ


鞘を左へ九十度、水平に切るように抜く。


薄っすら透き通った蒼く美しい刀身が日光に触れてキラキラと輝く。


それはまるで、太陽の光を借りて輝く月のように。


「・・・手合わせを」


「え?」


自分でもほぼ無意識で放っていた。口が勝手に動いているように感じる。


だが、俺は確かに、この蒼月とともに死闘を求めていた。


「シニカさん、試したいんです。お手合わせを・・・」


「いいわ。この私に挑んだこと、後悔させてあげる」


腰を少しだけ落とし刀を体の右側へ、水平にして上げる。


霞の構えをとる。この辺は日本刀を使う人間で世界共通らしい。


シニカさんも両手にバゼラードをどこからともなく取り出して構える。


これは決闘ではない、ただの街の喧嘩に近い。


先に動いたのはシニカさんだった。


地面が強く蹴られその場が若干凹み、そこから彼女の姿が消える。


「っ!」


これは感じたことのない気配だった。


前よりも殺意がはっきりと、形を成して見えていた。


身体を大きく反り、蒼月の背で滑らせ一撃を流す。


珍しくシニカさんの目に一筋の動揺が浮かぶ。


身体を捻じり反転しながら地面を蹴る。


こんな動き、今までしたこともなかったがやろうと思えば、人間何でもできるものだ。


「『秘剣、浮雲渡り』」


身体がまるで蒼月に導かれるようにその技は宙を舞った。


それは、笠に顔を隠した主との記憶。


シニカさんは血相を変えて後ろへ飛ぶ。


俺は追撃は不要だと判断し地面にしっかりと足をついてから血払いをして納刀した。


『・・・こいつは想像以上だな相棒』


「あなた・・・今のは"誰"?」


二人の声が同時に入る。


俺自身もびっくりだ。蒼月を握った瞬間、まるで自分が自分じゃないかのような錯覚がした。


今ならわかる。シニカさんは多少、俺を相手に油断していたのだろう。


本気を出せば、俺程度の浮雲渡りなど捌けたはずだ。


だが、それをせずに後ろに下がったのはそれが予想外過ぎる出来事だったからだ。


それに加えひどく動揺しているようにも見えた。歴戦のアサシンであるシニカさんがだ。


「俺は俺ですよ。シニカさん。ただ・・・」


鞘に納まって静かに眠る蒼月を撫でてからその姿を思い浮かべる。


「あの場には確かに"彼ら"がいました」


幾多もの剣士たちが渡る記憶、その中でも最もこの剣に愛された男の姿。


「・・・本当に、コウヤといると退屈しなさそうね。もっととんでもない力を隠し持ってそう」


「なんか、隠し持ってるというより俺が気付いてないだけっぽいですけどね」


自分でもなかなか化け物じみてて異世界転生ってすごいなと改めて思い知らされる。


だが、あいつらを屠るにはまだ足りない。


もっと強くならなければ


「まあ、それはさておき・・・その剣は使えるようだから私が技量について心配する必要はなかったみたいね。でも、慢心はしちゃダメよ?それで何人もこの教団で死んだり、うっかり情報漏れそうになって粛清されたりしたんだから」


「粛清・・・ちょっと怖い単語が聞こえたような気がしますが、肝に銘じておきます」


『足滑らせて粛清されそうになったら、俺が全部焼き払ってやるよ』


そういう問題じゃないんだよなぁ


とりあえず、なんとか武器難しすぎ問題は解決した。


今後もよほどのことがなければ武器の使い方がわからないということは中古品に限るがないだろう。

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