27 恩恵の黒
もう何度目かわからない壁に叩きつけられる衝撃を味わいながら俺は姿勢を戻す。
多分右腕の骨を持っていかれた。仕方がないのでヒールで修復を始めた。
「・・・いやぁ、成長が早くて助かるわ。できる限り早くあなたを前線に送らなくちゃいけないものね」
先程まで目に見えるか見えないかのスピードで戦っていたはずのシニカさんが息一つ変えずにそう言った。
「あの、ちょっと右腕折れちゃったんで待ってもらってもいいですか?」
右腕にヒールをかけながら俺は許しを請うように言う。
「・・・だぁめ」
シニカさんが消えると同時に俺は慌てて身を起こし足に力を入れる。
刹那、先ほどまでいた場所が爆発した。
正確に言えばシニカさんが思いっきり攻撃した衝撃波なのだが
・・・とまぁこんな感じの地獄みたいな試合が約一週間続いていた。
「あのぉ、このままじゃ剣も握れないんで・・・」
「ナイフがあるでしょ?、大丈夫よ。今のが避けれるなら戦闘続行は可能だわ」
「ですよねー」
自分でも喋っていられるのが不思議でたまらないが、喋ったりしてないと痛みなどで気が狂いそうなのも事実だった。
風の音、振りかぶる姿勢、目の動き。神経を研ぎ澄ましながらシニカさんの攻撃をギリギリで捌いていく。
深淵のおかげか完全無傷な左腕に力を入れて何発か魔法を放ってみる。
しかしそれも軽く流されてできてしまった隙に腹を全力で殴られて先ほどと同じ場所に飛ばされた。
口の中が血の味で滲みそれを吐き出す。おそらく内臓もやられた。
「しまった、やり過ぎたわ」
少し焦った声が聞こえる。意識がゆっくりと遠のく感覚がしてきた。
周りで観戦していた教団員たちからも「死んだんじゃね?」「シニカ様張り切りすぎたなぁ」などのんきな声が聞こえる。
『・・・馬鹿野郎お前、体くらい大切にしろよ。今はお前だけの体じゃないんだぞ』
頭に直接深淵の声が響く。
「は、はは、もうしわけ、ない・・・訓練で早くも死にそう、だわ」
「うそ、幻覚見えてる!?、しっかりして!!」
シニカさんが本気で焦り始めたようで人がわらわらと集まってくる。
『ったく、世話が焼ける相棒だな。忘れたのか?、俺たちは復讐を終えるまで死ねないんだぜ?』
「そう、だな。大丈夫、わかってるよ」
『わかったなら祈れ。戦闘続行させてやる。死ぬほど戦い続けろ』
その言葉とともに体がとてつもない熱に晒される。
言葉は出ず、痛みもない。だが、体は焼かれて元ある形に戻っていく。
周りの困惑している声が耳に届く。今俺は周りからどう見えているのだろうか。
気がつけば、体から痛みは消え、立ち尽くしていた。
「・・・だ、大丈夫?」
シニカさんが俺の顔を心配そうに覗く。
「いやぁ、死ぬかと思いましたよ・・・」
体の不調がないか動かして確認しながらそう返した。
「そんな、確かに内蔵が破裂した手ごたえがしたのに・・・」
「当たり前のように殺した実感をしないでくださいよ。一応弟子のつもりだったんですよ?」
彼女の物騒な呟きに俺は苦笑とともに答える。
「さすがに勘弁して下さいよ。いくら俺でも内臓と肋骨が持ってかれたときは本当に死を覚悟したんですから」
死を覚悟したが動揺はあまりした感じはない。
俺の中で『俺のおかげだ相棒』と押し付けがましい声が響く。
そんなふうに会話していると遠くから走ってくる音がして目線は自然とそちらへ向いた。
「あのー!、ここに重症患者がいると医務室に報告があったのですが!」
声を上げながら走ってくる小柄の少女。歳はおそらく俺よりも下・・・のはず。
まあ、シニカさんの実例もあるので正直見た目の年齢を信じていいのかわからないが。
「あ、あなたが噂の新人さんですね。はじめまして。ここで衛生医療担当員をしていますアシェット・アイボリーと申します。気軽にアシェットとお呼び下さい」
「なるほど、よろし・・・ん?」
アイボリー?、まって?、どっかで聞いたような?
「それでシニカさん。重症患者さんはどこにいらっしゃるんですか?!、話によるとすぐに治療しないと死んでしまうと!」
「・・・今あなたが話している新人さんが、その"元"重症患者よ」
シニカさんが珍しく目を逸らしてバツが悪そうに答える。
「え?、いやいや、もう体の中グチャグチャだって聞いたから急いで来たんですよ?、こんなピンピンしてるわけないじゃないですか!。もうボケが始まっ・・・あ"あ"あ"ゴメンナサイ!頭を握るのはやめて下さい!!」
シニカさんがアイアンクローしてる・・・!?
歳の話、意外にもNGなんだ。気をつけよ。
「元気すぎるのも困りものねぇ?、今すぐその口を縫い合わせてあげましょうか?」
「元気なのが私の取り柄なんですぅぅぅ!、と、というか、その患者さん、重症ってどういうことだったのですか?」
話を必死に逸らそうとアシェットがシニカさんの手の中で言った。
シニカさんはアイアンクローを解除して俺が回復したときの経緯を話した。
どうやら俺が深淵と話し終わったその瞬間に黒い炎に包まれて気がつけば重症だった部分がほとんど完治していたらしい。
「なるほど、にわかにも信じられません。そんなまるで死者が生き返るかのような・・・」
「正直私もその感想に尽きたわ。あそこからの復活はアシェットちゃんの魔法を使ったとしても危うい、救えたとしても数日はかかった」
完全に二人に置いてけぼりにされ立ち尽くす俺。かっこわる!、自分のことなのに!
仕方がないので、俺はずっと気になっていたことを聞くことにした。
またも2ヶ月空きましたがなんとか続行できそうです。いやはや、もうなんと言い訳すればよいやら。読んでくださってる方には本当に申し訳ないです。
一応、この空白期間に短編を2本ほど書いたのでもしよろしければそちらも・・・
ではまた次回があれば