0 八人目の転生者は暗殺者志望の復讐鬼
気がつけば俺は椅子に座っていた。
周りを見渡すとどこかの小さな部屋のようだ。
目の前には若い男が俺と同じような椅子に座っている。
「おはよう如月光夜くん。気分はどうだい?、精神が不安定だったから少し調整したんだが・・・大丈夫かなぁ」
そう言いながら聞いてくる男に俺は疑問を投げかける。
「・・・ここはどこですか?、俺はたしか修学旅行のバスに乗っていたはずなんですけど」
俺がそう聞くと男は苦笑いを浮かべた。
「無視はひどいなぁ・・・まあいいさ、気になるのも無理はないしね」
そう言って男は立ち上がる。
精神が不安定とか調整したとかはあんまり無視したくない単語だったがそれよりも状況を知るのが先だと考えた。
「まずは自己紹介をしよう。僕は君たちの言うところの神様・・・正式には命の転生を管理する神様なんだけどね?、君は修学旅行のバスの事故で死んだんだよ。まあ、心が壊れるかもしれないから死んだときの記憶は抜いてあるんだけどね?」
俺が死んでる・・・?
そう思いながら俺は何気なく自分の手のひらを見た。特に透けているとかではないらしい。
だからこそだろうか、いまだに信じられない自分がいた。
「それでうちは決められた日に寿命、病気以外で死んだ人間以外を他世界の生命循環安定のために転生するって決まりがあるんだよ」
そんなとんでもない非現実的なことを涼しい顔で言う自称神様の男は俺の方を見て笑った。
「というわけで君には記憶保持で三つなんでも好きな願いを叶えた状態での転生か完全に記憶を失って赤ん坊からやり直す転生か選んで欲しいんだ」
サラッと言った男の選択肢に頭が追いつかず男を見ながらポカンとしてしまう。
とりあえず今頭の中に残っている数少ない冷静さをもとに考える。前者は確実に得。アニメやラノベなんかで見るチート能力を行使して別世界で人生をやり直すことができる。後者はほぼ普通の死に近いだろう。しいて言うならば生まれ変わる世界が俺の住んでいた世界から異世界に代わるだけ・・・普通に考えるならば前者だ。
しかし、俺はそれを快く受け入れることができない事情が生前にあった。
「そういえば君、自殺願望があったんだって?、勇気が出ずに何度も失敗してたみたいだけど」
男が軽く言い放った言葉に俺はかなり動揺した。
生前、俺はかなり酷いいじめを受けていた。それこそ一般的なものからかなり異常なものまで。蘇ってきたのは修学旅行の前日、午後の授業が終わった教室で服を脱がされクラスメイトの半数以上からボコボコにされた。今思い出すだけで酷い吐き気と汗、そして抑えられないほどの黒く淀んだ憎しみと怒りが込み上げてきた。
「かなり酷いいじめをクラスメイトから受けていたみたいだね・・・」
そこまで言って男は思い出したように口を開く。
「そうそう、君をいじめてた彼ら。もうとっくに異世界転生してるよ?」
・・・は?
俺は耳を疑った。
「同じ世界に・・・ですか?」
震える声で聞くと男は深く頷いた。
「君をいじめていたスクールカーストトップのメンバー七人、彼らは皆前者の条件で異世界へ旅立ったよ、正直奇跡だね」
「その他の奴らは・・・?」
「別の世界さ。なんせ一クラス全員同じ世界に送ったりしたらそれこそおかしくなっちゃう」
それもそうか。
そう納得しながらも怒りを抑えきれなかった。俺の人生を狂わせたあいつらが、今はチート能力を使ってのうのうと異世界で生きてる。そんな状況を考えるだけで憎しみや怒りがあふれて仕方なかった。
「・・・そうだね、ここは神としての慈悲という名の知識を君に与えようか」
そう言って男は笑う。
「君は彼らが殺したいほど憎い・・・ならば殺せばいい。君が受けれる三つの願いを使ってね」
男の放った言葉に俺は完全に固まる。そして自然と口角が吊り上がっていた。
その手があったかと。
ふと、俺の中に眠る憎悪と憧憬・・・あの暗殺者の後ろ姿が頭をよぎった。
「こういうこというの本当はダメなんだけどね。さすがに同情するよ。あれは僕が見てても気分が悪いものだったからね」
肩をすくめていう男に俺はほぼ無意識に質問を投げた。
「三つの願いで叶えられないものは何ですか」
「おぉ!、そこに着目するとはあたまいいね。しいて言うなら世界のバランスを壊すようなのはダメ。例えば不死身になるとか、世界の人間を全て自分のものにするとか。後は曖昧なものとか、○○死ねとか、そういうのもダメ。基本的には身体強化、特殊なアイテム、特殊な能力とか自分に直接影響のあるものだね」
男は笑い、嬉しそうに俺の質問に答える。
俺は聞いたことを整理しながら考える。
世界を壊さず、法則を乱さず、あくまで一個人が簡単に死なないようにするための措置。後はボーナス的な意味合いだろう。ならば願えるもので少しでも復讐と目的に使えるものが望ましい。
そこでふと思いついたことを聞く。
「あの、あいつらが今、何やってるかって知れたりしますか?」
「そうだね、契約にないし教えてもいいでしょ」
そう言って悪そうな顔で笑いながら男は資料のようなものを空中から出した。
「あっちは奴らが転生してから五年がたってる」
「・・・は?」
その言葉に俺は間抜けな声を出してしまう。
「君は処理が遅れてね、少し後になっちゃったんだよ。で、まあこの五年の間に彼らはもらった恩恵でそれぞれの地位を築いた」
男は淡々と資料を読み始める。
「まず、リーダー、あと取り巻き三人ぐらいが勇者御一行になって魔王討伐を成し遂げてるね。彼らは皆身体強化、最強魔法の保持、あと魔剣だとかそういういわゆるチート武器的なものを持ってったね」
リーダーとその取り巻き・・・
嫌でも思い出せる。おそらくリーダーは風見隼人、取り巻きは岩天心、磯貝麻紀音、九条逸希の三人だ。
思い出しただけで震えが止まらない。こいつらの顔はトラウマにすらなっていた。
「名前はそのまんま。奴らは王国を救ってリーダーは姫と婚約を結んだ。他の三人も貴族になってる。他の残り三人、このうち二人もう死んでるよ。一人はなんか商売をやってる。能力も世界知識と多額の所持金、あとは製作系の才能って言ってたかな」
そこまで言って男は息をつく。どうやらこれで終わりのようだ。
「・・・さて、参考になったかな?」
俺はしばらく考え込んで考えがまとまってから男の方を向いた。
「前者の条件で転生します。願い事を聞いてください」
男は俺の言葉を聞いてニヤリと笑った。
「いいよ。言ってみて」
「まず一つ目は戦闘特化の身体強化」
これはまず生きるため。何があるかわからないうえに国一個を敵にするのだから当然だろう。ちなみにこの『戦闘特化』というのがポイントだ。
「二つ目は無限魔力の保持。基礎的な魔法は全部使える状態で魔力は無限」
これは俺の計画にかかわってくる大事な要素のひとつだ。
「最後は・・・魔法の強奪能力を。それも禁断だろうが特殊だろうが関係なく、全ての魔法が奪えるもので」
「ほぉ・・・」
最後の願いに男は興味深そうに笑った。
最後は二つ目とセット。これは俺が奴らを苦しめて殺すため、奪われたものを取り返すため、そして俺のある憧れというか夢を達成するためのものだ。
「了解。確かに聞き届けたよ。ではそろそろ転生しようか」
そう言って男は椅子に座った。
「あ、最後に個人的に聞きたいんだけど・・・」
「はい、なんでしょう」
「世界に行ってから君はどうやって彼らに復讐するんだい?」
俺はその質問にあえて笑顔で答えた。
「これは俺の夢だったんですが・・・アサシンになろうと思ってるんです」
男は俺の答えに感嘆の声を上げる。
「・・・なるほど、生前のあれかぁ。面白そうだね。せっかくやり直すんだ、復讐もいいが第二の人生をしっかり楽しんでくるといい。僕はいつも君を見守っているよ。なんせ興味がわいたからね」
楽しそうにそう言う男に俺は苦笑いを浮かべる。
「その命尽きるまで、僕は君を見守っているからね。さあ、次に目を開けるときは異世界だ。君の最高の復讐劇を見せておくれ」
男がそう言うと俺の視界がどんどん暗くなっていく。そして眠気のようなものが頭を侵食し始めた。
「あ、最後に名前を教えてもらえますか」
残った意識を振り絞って問いかける。
そんな問いに彼は苦笑いを浮かべながら答えた。
「・・・アクサス、アクサス・イルオーネさ。絶対にまた会えるよ光夜くん」
薄れる意識の中、彼の声は俺の耳にしっかりと届いていた。
どもども、神刃千里です。
前回は正直わけワカメな感じでしたので一週間たっていませんが早めに出そうと思います。
次もぜひ読んでください!