16 受け継がれる部屋と遺志
食事を終えた俺たちはシニカさんがいるという管理人室へ向かっていた。
どうやら俺の部屋を用意してもらいに行くらしい。
「・・・光夜さん、クリームシチュー美味しかったですね!」
すごくキラキラした笑顔で言う彼女の言葉になごみながら頷いて返事をする。
にしてもホントに仕事モードとのギャップすごいな。完全に別人じゃねぇか。
俺はそんなキラキラした女の子のオーラに耐えられずに目をそらしながら会話に適当な相づちを打つ。
こんな時に人付き合いのスキルが絶望的なのが悔やまれる。恩恵でもらっとけばよかった。
「光夜さん?、話聞いてますか?」
シャーネの呼びかけにハッと我に戻り目を合わせる。
そこには少しだけ不機嫌そうなシャーネがいた。
「ご、ごめん、ちょっとボーっとしてた」
「もう、一人で盛り上がった私も悪いですけどもう少しちゃんと聞いてくれてもいいんじゃないですか」
「いや、本当にごめんて・・・」
そんな会話をしてるうちに気がついたら管理人室の前についていた。
俺はチャンスだと思いなんとか話題を変えようと口を開く。
「そ、そういえば俺の部屋ってどこになるのかな」
「さぁ・・・私もさすがにどこの部屋が空いてるかなんて把握してませんし」
そう言いながらシャーネは管理人室の扉をノックする。
「どうぞー」
失礼しますと言いながら部屋に入る。
中に入るとそこには羽ペンを持って机に向かっているシニカさんの姿があった。
「そろそろ来る頃だと思ってたわ。部屋のことでしょ?」
俺とシャーネが同時に頷く。
それを見たシニカさんは少し笑いながら「少し待ってて」といって大量に鍵がかかっている棚へ歩く。
「えーっと、空き部屋はー」
そんな風に悩むような仕草をしてから数分、一つの鍵を持ってパタパタと歩いてきた。
つか、マジ二十前後のお姉さんにしか見えねぇ・・・
「これが部屋の鍵ね。部屋番はその札に書いてある通りだから。あと、家具とかは全部そろってるから気にしないでね」
そう言って渡された鍵のタグを見て俺は首を傾げ、シャーネは横から覗いて「えっ」と声を漏らす。
「・・・ふふっ、わかっちゃった?」
いたずらっぽく笑うシニカさんに俺の首の角度はさらに深くなる。
「私の部屋の隣ですよね・・・」
「せいかーい」
二人の会話になるほど手を打つ。
どうりでなんか見たことあるような番号だなと思ったんだ。
「・・・シニカさんわざとですよね」
疲れ気味に言うシャーネにシニカさんは少し笑いながら口を開く。
「もしかして嫌だった?」
え、嫌なの・・・?
若干のショックを受けながらシャーネの方を見ると焦ったように手をわたわたさせて否定する。
「べ、別にいやとかそういうわけではないんですけど!、というか私の隣の部屋って空いてたんですね」
「本当は”空いた”が正解なんだけどね。仕方ないわ、ここはそういうところなんだから」
そう言いながら少しだけ顔を背ける。シャーネも少し気まずそうに俯いた。
こうやって日常的に人が消えていくのもこの業界ならば当然のことなのだろう。
俺はとりあえずこの空気を何とかするために何か言おうと考える。
・・・そうだ、部屋に帰ろう。
「あの、荷物もまとめたいので俺部屋に行ってもいいですか?」
俺の考えを悟ってくれたのか二人は俺の方を向いて力強く頷く。
「そうね、つかれただろうし今日はそのまま休んだらいいわ。シャーネさん案内してあげて」
「は、はい!、それじゃあ行きましょうか」
そう言って扉を開けたシャーネの後をシニカさんに一礼してから追う。
廊下に出て少し早歩きなシャーネの隣について歩く。
「すみません光夜さん、変な気を遣わせてしまって・・・」
申し訳なさそうにするシャーネに俺はできる限りの優しい声で答える。
「大丈夫、覚悟してたことだし。むしろ何事もなかったようにケロッとしてたらそれはもう人の心すら失っちゃってる証拠だから」
俺のように、と心の中で付け足す。
この人は、まだ大丈夫。出来る事なら仮面を外した時だけは人間でいてほしいとそう思った。
それから部屋につくまで俺たちは何もしゃべらなかった。
部屋の前まで来てやっとシャーネが口を開く。
「もし何かあったらすぐ隣なのでいつでも呼んでください。あ、外出もですよ。迷ったりしたら大変ですからね」
「ありがとう」
俺はそう言ってシャーネと別れて部屋の鍵を開け中に入った。
中に入ると少し前まで人が生活していたような、薄っすらとした残り香のようなものが残っていた。
さすがに着替えなどは片付けられているが机の上などはまだ空の瓶や羽ペンなどが置きっぱなしになっていた。
ふと、そんな机が気になり荷物をベットの上に置いて近づいてみる。
机の上には先ほど見えていた空の瓶や羽ペンの他にも鉄のタグと髪留めだと思われるゴムが置いてある。
タグを拾い文字を読むとそこには《ローズ・サファティ》と書かれている。
書き方から察するに人名だろう。
女性だということも同時に察して少しだけ躊躇するがなんとなく見なきゃいけないような気がしてそっと引き出しに手を伸ばす。
引き出しを開けると中に一枚の手紙と丁寧に丸められた紙が入っていた。
とりあえず俺は手紙を手に取る。手紙には『次にこの部屋を使う人へ』と書かれていた。
ある意味俺あてだったのでそっと丁寧に封筒を開いて中身を読む。
『新しく入った誰かへ。
私は近いうちに始末されるのでこの手紙を残す。どうか私の想いを継いでほしい。
私は二日前、依頼で勇者の一人であるマキネ・イソガイの部下の調査に向かった。そこで私は彼女が麻薬運用で金稼ぎをしていることを知った。
しかし数日後に反逆罪として私の首が挙げられた。おそらく教団の中に裏切り者がいる。
だがこのまま動けば周りの団員や教団にまで火の粉が飛んできてしまう。だから私は遠くに行くことにした。
ライズには私が死んだことになるよう言ってもらう。
私は私で、いつかこの腐った圧政からユトニシア王国を救うため。そして姫をハヤト・カザミからお救いするために、世界を旅しながら方法を探そうと思う。
私は次に来るあなたのために私の魔法のスクロールを残した。
名前は《アクセラレイション・ショット》。ものを超加速して飛ばすことができる魔法だ。
一直線にしか飛ばせないから使いにくいかもしれんが役に立ててくれれば嬉しい。
最後に、シャーネをよろしく頼む』
俺は手紙を読み終えて少しだけ息をつく。
衝撃事実過ぎて少し頭が追いつかないがとりあえず奴らを何とか殺せばいいということだけはわかった気がする。
ライズとは誰のことかわからないが後で探してみることにしよう。
俺は引き出しの中にあったもう一つの紙、スクロールを手に取る。
正直このままではとてもじゃないが使えない。
「・・・奪おう」
俺はそう呟いてスクロールの紐を解く。
そしてスクロールからは眩い光が出るが俺はそれに左手をかざす。
『プランダー』
とてつもなく短い詠唱の終わりとともに光はゆっくりと空気へ沈んだ。
同時に頭の中に使い方が流れ込んだ。
「・・・なるほど、使えるものならスクロールの魔法も奪えるのか」
実験も兼ねてやってみたが案外うまくいくものだ。
ゆっくりと手を握りその力の感覚を確かめる。だが伝わるのは力ではなく疲労感だった。
俺は荷物をベットからどかし、身を投げる。
荷物の整理は起きてからやることにしよう。
落ちる意識の中で感じるのは奴らへの殺意が深まっていく感覚だった。




