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切れ端の記憶

「おら、起きろよ!!」


顔にバシャッと冷たい水をかけられて飛びそうだった意識を強制的に戻される。


「まだ眠ってもらっちゃ困るなぁ、サンドバックしたりないから・・・さぁっ!!」


意識が戻ったのを確認した取り巻きが俺を立たせて前にいた奴が俺の腹に右ストレートを入れる。


俺はもう空っぽの胃を再び刺激され嗚咽とかすかな胃液を吐き出す。


「なあ、いまどんな気分だ?、クラス全員の前で全裸にされて、公開処刑のようにサンドバックにされる気分はさぁ・・・」


俺の前髪を引っ張って顔を無理やり向かせてそんな問いを投げてくる。


殴られるのが嫌でその問いに答えようとするが痛みと疲労で声にならず虚しく口だけが動いた。


「あ?、何言ってんのかわかんねぇよ」


「なあ、風見・・・もうこいつ殺しちゃおうぜ」


「それじゃあ私たちが捕まっちゃうじゃん、やっぱりあんたは馬鹿だね」


「それもそうか・・・てか馬鹿って言うなよ!!」


「「あはははは!」」


クラスの笑い声が俺の頭を揺さぶらせる。


殴られたのとは別で気持ち悪くて仕方なかった。


「な、なあ、もうやめようぜ。バレたら下手すれば退学だぞ・・・」


「何言ってんだよ黄木、こっからが楽しいんじゃねぇか」


「逸希の言う通りだ。それにこいつにそんな度胸ねぇよ。じゃなきゃ二年もいじめなんかできねぇって」


「そうだ!!、いい子ぶってんじゃねぇぞ黄木!」


「ち、ちげぇよ。ほ、ほら、俺たち来年受験だし・・・その辺心配だったんだよ」


クラスの喧騒は遠く聞こえる。まるで声が声じゃないように、言葉が言葉じゃないように、ただの音にしか聞こえなかった。


「チッ、しゃあねぇ、今日はこのへんにしとくか」


「えー、もう終わりなの?」


「明日から修学旅行だしな、今日はサービスってことでこれくらいにしといてやろうぜ」


「隼人やっさしー」


終わりの一言で何かが切れるように俺の意識は落ちかける。しかし顔に強い打撃を受けてまたも引っ張り出されることになった。


どうやらまたも奴が俺を起こすために殴ったようだ。


「何寝てんだよ。センコウにバレる前に早く服着て床掃除しとけ。バレたらただじゃおかねぇからな」


俺は軋む体に鞭を打って立ち上がりおぼつかない足取りで床に落ちているびしょ濡れの服を取った。


そのあとも残って教室を掃除して痛む体を押さえながら家に帰った。




家に帰ると何か言っている親を無視して部屋に駆け込み二十四インチのテレビの前に座る。


ゲーム機の電源を入れてコントローラーを強く握る。


暗い部屋の中、光る画面に映し出されたのはもう何年もハマっている暗殺系アクションゲーム。


操作しながら俺はゆっくりとターゲットNPCをあいつらに重ねていく。


頭の中で響く奴らの笑い声が、痛む頬や体が。


たしかに、俺の憎悪を覚えていた。


「は、はは・・・あはははは!」


自然に浮かび上がってきた笑いとともにNPCの首を跳ねる。


「死ねっ、死ねっ、死ねよぉ!!、あはははは!」


周りにいたターゲットNPCを持っていた長剣で切り裂きながら笑い声を上げる。


NPCを殺せば殺すほど冷静さは取り戻されていきゆっくりと体の痛みすらも鮮明になっていく。


ついには耐えられなくなってコントローラーを手放しその場に蹲るように倒れた。


辛さと、痛みと、悔しさと、羞恥心と、疲労・・・ありとあらゆるものが一気に押し寄せて倒れた俺を蝕んだ。


「あぁ・・・アアアアアアアアアアア!!!」


今度は喉が痛むまで叫んだ。そうすれば俺を蝕む奴らがなくなってくれる気がした。


声が出なくなるまで叫んだあと、涙で赤くなった瞳を画面に向ける。


そこには誇り高き暗殺者が、俺の憧れた姿が背を向けて立っていた。


「・・・俺もあんな風になれたら、奴らに復讐ができるのかな」


弱々しく掠れた声で光る画面に問いかける。


だがその答えが返ってくるはずはなく、そこにはただ、最強の暗殺者の後ろ姿があった。


俺はフラフラと立ち上がり明日の準備に取り掛かる。


明日の修学旅行は正直死ぬほど行きたくないが行かなかったら今度こそ本当に奴らに殺されかねない。


だが、いっそ死ねたらどれほど楽だろうと思う自分もいる。


生きているのはいまだ自ら命を絶つ勇気が出てないからだ。


それでも、死んで生き返れるのならばあのゲームのように最強の暗殺者になりたいと思う。


そうすればきっと、俺が俺を好きになれるから。


今まで奪われてきたぶんを奪い返すことができるから。


そんな妄想を頭の片隅においてベットに潜る。


湿布を貼ってないがまあいいか。今夜はもう寝よう。


明日からはもう平穏なんて訪れないのだから。

初めましての方は初めまして、どもども酒月沢杏です。

今回はダークヒーローものの異世界転生となっています。

そして第七回ネット大賞応募作品となっています。

前々から言っていた裏で書いているといってたのはこれのことです。

これからちょくちょく更新していくのでぜひ読んでください!!

今回のテーマは『略奪と復讐』です。

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