14 案内再開
2019/2/21 誤字修正しました。
後ろからは視線を感じるものの襲ってくる気配はない。
なんとか二人とも諦めてくれたようだ。
「・・・ごめん、脅すようなこと言って」
俺は少しだけ怯えた目をするシャーネに謝罪をした。
「え、いや、突然攻撃されたんですから怒るのも当然だと思います」
「そうだよね?」と視線で問いかけてくる彼女に俺は首を横に振る。
「先輩方の言っていたことはもっともだ。俺の力は大きすぎる、しかも俺はここの忠誠心がない。となればいつ裏切られるかもわからない化け物を放置しておく方が危険だ」
自分の力の強大さは《深淵》と話したときになんとなくわかった。いや、流れ込んできたのか。
あれは持ち主の俺すらものみ込む。それぐらい強大で底知れないほどの深い闇だ。
あれを理解したのならばまず恐怖を感じて、その後に排除するだろう。
アザレア先輩もクロノア先輩も、ただただそれを実行したに過ぎない。
「で、でも!、仲間なのにいきなり攻撃するのは・・・!」
「大丈夫だよ。俺は今、どこも怪我してしてないだろ?。だから大丈夫」
納得してない表情で俯くシャーネに俺は苦笑を浮かべる。
ずっと思っていたが仮面のしたのシャーネは本当に暗殺者に向いていない。優しすぎる。
俺よりも何年も先輩のはずなのにそう思ってしまう。
同時にだからあの仮面が必要なのかと納得もする。
彼女にも俺と同じように何か使命があり、強さを手に入れて今ここにいるんだろう。
それを優しいから向いていないと断言してしまうのは彼女に対する侮辱だ。
俺は自分の考えを恥じながら再びシャーネに向き合う。
「さて、他に案内するところはある?」
俺の言葉に一瞬ピクリと肩を震わすが俺が話を終わらせようとしていることを察したのか顎に手をやり考える。
「・・・あ、まだ備品倉庫がありました。あそこがある意味では一番大切なんですよ」
そう言って足を少し早める。俺もそれについていくために小走りになる。
先ほど上った階段を下りる。その途中で何人か団員と思う人とすれ違ったが何とも怯えた様子で通り過ぎていく。
先輩たちが言っていたことはどうやら間違いないようだ。マスター・ウェニズマもなんかすごい怖がってたしな。
そんな彼らが通り過ぎていくたびにシャーネは申し訳なさそうな顔をするので俺としてはなんだか自分が悪いことをしているような気になりなんとも言えない罪悪感が生まれた。
こんな状態で大丈夫なのだろうか、というか俺必ずしもシャーネと行動できるわけじゃないよな・・・
おいおい、他の人と仕事する時どうするの?、パーソナルスペース意識しながら仕事するの?
そんなアサシン嫌だ。
悲痛な未来に危うく泣きそうになっているとどうやらついたようでシャーネが歩みを止める。
ここは一階から更に降りた地下、カウンターと備品倉庫と書かれた看板がある。
「ここが備品倉庫で仕事で必要なものを支給してくれるところです。支給が必要なときはシニカさんに言って許可書をもらってください」
へぇ、そんなシステムもあるんですね。
そんな風に思いながらカウンターに目をやると頭からケモミミの生えたお姉さんが手を振ってきた。俺はそれに答えるように軽く頭を下げた。
というか獣人とかもいるんだこの世界・・・なんか異世界って感じがするなぁ。
まあ、他物語の主人公と違って唯一無二の存在でも最強の力を有しているわけでもないんだが。
・・・俺もスローライフとか送りたかったなぁ。
今の状況も自分が望んだことというのを棚に上げながら天井を見上げる。そんな俺の姿をシャーネは不思議そうに見ていた。
「・・・ここで最後?」
彼女からの視線に耐え切れなくなり俺は苦し紛れにそう聞いた。
「そうですね、もうあとはなかったはずです。それじゃあ食堂に行きましょうか」
そういえばご飯を食べるとか言っていたのをすっかり忘れていた。
確かに腹も減ってきたしちょうどいいだろう。
「そうだな、そうしよう」
先ほど下った地下への階段を上り一階にある食堂へ向かう。
そういえばニネットが作ったスープは美味しかったな。ここにきてから一番最初の食事だったのもあり美味しかったというイメージは強かった。
しかし、なぜ毒が盛られていなかったのか不思議でならない。痺れ毒でも盛っておけば反撃を受けなくてすんだだろうに。
まあ、いない人間のことを考えても仕方ないだろう。
これから《ヒール》を使うたびにニネット、そしてアシミット・アイボリーのことを思い出し続けるだろう。
「・・・ここが食堂ですよ」
横から聞こえたシャーネの声で思考が現実に戻される。
「ここはあっちからも繋がってて一般の人も利用する酒場にもなってるんですよ」
彼女は少し大きめの扉を指さしながら説明してくれる。
ここは宿舎の隣に位置する大きめの酒場のようで宿舎と一緒になっているわけではないようだ。
「ここの売り上げは私たちの活動資金にもなるので結構重要なんです」
「なるほど、よくできたシステムだな」
なんだか相づちばかりな気がするが気にしてはいけない。
まあ、大掛かりな組織ともなれば金はあって困るものでもないだろうから稼げるところで稼ぐのか。
「あっちの席が空いているのであっちで食べましょう!」
俺は手を引かれながら彼女についていく。