13 狩るものたち
部屋を出て、気恥ずかしさから無言が続く。
否、俺に関しては後ろからシャーネの揺れる美しい緑の髪に見とれているだけだ。
・・・おいおい、変態かよジョニー。
「しょ、食堂やお風呂は一階にあります。トイレはどの階にも一つはあるので・・・」
話題に困ったのか本来の目的を思い出したのか、シャーネは説明を始める。
「食堂は一日中空いてるのでいつでも利用できます。交代制らしくて本当にずっとやってるので真夜中に行っても大丈夫ですよ。ただしメニューは少なくなっちゃいますが」
「ずっとやってるなんてすごいな」
「仕事柄上みんな時間もバラバラなのでシニカさんがせめてもと人を集めてくれたんです」
そうか、必ずしも決まった時間に帰れるわけじゃないもんな。
俺は今、とんでもないぐらいのブラック企業に就職しようとしているのかもしれない・・・!
「あれ?、仕事モードじゃないノーマルシャーちゃんじゃん!。もしかして噂の新人くん?」
「なるほど、そいつが・・・」
前から少し短めの桃色の髪をまとめた明るい女性と青みがかった黒髪でメガネをかけた青年が歩いてくる。
「あ、先輩。あと、ノーマルって呼ばないでください」
シャーネは少し頬を膨らませて言う。
ローブとフードの色は女性のほうが白で青年のほうが緑。
おそらく青年のほうはシャーネと同じ階級なのだろう。
「紹介しますね。こっちの明るい先輩がアザレア・シルフィーユさん。こっちの青い先輩がクロノア・アルメリアさん。お二人とも私よりもずっと強い頼りになる先輩ですよ」
「や、やめてシャーちゃん!、期待が思いよ!、お姉ちゃんとしてはとても嬉しいけど!」
「俺たちのことは知らんが、リクニスは俺たちと変わらないくらい強いだろ」
三人の会話は見ていて飽きなさそうだが流石に先輩を前にして黙っているわけにもいかないと俺は口を開く。
「如月光夜です」
「如月が苗字で光夜が名前なんですよっ」
ふふんっと自信ありげに付け加える。あなたもつい先ほどまで知らなかったんですけどね?
「なるほど、東方人か。わけありなんだろうがここでは皆そうだ。よろしく頼む」
クロノア先輩が手を出し俺は答えるように握る。
「日光大帝国出身の人は珍しいなー。やっぱり村出身なの?、それとも都市のほう?」
興味津々とアザレア先輩が俺に詰め寄る。
・・・やべ!、俺日光大帝国とやらのことなんも知らねぇ!!
まあ、雰囲気でなんとなく日本っぽい国だってことはわかるんだけれど。
「おい、あんまり人の都合に踏み込むな。お前だって言えないことあるだろう」
「そ、そっか・・・ごめんねキサラギくん・・・」
怒られた犬みたいな顔で謝るアザレア先輩になんとも言えない罪悪感が出る。
これも消費してはくれないようだ。やはり何でもかんでも感情を壊したりはしないらしい。
「いいですよ、気にしないで下さい。変な詮索さえしないのなら」
そこで二人の顔が一瞬ピクリと動く。
「それなんだけどさ。やっぱり気になるんだよねぇ・・・私たちの立場としてはさぁ」
「確認は・・・大切だ」
底冷えするような二人の声に胸を貫かれる。
これは・・・殺気?!
一瞬の風。首元には俺を狙う二つの三日月の刃と俺がギリギリで抜いた長剣と短剣が光っていた。
「せ、先輩?!」
「今の防ぐんだぁ・・・すごいね君。今のは落としてたのに」
0.1秒でも反応が遅れてたら俺の頭は今頃床の上だ。そう考えただけでも冷や汗が止まらない。
アザレア先輩が持っているのは所々に花の装飾が施された紅い大鎌。
クロノア先輩の手には所々に赤い染みのついた大曲剣。
それぞれが俺の首を前後から挟むようにきらめいていた。
「ここまでとは思わなかったが・・・管理人に怒鳴られるよりはマシだろう」
スッと薄れていく張り詰めた殺気がゆっくりと消ええていく。
俺の中にはすでに恐怖はなかった。
「・・・本気で殺す気でしたよね。先輩方」
怒気は孕んでいない。ただただ冷静に二人に問う。
「そうだね。私たちは本気で殺す気だったよ」
「ここまで黒く、淀んだ魔力は見たことがない。力を試したかったのもあるがここで殺せれば万々歳だと思っていた」
「え・・・せ、先輩!、いくらなんでもいきなり刃を向けるなんて酷すぎます!!」
先ほどまで唖然として黙っていたシャーネが二人に向かって怒鳴る。
「シャーちゃん。シャーちゃんも見たでしょ、全てをのみ込むようなあの暗い炎。これは強大すぎる。いつ私たちに牙を剝くかわからない」
「で、でも・・・」
「リクニス。お前ならわかるはずだ。そいつがどれだけ危険な存在か」
シャーネはクロノア先輩の言葉に押し黙ってしまう。
「・・・・・・そうですね。さすが先輩方です」
先ほどまでの沈黙を破った俺の方を三人は同時に向いた。
「今はただ。ここと利害が一致しているだけです。だから俺はあなたたちの指示にも、教団の命令にも従います。ただ・・・」
《俺》は左手から炎を出して二人に向ける。
『俺の邪魔をするのなら、教団ごと潰します』
それは《俺》の仕事。
目標を達成するための必要犠牲。
「だから、俺のことはけして疑わず。仲間だと思っていた方が楽ですよ」
そっちのほうがお互いにとって都合が良いから。
「・・・行こうシャーネ。先輩方とはまたいつかちゃんとお話するよ」
「へ?、は、はい・・・」
俺はシャーネの隣を歩きながら彼女たちが何かしてこないか注意を払った。




