11 神に愛される
「いや、何者って言われましても人間としか・・・」
「馬鹿にするな!!、あれほどの闇を秘めるなどただの人間にできるわけがない!!」
な、なんか激怒されてらっしゃるぅ!!??
どうしよう、なんか悪いことしたわけでもないし・・・あれ?、もしかして俺ってここで死ぬ予定だったとか?、そもそも生き残れないことを前提にされてたとかか!?
そう考えるとなんか腹立ってきたな・・・
だが、そんな怒りも不思議と冷めるようになくなり頭がゆっくりと冷やされていく。
自覚してると何とも不思議な感覚だ。これが無駄な感情を消すという感覚なんだろう。
とりあえず敵対だけは避けなければと跪いて頭を下げる。
「この身、この力、全て教団の物と誓いましょう。必ず力になるはずです」
俺の言葉にざわめきが起こる。何とも言えない空気を断ち切ったのは冷静さを取り戻したマスター・ウェニズマだった。
「・・・少し時間をくれ若いの。これは私の独断では手に負えない。そいつの世話はシャーネ・リクニスに一任する」
「は、はい」
そう言ってマスター・ウェニズマはカーテンの後ろに消えた。
しばらくの沈黙のあと、周りにいたフードさんたちがわらわらと動き出した。
何か言われるかと思ったが直接何かを言ってくる奴は一人もいなかった。
「な、なあ、如月光夜・・・」
後ろから少し弱々しい声で話しかけてくるシャーネに俺はできる限り警戒されない声を作って返す。
「どうしました?」
「あ、いや・・・お前は本当に人間なのか?」
シャーネの質問に驚いて言葉に詰まる。
「いや、かなり失礼なことを聞いているのはわかっているつもりだ。だが、こう聞くしかお前を信用するための方法がないんだ」
彼女はその言葉づかいとは対照的な弱々しい声音で俺の表情をうかがう。
こんな風に言われてしまうと何とも答えにくい。
何と答えたらいいんだろうと考えに耽る。
少ししてふと思い浮かんだ言葉を、俺は顔を上げてそのまま口にした。
「俺は、神に愛されてるんですよ。だから欲しいものを手に入れるための力を授かった・・・ただそれだけのことです」
俺は微笑みながらそう言った。
自分でもびっくりするぐらい無機質で見事な笑み。
そんな俺の笑顔の裏に気づいたかどうかは定かではないが彼女が何も言わずに固まっているのは紛れもない事実だった。
「・・・本当にめちゃくちゃだ。私にはお前が本当にわからないよ」
シャーネは全てを投げ出すかのように笑った。
それは正直好都合ではあるが諦められたようで釈然としない。何とも複雑な自分の気持ちに俺もつられて苦笑いをした。
「ではここを案内するからついてきてくれ・・・と言っても裏の宿舎の案内だけどな」
「宿舎なんてあるんですね」
「誰もが家を持ってる訳じゃない。というよりはこの町出身の人間が少ないからな、団員はほとんど宿舎に住んでる。それに私たちは日陰者だしな。ここには誰一人として青空の下を大手を振って歩ける奴なんていないんだ」
「そう・・・ですよね」
結局話は続かず、気まずい空気のみが流れる。
そんな雰囲気の中少し歩くと大聖堂の裏に出た。
そこには大聖堂と同じくらい、いやそれ以上の大きさの少し古い建物があった。
「ここが宿舎だ。生活するための最低限の施設は大体そろっている」
そう言ってシャーネは中へと入っていく。俺はそれを慌てて追いかける。
「お帰りシャーネさん・・・あら?、その子は新しい団員さん?」
宿舎に入るとエプロンを身につけ髪を後ろで一つにまとめたお姉さんが声をかけてきた。
よく見ると耳がピンと長くとがっている。もしかしてエルフ的な人?
「ええ、新人です。と言ってもまだ仮なので・・・」
「やっぱり。でもうちって基本的には永久就職じゃなかったかしら?」
人差し指を顎にあてて考えるようなしぐさをとる。
にしてもきれいな人だな・・・何より胸がすげぇ
結構デカいが重くないのだろうか?、少なくとも前にいた世界では見たことないデカさだ。
「マスター・ウェニズマが時間をくれと・・・」
「へぇ、あのウェニちゃんが・・・珍しいこともあるのね」
そう言いながら俺をまじまじと見つめてくる。
近い近い近い・・・いい匂いする!
気持ち悪いですかそうですかすみませんでした。
「えっと、あなたは・・・?」
そういえば名前を聞いていないことを思い出し口を開く。
「アタシ?、アタシはシニカ・エルミール。この宿舎の管理人をしているの、あなたの名前は?」
「如月光夜です」
「キサラギ・・・面白い名前ね」
「あ、いえ、如月が苗字で光夜が名前です」
「「えっ?」」
そうか・・・この世界だと海外とかと同じように名前が前に来るのか・・・というかなんでシャーネまで驚いてるのわかってるんじゃなかってんだ。
「なるほど、ということはコウヤ・キサラギね。コウヤって呼ばせてもらうわ。私のことも気軽にお姉ちゃんでいいわよ?」
「え、遠慮しておきます・・・」
「そう、残念ね」
ちっとも残念そうじゃなかった。
「そうだシャーネさん。案内をするんじゃないの?」
「そうでした。部屋の件はまた後で管理室に伺いますね」
「ええ、待ってるわ。でも、案内するなら先に《仕事モード》は解いておいた方がいいんじゃない?」
「・・・はい」
ん?、何の話?
俺が訳も分からずしょぼんの顔で首を捻っているとシャーネが歩き出す。
「先に私の部屋に行く。ついてきてくれ」
「は、はい」
結局はそのしょぼんの顔のまま彼女の後ろを歩いているしかなかった。