在庫処分
・佳境なので少しぐらい文章固くすべきかと思ったけどやめましたいたんふぉーるつー。
芋砂死すべし慈悲は無い。
というわけで別邸ロビー上の天窓破壊でガラスと一緒にタイタンフォール。
月光に代わって仕置きの時間。入口の扉から入って来るものと待ち構えていた狙撃手たちを急襲強襲速攻撃破。
読みを外して距離を詰められた弓兵ほど楽な相手もおらんので、蹴って殴ってグッバイ現世。
ハデスによろしくまた来世。
「完全勝利S!」
「一応潜入任務だってわかってんのかお前」
「いや天窓ぶち破った時点で無理でしょ」
「……だわな」
兄上が肩をすくめて息を吐くと同時に、その足元に最後の一人が倒れます。
脳震盪か何かですかね。ともあれ、おおよそ十五人、二分と待たずに全滅であります。
「これは楽勝ですかねぇ……」
歯応えゼロがドーンとお出しされてる現状、敵の人手不足は深刻かもしれません。
サクッとやってサッと帰りたいところ。最後まで敵たっぷりとかいらんです。
「慌てんなよ、どこに敵が隠れてるか分かんねぇぞ」
「分かりますよぉ。そこの廊下の角に一人、階段の上に一人、そんでもってそこのでっかい壺の中に一人。計三人です」
『っ!?』
ほら、ガタって物音しましたよ。
「……よく分かんな」
「この程度は夜食前です」
ドヤァ……。だから夜食をください。
「……ほ、ほほう、よくぞ見破った」
「その若さで見事」
「だが、我らをそこに転がっている雑兵と同じ扱いをすれば痛い目を見るぞ」
三方向から偉そうな男の声だけが聞こえてくる。
壺の中でドヤ顔してるのかなって思うとちょっと笑える。
「物陰でコソコソするだけならネズミでもできますよ。出てくるのが怖いのならそこで震えていてください、目障りなので」
「……はっ! 抜かしよるわ」
「ふむ、視は多少良いらしいが審美眼はなっていないようだな」
「世界の広さを知らん小娘が、我らを誰だと──」
「──知っていますよ。グレイゴースト(笑)のグレートスリー(笑)でしょう? それと、一人一言ずつ喋るのもやめてください、耳障りです」
だってそれぐらいしかもうキャラクター残ってないじゃんね。
在庫一掃セールかなってくらい雑。そして雑魚。
元・派遣四天王だったフーやリキッドから聞く限り、そんな飛び抜けた実力があるわけでもないらしいですし、そもそもボスとナンバー2と3が既に出ている時点で、いまさら出てこられても反応に困るというか……時すでにおすし。
ちなみに私、生魚食べられないなのでおすし嫌い。
「……くっくっく、ここまで舐められたのは初めてだ」
「舐めませんよ気持ち悪い。あとちょっとくさいし」
『………………』
「五感で拒否」
兄上がクククッと肩を震わせていますが、実際なんとなく酸っぱいのです。
我慢しろと言われればしますけど、くさいものはくさい。
「いいからさっさと出てくるか、すみっコぐらしで縮こまっているか決めてください。こっちは忙しいんです」
「いいだろうっ! 生け捕りと命令されていたがそんなことはもうどうでもいい! 今此処で我らが殺してやるっ! 聞け! 愚昧なる娘よ! 我が名はグレイゴーストの誇る偉大なる三傑! グレートスリーが一柱! パブロフ!」
「ヘンペル!」
「シュレーディンがくぁwせdrftgyふじこlp!?」
猫っぽい小柄な男が壺から出てきたところ、狙いを澄ませて眉間に手裏剣を射出。
モグラたたきの要領である。
「「シュ、シュレディンガーーーーー!?」」
「いやだって……名乗られても困るし……」
脳の記憶容量がもったいない……。
「だ、だからって貴様っ!? せめて壺から出してや──ぷぎゅ!?」
「ぱ、ぱぶろーーーーーーふ!!!?」
慌てふためく犬っぽい男の顔面に兄上のハイキックが直撃。
こうかはばつぐんだ!
さすがです! 戦場において暗黙の了解なんて何の役にも立たないことをばっちり理解しているのですね!
「ききき、貴様らっ! なんてことをするんだっ! 人が喋っている時に攻撃しちゃいけませんって学校の先生に習わなかったのか!?」
「まだ学校行く年齢じゃないです」
「人の嫌がることを率先してしなさいとは習ったな」
「意味がぎゃkぷぎっ!?」
言い切る前に兄上のリバーブローが炸裂、カラスっぽい男がそのまま崩れ落ちました。
口と鼻から液体を垂らしながらピクピクしてます。
……そーいえば私、来年度は学生なんですねぇ……。
めちゃくちゃ行きたくないな。仮病使おうかな。太陽の光に弱いから夜しか活動できないみたいなサムシング。
「兄上兄上、それもしかして『人のやりたがらないことを率先してやろう』って意味なのでは?」
「なんてこった、そうだったのか。こりゃあ悪いことしちまったな。反省反省」
私にオノマトペが見えたならたぶん兄上の頭上に「しれっ」って文字が出てたと思う。
……私には出てないよ、本当だよ。
「まあ、男が女に会いに行こうってんだ、邪魔する方が悪いよな」
「でーすねー」
これで伏兵も一掃。意外でもなんでもないのですが大したことはなかった。
夜の修道院に相応しい静寂と、寒々しい月明かりが取り戻されました。この青白く神秘的なようで不気味な雰囲気がなんとなく心に作用するのですね。
まあ、今は歓迎できるものでもないのですけど。
「サクラ、もう誰も隠れてないか」
「……そうですね、隠れてはいないみたいです」
「つまり?」
「誰か、歩いてきますよ」
とは言いつつも、うんざりすることにまだ敵が存在しているようで。
廊下の奥から隠す気のない足音が、ゆっくりと、そして段々とこちらに近づいてくるのが聞こえます。男、それもかなりの大柄。
「また面倒な……」
「まとめて出してくれた方が楽なんですけどねぇ……」
愚痴りつつ、それが現れるのを待っていると、予想通り現れたのは、長身の兄上よりもさらに、縦にも横にも大きい髭面巨漢。肩に大きな斧を担いでいます。
見覚えはありませんが、なんか似たようなのどっかで見た気が……まあいいか。
「グレートスリーがやられたか……やはり口だけだったらしいな……」
「誰だ、お前」
剣の切っ先を突きつけながら兄上が問う。
「……問われたのならば、答えてやるのが世の情け。我が名はアンノー、グレイゴースト四天王が一人。山のアンノーである」
「グレイゴースト……?」
「四天王……?」
ふむ………………ふむ?
グレイゴースト(笑)四天王(笑)ってあれでしょ?
【風のガルブレイス】現在:庭師
【炎のシュナイダー】現在:コック
【雲のフー】現在:侍女
【海のリキッド】現在:王太子殿下の護衛
……四人いますよね?
隣の兄上もなにやら困惑顔です。
「ふっ、怯えるのも無理はな──」
「「五人目じゃねぇかっ!!!!!!!!!!!!」」
「ひでぶっ⁉」
あっ、しまった。
思わず説明を聞く前に秘孔を突いてしまいました。
ホーリーシット。五人揃って四天王とかギャグの理由を知りたかったのに。
しかし山のアンノー……いまさらあの四人が隠していたとは考え難いですし新しく補充されたメンバーでしょうか。
それはそれで『グレイゴースト四天王! 俺、一名! 参陣!』って感じで面白いのですが。
アンノー
あんのー
あん のー
Un Know
Unknown
あっ……。
「誰だったんだこいつ」
「わかんない」
悲しみを知ってそう。
***
そのあと適当に寝ている連中を縛り上げて外に放り出してから建物の中を捜索。
義姉上とティシアの部屋らしき場所は見つけましたが……なんと言うべきか、伯爵令嬢の部屋ではありませんでした。
私も他所のことは言えませんが、絡繰り仕掛けのゴチャッとしたそれとは真逆の簡素さ。
清貧を良しとしていても限度がありましょうに。
畳一畳あれば良いなんてのは幻想ですよ。
「……いねぇな」
「そう……ですね……たぶん……こっちの建物には……いないんじゃない……ですか」
もぐもぐ。
「……何を食ってんだ、お前」
「ハムとチーズをパンで挟んだ食べ物です」
またの名をサンドウィッチ。おいしい。
「……言い方を間違えたな。なぜ食ってんだ、お前」
「腐るともったいないので、在庫処分です」
「人んちの台所で?」
「人んちの台所で」
だって義姉上を連れて帰るのならもうここに戻ってこないでしょう。
食べ物を無駄にしたらもったいないおばけが出ますよ。
「………………」
「兄上の分も作りましたよ?」
こう、シュナイダーくんの技術を利用してチーズを焦がすんですよ。
これがまたおいしいんですよね。
ハムチーズは世界を救う可能性を秘めています。
「どやさ」
「……許す」
「許された」
やったぜい。
・設定作ったけど出せなかったキャラのこと在庫って呼ぶのやめろ。
・明日も更新します。