本邸ダイジェスト
・私、魔女のキキ
・こっちはなんか勢いで書いただけの原稿
前回までのあらすじ。
ペンサコーラは死んだ、練度が足りなかったのだ。
中ボスなのにえらくあっさりと死んでしまったが、暗殺者がだらだらと長く戦うのも何か違うので多分これで良かったのだろう。
ASSASSIN/アサシン THE END “それ“が見えたら、終わり。
***
とまあ、そんな感じでこんな感じ。
ところ変わって屋敷のお外。
メーテルの救出に成功したリーとヘイリーは燃え盛るナイトレイ伯爵家本邸を脱出。
近くの林に隠れ、遠巻きに屋敷の様子を窺うついでに小休止を取っていた。
というか本当にメーテルが瀕死だった。むしろなんで生きてるのか不思議。
「ほらメーテル、薬です。飲みなさい」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん、臭いからしてまずいぃぃぃぃぃ!」
「良薬は口に苦しです、我慢しなさい。はいあーん」
クロエ特製のなんかよくわからん怪しげな禍々しい色の液体。
飲むと勇気が上がりそう。栓を開けた瞬間から思わず顔を顰めるほどの異臭が酷い。
を、無理矢理メーテルの口に流し込む。瀕死の相手なので造作もない。
「もががががっ!?」
これも治療の為、慈悲は無い。
だが、クソ不味い携帯栄養食ばかりを選んで食べていた一年前のメーテルと比べると、「不味いを疎む」ことをしてくれるようになった今の彼女の傾向は好ましいとリーは思う。
いやまあ飲ませるんだけど。
「イッキ、イッキ、イッキ」
「うえぇ……やっぱりまずいぃ……」
「よく頑張りましたね。帰ったらクッキーでも焼きましょうか」
「ううっ……プレーンでお願いしますぅ……」
「はいはい、砂糖少な目ですね」
要望が出せるようになったのも良いことだ。成長している。
多分小さな主の意向でチョコレート味になると思うけど。まあそれでも、頑張ったメーテルの分を別口で作るのもリーとしては吝かではない。
「……それで、ヘイリーさんはいつまでそうなんですかぁ?」
「…………(私は捕獲クエにも関わらず対象を討伐しました)」
そういった文字が書かれた木の板を首から提げて正座。おろろーん。
頭にはたんこぶ。
ペンコラの首の骨を一撃で捻じり折ったヘイリーだが、事前の取り決めではペンコラは追い詰めると口が羽より軽くなるので捕縛することになっていた。
それは必須事項ではなかったけれど、失敗は明らかに彼女のミスである。
ちなみにネイティブダンサーはどうでもいい。知らん。
「ああ、良いのですよ。あの子は本当に力の加減が下手で、だからいつも外での仕事が主なんです。……本当、いい加減に慣れてもらわないと……」
「…………(ビクッ!?)」
「ひぇ……」
屋敷猫最古参リー・クーロン、統括の立場にある彼女は怒るとちょっと怖い。
普段表情筋の死んでいる彼女がその口角を上げるのは、主を観察している時と部下が失敗した時の二つだけである。
「まあそれはともかく──」
「…………(´▽`)」
「──ヘイリーにはあとで罰を課すとして」
「…………( ;∀;)」
「私たちは一度、報告も兼ねて帰還しましょうか」
「あれ、他の皆さんはいいんですか?」
「……なんだか、酷いことになってるみたいなのでもう任せて良いかと……」
***
『火事だぁーーーー!!!』
『ナイトレイ貴様! これはどうなっているのだ!?』
『馬鹿っ! そんなことは後だ! 早く逃げろ! どうなっても知らんぞ!』
『かっからだが……おえぇぇぇぇ……』
『ど、毒ガスだ! これは煙じゃない! 少しも吸うな!』
『アッーーー!!!』
『蜂がっ……蜂がいるぞ!? こっちはだめだぁ!』
『正面玄関だ! そこしか逃げられる場所は無いぞ!』
『たっ、助かっ──』
『いらっしゃいませ、ご主人様♪』
『殴殺と斬殺、どちらにいたしますか♡』
そんな感じでこんな感じ。
酷いね。どうしてこんなことするんだろう。
一応少しだけ補足すると、火災への対応によって乱れた警備体制の間隙を突き屋敷の外周を制圧。そこから三つある出入口の内の一つにスズメバチ(激おこ)を放出、もう一つには催涙ガスを散布。
そして残された正面玄関から脱出を図るように誘導してから、出てきたところを夏の虫。
という形である。
「ふふふ……忍法・あなふぃらしきーしょっくの術でござる」
そんなものはない。
「あっ……さ、催淫の方も、な、投げちゃった……」
お前が一番えぐい。
「阿鼻叫喚……」
そうしてなんだかんだと蚊帳の外に置かれてしまったウィリアム君は、屋敷の外周で待機しながらアクロバティック外出を試みる敵さんを見つけてはしばき倒すお仕事に就いていたのだった。
正直、かなりしょっぱい。
屋敷の中には軍属も多くいたはずなのでそれなりの歯応えを期待していたのだが、実際は老害ゲートボールクラブみたいなもんで、戦闘らしい戦闘にはならなかった。
「サクラはいつもこんなんやってんのかねぇ……そりゃおっかねぇわ……」
ニンジャ、ニンジャと言いつつも「忍び込む」と言うよりは「騒ぎを起こして混乱に乗じて奇襲」が主軸のような気もする。破壊工作員の方が適切ではないだろうか。
まあ、なんでもいいけど。
と思った矢先、何かが壊れる音がした。ガラスの割れる音だ。
「ん……?」
「ぐ、グレイゴースト! 大丈夫なのだろうな!? わ、私は助かるのだろうな!?」
「うるせぇぞおっさん! だから今やってんだろうが! ぐだぐだ言わずに黙ってついてこい!」
さてさてそして、運悪くウィリアムの視界の端をちらついてしまったのは窓からの脱出を試みる二人の男。
両方、違う場面で見覚えがあった。
「おいおいおいおい! そこにいるのはリットン子爵じゃねぇですかい! どうしたんすかそんなところでコソコソと、鼠みてぇに逃げ回って!」
「ひっ、ひぃ!? あ、アブソルート!? ど、どうしてここに!?」
「害獣駆除っすよ害獣駆除、王国に巣食う溝鼠を退治しに来たんすねぇ」
背が低く恰幅の良い肌の青白い中年の男はリットン子爵である。
まさかこの男もこの屋敷に出張中だったのは中々に幸運だ、今後の霊国残党の制圧の際に有利に働くだろう。
そして、
「なんだぁてめぇ……まだ殴られ足んねぇのかよ」
もう一人の筋骨隆々の男は先日お世話になったばかりのネイティブダンサー君ではないか。いやはや本当に運が良い。
「は~? 知ってかおい? パンチってのぁね、当たんなきゃ意味ねーの! 親分におんぶにだっこのへなちょこパンチャーが一丁前にほざいてんじゃねぇぞ雑魚が!」
「あ゛?」
「あ゛あ゛?」
「ぶっ殺されてのかてめぇっ!?」
「上等だゴラァ! 痛くて泣いても誰も助けてくんねぇぞ!」
大変ガラが悪いで賞、金賞受賞。
一触即発の空気、のように見えてネイティブダンサーは感情的に動かない。実力の差を理解しているのか、幾らかは理性的らしい。
離脱の機会を窺っている。
ならばと、ウィリアムはゆっくりと右の人差し指をネイティブダンサーに向けた。
「意外と腰抜けなんだな、お前」
「………………」
挑発も、睨みつけるばかりでそれ以上は通じない。
「……俺ぁ言ったよな。馬鹿な俺でもちゃんと覚えてるぜ」
「あ゛? 何言ってんだてめぇ?」
「だから……俺の前に出てきたお前が悪い」
言った直後、ウィリアムは剣を携え突進する。
大地を蹴り一瞬で間合いを詰めると、
「ばっ──!?」
「遅いんだわ」
ネイティブダンサーの拳を掻い潜って、横薙ぎの一閃。
「ああ言った。俺はちゃんと言ったぜ? 次会ったら殺すってな」
血を拭ってから剣を肩に担ぎ、ウィリアムは見下す。
「……歯応えねぇなぁもう! ったく、クソ野郎は何処にいんのかねぇ……やっぱこっちは外れか」
少し落胆しつつもウィリアムは思考を切り替える。
そういうのは帰ったらもう一度シマヅ家の訓練に混ぜてもらえばいい。
先ずやることは、
「そ、そんな! ぐ、グレイゴーストが一撃でっ!?」
「子爵、ちょーっとお話良いかな?」
面倒なごたごたは、いい加減終わらせよう。
***
みたいな?
「そういえばお嬢様は……?」
「メーテルに会いたくないそうで別行動です」
「なんでぇ!? こんなに頑張ったのにぃ!?」
「……先ほどは『よくも私たちの主を泣かせたな』みたいなこと言ってましたけど、あなた一回前科ありますよね?」
「ぎくぅ!?」
「残念ながら当然ですね」
「…………(ドンマイ)」
「うぅ……もうそろそろサクラニウムの枯渇で死んじゃいますよぉ……」
そんなものもない。
「ありますよ?」
「…………(アルヨネー)」
あるって。
・本邸終わり、終わりってことにして。
・次からちゃんサクのターン。
・ちなみにこの連載は次の別邸での戦闘他を書くために始めました。
・あと最近東北きりたん買いました。いまのとこ原稿読んでもらってるだけですけどいつかVOICEROID劇場とか作りたいですね。