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社交界など行きとうない! 3

・コメディ要素が劉備配下になったあとの馬超の存在感ぐらい。

・恋愛要素は貂蝉がメインキャラになってる作品での厳氏の存在感ぐらい。

・あまり関係ありませんが自分の好きな映画はアルマゲドン、グラントリノ、永遠のゼロです。

・ハードルは叩き折ってください。

・書きたかったからしゃーない。

 最初から分かっていた。

 矢尽き剣折れ仲間は倒れ、足は震えて立つのもやっと。息は荒く、肩は忙しなく上下している。

 頬を流れる汗を拭う余裕も気力もなく、全身の痛みに意識を向けて気を保つ努力もいつまで続けられるものか。

 限界が近かった。


「もういいでしょう、そこを退きなさい。リー」


 片眼鏡の老執事は優しい声音でそう言った。


「あなた方の努力と才能は認めます。しかし惜しむらくは時が足りていない。この老骨、伊達に五十年も生きておりません。まだまだ未熟な雛に負けをくれてやれるほど、私の人生は安くはない」


 泰然自若柳の如くと称された英傑・ルドルフ・シュタイナー。

 身体能力の衰えを理由に一線を引いているが、その技術の錬磨は止まることを知らない。

 王国最強との呼び声高いハンス侯爵家騎士団長と同時期に活躍し、王国武術大会では十五年連続準優勝という怪記録を保持。

 戦闘スタイルは閉所での対テロ対集団の制圧を目的とした零距離格闘術。数多の不埒者を退治してきた黄金の拳。

 真の、ステゴロ最強。


 武器も持たない老人がこれほど恐ろしいとは夢にも思わなかった。

 ほんの瞬きの間に距離を詰められる錯覚が脳裏から離れない。


「あなたはよく戦った、敗北も良い経験になったでしょう。大怪我をしないうちに降参することをお勧めしますよ」


 労う言葉と共に発せられたその宣告には真剣に私を心配する意図が確かに感じられた。

 戦闘中もそうだった。明らかに手加減をされ、悪癖を指摘され、まるで指南をでもするかのような戦い方は、極力相手に怪我をさせまいとしたものだった。

 現に体は痛むが、ここで終われば数日もすれば消える痛みだろう。


 ああ、そうだ。

 もとより、勝負にすらなっていなかったのだ。


「はっ」


 自然、笑い声が漏れた。

 もう一度言おう、最初から分かっていた。

 だが、それがなんだと言うのだろうか。


「……執事長も最近物忘れが激しくなってきたご様子、記憶力の向上にはキノコとサーモンをお勧めしますよ」


 挑発するように言う。

 相手が誰かなんて関係ない。

 大切なのは自分が何を為すべきか。

 自分の信念を貫けるかだ。


「アブソルート侯爵家には主を背にして道を譲る者など、一人もおりません……!」


 最後の一本になったナイフを構える。

 為すべきことはただ一つ、単純だ。

 我が主が為、その身を捧げることのみ。


「……褒めるべきか諭すべきか、少々迷ってしまいますね」


 老師はその強い意志の籠った蒼い瞳を見てから、呆れたように息を吐くと、そう言って困ったように苦笑した。


 ===


 しかして同時刻、別の場所にて。

 同じく二人の人間が対峙していた。

 しかし執事と侍女の静謐な戦いとは違い、此の地の戦場は苛烈を極めていた。


 片や齢十五の騎士の少年。

 剣は毀れ、兜は割れ、鎧は砕け、盾はその役目を終えている。

 ふらつく体で左膝を突き、剣を支えにしながらでなんとか倒れまいともがいている。

 しかし、左腕はだらりと力なく垂れ下がり指先はピクリとも動かない、左足にも同じような兆候が表れ始めている。

 顔は極度の疲労からか青ざめており、呼吸すらままならないようで、ヒューヒューと口から音が漏れ出ている。

 額からは血が滴り落ちて左目の視力を奪い、腫れあがった右目は涙に溢れてぼやけた視界しか彼に与えてはくれない。

 口に出すのも憚れるほどに、彼はボロボロだった。


(ああ……僕ってこんな、弱かったんだな……)


 彼──トーマス・パットンは、項垂れた。

 最年少騎士だのアブソルートの麒麟児だの剣の天才だのと持て囃されても、結局はこれが現実だった。

 天才であることは自分でも否定はしない、そこまで謙虚でも卑屈でもない。

 その称号に自惚れた時代もあったが、そんなものはアブソルート侯爵家騎士団に入ってから間も無く恥ずかしさに変った。


 天才は、最強でも常勝という意味ではなかった。

 自分を囃し立てる言葉にはいつだって「その歳にしては」という枕詞が付いてくる。

 一歩、子供という枠から外れれば、自分はすぐさま凡百に成り果てるのだ。


「大口を叩いた割にはあっけなかったな」


 退屈そうな目でそう吐き捨てる金髪の老騎士。

 未だ、健在。


「つまらんな……この程度の実力で天才などと持て囃されるか。だから老いぼれ一人追い落とすこともできんのだ」

(いつもは老人扱いすると怒るくせに……)


 目の前の老騎士こそアブソルート侯爵家の切り札。

 齢五十を超えながらも王国最強。王国武術大会において二十五年連続優勝を成し遂げ、殿堂入りという名の出禁をくらった生きる伝説。

 抜山蓋世嵐の如く、十三段崩しのハンス騎士団長。


「もういい……そこを退け。時間の無駄だ、期待した俺が愚かだった」


 あからさまに不機嫌だと言わんばかりの表情。

 ああ、一応期待してくれてたんだなとちょっと驚いたり、自分の不甲斐なさがちょっと申し訳なくなったり、いやあなたのハードルが高すぎるんだオゾン層より高いぞって怒ったり、不安定な意識でふと思う。


 ──剣を杖代わりに立ち上がる。

 左足の感覚が希薄だ、現状ただ繋がっているだけに過ぎない。

 右足に体重を掛けながら重心を安定させ、そして右腕で持ち上げた剣の切っ先を真っ直ぐと、王国最強に対して向ける。


「何のつもりだ……?」

「僕はもう自分が天才かどうかなんてどうでもいいんです。僕は騎士だ、それ以上でも、それ以下でもない」

「その騎士のお前は騎士団長である俺に対して剣を向けているわけだが……」

「別に騎士は騎士団長に忠節を誓うものではないでしょう。敬愛する主が為、美しき女性が為の献身こそ騎士の本懐」


 自分も軽い気持ちで上司に刃向かったわけではない。

 最強の前に立ち塞がればどうなるかなど子供でも分かることだ。


「ぼ……私はサクラ様の騎士なれば、ここより先は、何人たりとも通すわけには行かない」


 自分はお嬢様の護衛騎士として何の役にも立っていない。

 実力が足りない、経験が足りない、言い訳しようもないほどに分不相応。

 だからこそ──


「騎士としてのあり方だけは、絶対に譲れないんです……!」


 心で負けては何の意味もない!


「死ぬぞ……?」

「もとより覚悟の上」

「その心意気は見事だが、その体で何ができる? 立っているのがやっとだろう、今倒れたところで誰も、お嬢さえも、お前を責めることはないぞ」

「……僭越ながら騎士団長」


 これは、できるできないの話ではない。

 自分が此処に立つのは褒められたいからでも、怒られたくないからでもない。

 ただ一人、主が幸福の為に。


 不惜身命、不退転。


 通りたければ押し通れ。

 然らば命は置いていけ。

 遺書は書いたか祈りは済んだか。


「御託はいいから掛かってこいやぁあああ!!!」


 ともすれば、その叫びはあまりに滑稽。

 しかし、最強の顔が、たいそう楽しそうに歪んだ。


「その意気や良し!」


 嵐が、来る。



 ===



「誕生日パーティーに行く行かないだけでここまでごたつく家も珍しいと思う」

「……すいません」


 父の言葉に気まずくなって視線を逸らしながら言った。

 珍しいというかこの家以外絶対にない。

 正直、サクラの侍女たちの忠誠と連携を甘く見ていたのはあったがあれはないだろ、誕生日パーティーに行きたくないと拗ねているだけだぞ。

 命まで捨てるか普通。

 びっくりしたわ。

 なんだあのクライマックスみたいなやつ。


「ここまで死屍累々になるとはな……」


 実に屋敷の七割の人間が行動不能に陥った。

 なんかこう、数的優位に驕って死兵相手に無策で突っ込んだ気分。戦場なら死んでた。正直すまんかったって感じ。


「どうすんだこれ……」


 未だ、サクラ捕まらず。


・次話はコメディチックに戻るぜよ。

・サッカー観たいから変なとこで切ったのは内緒。

・感想返せてなくて申し訳ない、迷走中なんで許してヒヤンシス。

・よりもいがアマプラから消えたら心ががらんとしちゃったよ。

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