出発前
・ロキソニン美味しい
・更新遅れて申し訳ナイツ
・カワバンガとゴウランガ、どちらを決め台詞にするか悩んでたらこうなりました(大嘘)
・だいたい入院と手術のせいです。
・嘘です九割モンハンのせいです。
アブソルート侯爵家の屋敷からナイトレイ伯爵家までの道のりは、馬を走らせ半日程度。
ですが今回は関所辺りで守りを固めている敵軍を避けるために遠回りして山越えをするので一日半ぐらいかかるでしょうか。
元々霊国が山脈に囲まれた閉鎖的な土地柄だったこともあって、ナイトレイ伯爵家領もえらく交通の便が悪いのですよね。
遠いし、関所の手続きが王国のスタンダードと違って煩雑でしたので、私はあんまり行ったことがありません。
逆に義姉上の方は頻繁にこっちに来てましたけどね。
あれ、スパイ的な意味の他に遠出してでも実家にいたくなかったって面が強かったのかもしれません。
そう考えるとしんどみ。
まあ今となってはもう関係ありませんが。同情してる暇もありませんし。
パッと行ってサッと帰りましょう。
「皆さん忘れ物はないですか? ハンカチはポケットに入ってますか? お弁当はちゃんと持ってます? 水筒の中身は補充しました? トイレは先に行っておくように!」
確認作業、大事。
『はーい!』
「ノリが遠足」
「おやつは三百個までですよー」
『いえーい!』
「単位がおかしい」
「家に帰るまでが遠足です、皆さん元気に笑顔で帰りましょう」
『おー!』
「遠足って言っちゃったよ」
「うるさいですよ! そこのスーパーポンコツブラザーズ!!」
出発前に水を差さないで頂きたい。
「馬鹿を言うな、俺は脳筋でも貧弱でもないぞ!」
いやポンコツて言うたのですが。
「おいおい器用貧乏がなにか言ってんなぁ……ジョーくんが最後に俺に勝ったのはいつだったかな?」
確か六年ぐらい前には負けてた気がします。
「はっはっはっ、人の上に立つべき貴族が腕力なんて競っても……ねぇ? 今は科学も技術も進歩してるんです。時代はここですよ、こーこ」
中指で側頭部トントンしてる。性格悪い。
「ああん? 一人じゃなんもできんような一芸馬鹿が抜かしよるわ」
いやだから全員ポンコツですよポンコツ。ポンコッツ。
「いや、僕はサツキさんいるので。人生助け愛」
「………………」
「ピーターお前! 婚約者に逃げられたばかりのジョーになんてことを! 兄ちゃん悲しいぞ!」
はい今日のお前が言うな大賞はウィリアム・アブソルート選手です。
みんな拍手。
……そろそろこのネタ飽きました。犬が食わないものは猫も食わない。
「ウィリアムお前もこっち側だろうが……!」
「俺はほら、独身貴族だから」
「……すぐにそんなこと言えなくしてやるからな」
「え……まじ?」
あー……。
そういう。
*****
気を取り直して、出発の時間です。屋敷猫には先に外に出てもらいました。
パーティーもほとんどお開きの状態ですし、広間は既に閑散としています。
楽しい時間が終われば次は任務の為に思考を切り替えなければいけません。
屋敷を一歩出れば、もうそこから戦いは始まっています。
狡猾に、冷徹に。
ちなみに、お客様方が客室へ帰って行く中で父上は広間で飲み潰れています。
……いびきをかきながら。
まあ意思決定をしてくれたら周りが勝手に頑張るタイプの人ですから別に作戦中に起きてる必要はないんですよね。
果報は寝て待てとも言いますし、父上はぐーすかぴーしてるのが丁度良き。
それに、いい加減任務に出るたびに心配そうな顔、そしてその下に隠せていない罪悪感を見るのは飽きました。
いつまでも子供と思うなかれ、バレてます。
兄上たちの場合は折り合いをつけてるのに私の時ばっかり。
そろそろ慣れてほしいので今度枕元にでっかいプレゼントでも置くしかないですね。
なんにしましょう……首とか?
「却下だ、なんつー恐ろしい発想してんだお前」
「あてっ」
叩かれた。痛い。
「冗談ですよ冗談。だって臭いもん、父上の鼻曲がっちゃう」
「いやもっと他にあるだろ……」
「………………?」
ちょっと何言ってるか分かんない。
「なんで何言ってるか分かんねぇんだよ」
「……あっ、心臓!」
「違う!」
「ジョークジョーク」
イッツァジョーク。
ほんの軽いジョークですよ。
そんな猟奇的なことしませんってば、シマヅ家じゃあるまいし。
「するなよ」
「しませんてば」
「……本当にするなよ?」
「私を何だと思ってるんですか!?」
「いやだって俺もーお前のできるできないの境界線分かんねぇし。たぶんお前を帝都に送り込んだら歴史変わるぞ? 皇帝暗殺すんなよ?」
「だからしないって言ってるじゃないですか!!!!」
「ならあんま気負んなよ、単純に顔が怖ぇ」
「む」
妹に向かって顔が怖いとは何事でしょう。
いやまあ、確かに強張ってたような気もしますけど。
「……別に、ただ奴ばらの心臓をこの手で抉ってやりたいなーとか思ってないですよ?」
「やめとけよ、お前がそれやってもロクなことになんねぇから。普通にやりゃ平気だ」
そう言って兄上はポンと優しく私の頭を撫でました。痛くない。
「……はい」
「まーそういうのは俺とジョーでやるしねぇ」
「いや、お前はやり過ぎんなよ? いつもフィーリングで動きやがって」
「気のせい」
「なわけあるか」
……そうですね、冷静に沈着に。
私はやるべきことに集中しましょう。
「それじゃあ三人とも、気を付けて」
あ、もやし。
当然ながらもや上はお留守番です。
鶏ガラより少しマシといった肉体ではいるだけ無駄。
現場ではお義姉ちゃん専用のバフアイテム以上の使い道はありません。
まあ三兄弟で一番活躍したのピーター兄ですけど。
「ピーター兄、兄妹で一人だけお留守番で寂しくないですか? 大丈夫です?」
「そうだねぇ……寂しくない、なんて言うと鼻が伸びちゃうね」
少し考えて、ピーター兄はそう言いました。
「あれま」
意外や意外。昔は外に出るのも嫌がってたのに。
梃子(物理)で動いたけど。
「自分の分は理解しているから『連れて行ってくれ』なんて言うつもりはないよ。……けどね、僕だってできるなら三人と肩を並べて一緒に戦いたかった。大事な人の背中を守りたかった。無理だって知っていても、それを悔しいと思わないわけじゃない」
「おぉ……!」
「待つのがしんどいってのは、向こうで死ぬほど体験したしね」
「あー……」
うん、いやでも本当に成長してますねこのもやし。
視線がぶれないし、下も向かない。一本芯が入ったように感じます。
……まあ確かに兄妹四人で「行くぞテメェらぁ!」できれば、それはもう楽しそうではありますけど。
「大丈夫ですよ、ピーター兄の分は私が暴れてきますから」
「……うん」
「それにお留守番も結構大変そうですし」
「……うん?」
「……さっきまでお義姉ちゃんが連れて行けとうるさかったのでお酒飲ませて部屋にポイってしました(小声)」
「はぁ!?」
「……てへっ」
ごめーんね。
「ちょ、なにやってんの!? よりにもよってサツキさんにお酒って……」
「いやね、私もまさかあそこまで酒癖が悪いとは──あ、やば戻ってきた」
視線の先には赤ら顔の酔っぱらい。
眼光は爛々と光り、ハイエナの如き荒い息。
それを見て私はだっ! と逃走。そう脱兎の如く。
グッドラックブラザー! また生きて会いましょう!
甥か姪ができたら教えてね!
『あーーーーーーー!!! ピーターだーーーーーー!!!』
『さ、サツキさん……?』
『………………じゅるり』
『おいおいおい、死んだわ僕』
『がおーっ! 食ーべちゃーうぞーー!』
『ぎゃー!!!』
『脱げおらーっ!!!』
『ぎゃー! ぎゃーー!! ぎゃーーー!!!』
……うっわぁ。近寄らんとこ。
「あいつ、腹から声出すようになったなぁ……」
「いや、そんなしみじみ言うような場面じゃねぇから」
*****
それでは気を取り直して出発進行──
……にゅ?
「サーークーラちゃーーん!!!」
「むぎゃ!?」
抱きつかれました。
撫でられました。
あ、これ良き……
「って母上!? 起きてて大丈夫なんですか!?」
「大丈夫よー、今日ぐらいはねー?」
「でも……」
夜でもお日様の如き笑顔の母上ですが、寝る時間はとっくに過ぎています。
先日まで少し狭い所に隠れていてもらったのでその疲れもあるでしょうし、なにより顔色が良いとは言えません。
ちょっと不安。後ろの兄上たちも若干「そわそわ」してます。
「心配しないでー、お見送りしたらちゃんと寝るからー」
「……むぅ」
母上はいるだけで場の空気がホイップされてフワフワするので強く言えないのですね。
ずるい。
「んー……じゃあ、サクラちゃんが心配するから少しだけね?」
「……なんですか?」
そう聞くと、私に枝垂れかかっていた母上は逆に私を胸の中に抱きしめました。
とても弱い力です。正直、ピーター兄よりもよっぽど。
それでも、めいっぱいにぎゅっと。
そして──
「ありがとう、頑張ってね」
「────」
──優しく、そう言ってくれました。
「それと、今日のアップルパイ、皆に分けてあんまり食べられなかったでしょう? もう一回、作って待ってるからね」
「本当ですか!?」
「ほんとーでーす!」
いぃぃぃぃやほっおおおおおおおおおおおいっ!!!!
「元気かw」
「元気!!!」
「元気なことは良いことだ」
そうです100%元気!
……あっ、違うこれ勇気の方だ。
もとい。
「私! 頑張りますからね母上!」
「はーい、期待してまーす」
「はい!!! 絶対に応えます!!!」
これはもう、負ける気がしないですね。
約束された勝利。
演劇ならメインテーマが流れます。
「……感謝に激励、そんでご褒美に甘いものか。母上も扱いが上手い」
「父上は心配のし過ぎでこっちが不安になるからな。そこが違ぇーわ」
そうそれ。分かる。
「ウィリアムも、体が頑丈だからって無理しちゃダメよ? 今度怪我したらお母さん泣いちゃうからねー?」
「うっ……はい、気を付けます」
そして母上による猪への牽制。巧い。
「ジョー」
「はい」
「やりたいことをやってね。悪いことはしちゃダメだけど、少しぐらい正しくなくても良いの。お母さんはいつでも味方です。……よりよい人生を」
「……はい、ありがとうございます」
おそらく父上や母上、そして兄上の中では今後の指針というものが見えているのでしょう。その上での母上の言葉に、兄上は心からの礼をしました。
「それではお母さんはそろそろ寝まーす。……みんな、いってらっしゃい」
「「「いってきます!」」」
さあ、祭りの始まりです。
・あと一週間入院するので連続更新見てろよ見てろよー




