表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/106

全員集合 4

・何とは言わんけど現状一番チャンスあるのはトーマスです。





『優勝は、ハンス侯爵家騎士団長!』

「えっ、なにやってるんですかあの爺!?」


 私とお義姉ちゃんが完全に気絶してるトーマスを適当につんつn──看病しながら女子会を開いていると、そんな宣言と共に屋敷に大歓声が響きました。

 なにちゃっかり参加してるんでしょうあの不良爺、全身大怪我で帰ってきたのは誰だって話ですよ。


『二位は! ルドルフ・シュタイナー!』

「お前もかルドルフ!」


 さっきまで杖ついてませんでした?

 あ、トーナメント表ありますね。あの二人はシードですか。いつ老いるんでしょう。

 ……兄上二回戦で負けてる。そういうとこですよね、うん。らしい。


『だか試合はまだ終わりじゃねぇ! 三位決定戦の時間だ!』


 あ、続くの。


『赤コーナー! アブソルート侯爵家の沈まぬ太陽! 不屈の闘志と無敵のタフネス! ウィリアムゥゥゥ……アブソルゥゥゥトッ!』


 これ三位決定戦でしたよね?

 一回沈んだんじゃないの?


『青コーナー! 東の国からやって来た、狂走乱舞の示現流! もうちょっと相手に配慮した戦いをしてくれ! トヨヒサァァァァ……シマヅゥゥゥ!』


 なにそれ怖い。


「あ、トヨじゃないか」

「知ってるのですかお義姉ちゃん」

「従兄弟だ、強いぞ。あと頭がおかしい」

「こわぁい」

「大丈夫だ、こっち来たら自分がサクラを守る」

「やったー、お義姉ちゃん大好きー」



 てれっ

 てれっ

 てーれってれてーっ



『あ、あの~……も、もう止めません……?』

「爆散して死に晒せゴルァ!」

「うるせぇテメェが死なんか!」

『聞こえてないですか、そうですか、もうどっちも勝手に死ね』


 これはひどい。


「完全に殴り合いになってるな、泥沼じゃないか……」

「剣が折れた時点で一旦中断するなりあったでしょうに……」


 試合開始十五分辺りにお互いの剣と刀が同時に折れてから始まった泥沼の殴り合いはもう三十分が経過しようとしています。

 一発もらって一発殴る、筋力と体の頑健さに任せただけの野蛮な戦い方です。

 スマートじゃありませんね。

 というか飽きました。観客もなんだか微妙な雰囲気になってますし、ほら、欠伸してる人もいますよ。


「意地と意地のぶつかり合いと言えば聞こえは良いですが、芸が無いんですよ芸が。スタミナ尽きてるから動きがのっそいですし」

「辛口だな。まあ自分は嫌いではないが、確かにこうも長いと飽きが先に来る」

「そうですよ、ウィル兄は次があるんです。ちょっと止めてきます」

「次?」


 に、に、にんじゃのななーつどうぐ

 くさりがまー。

 まあ、鎌の方は今どうでもいいんですけど、分銅付きの方をぐーるぐる回転。

 ウィル兄の足に向けてサイドスローで投擲。

 絡みつけて──


「さっさと倒れっ──!?」

「釣ったらーーーーーーー!」

 ──重心が動く瞬間を狙って、ぐいっと引っ張る。

 そうするとどうなるか。


「あがっ!?」


 ウィル兄が「ビターンッ!」ってなる。

 顔面痛打。こういう時、一回倒れると立ち上がれないこと多いですよね。


『………………えー、はい、勝者、トヨヒサ・シマヅ。はい』

「……そうはならんやろ」

「あ、すいません。ウィル兄回収しまーす」


 ずるずるーっと。

 完全にしらけた空気にしてしまったのは大変申し訳ありませんが、そもそも今日ってそういう場所じゃないし。所詮三位決定戦だし。

 ……なんかまた私が落とし穴発動した時と同じ空気です?

 まあいいや。

 知らん。


「強いなー、サクラ」


 今更です?




 ***




 ウィル兄を引きずりながら(めっちゃ重い)兄上の所に行くと、なんか苦虫をすり潰して粉末状にしてから炭酸水に混ぜて飲んだような顔されました。

 両手がわなわなしてます。


「お前っ……お前なぁ……」

「いやだって今夜のうちに出るって言ったのは兄上の方じゃないですか。あんなのを待ってたら夜が明けちゃいますよ」

「そうだけど、お前にはあの戦いに秘められた熱が感じられなかったのか……」

「知らんです」


 戦いが長けりゃ熱戦ってわけでもないでしょう。

 あれはぐだぐだと言うのです。


「そろそろ時間です、準備しますよ」

「わかったよ。俺は部屋に戻るから出発する時に呼んでくれ、お前たちに合わせる」

「了解です」


 兄上を見送ってから、私も準備に取り掛かります。


「サクラ、何をする気なんだ」


 不思議そうな顔のお義姉ちゃんは、あれのことを知らないんでしたっけ。

 そう、私の一番嫌いな相手。

 ついにやって来た、応報の時間。


「……害獣駆除です」


 自然、口角が上がっていたのは仕方のないことですね。






 ***






「はいじゃー点呼取りまーす。名前を呼ばれたら元気よく返事してください」

「リー」

「はい」

「ヘイリー」

「…………(最高にかっこいいポーズ)」

「レオーネ」

「はーいっと」

「カレン」

「はいっ!」

「クロエ」

「……はい」

「ハジメ」

「はいでござる!」

「チーちゃん」

「………………にゃ~お♪」


 よし、全員いますね。

 以上七名をマグニフィセント・セブンと名付けましょう。

 なんか数人死にそうな名前ですが多分気のせい。

 猫が鼠に負けるいわれはないのです。


「じゃーこれから作戦概要についての復習を始めます。そして復讐も始めます」


 今回の特殊任務、オペレーション・キャットフードの作戦目標は大きく三つ。

 一つ、クソ野郎をぶっころころする。

 一つ、ナイトレイ伯爵家のクソ爺とその取り巻き共をころころする。

 一つ、義姉上を魔の巣から華麗に誘拐する。


「ハジメの調査の結果、グレイゴーストは王国での活動においてナイトレイ伯爵家領を拠点としてることが判明しました。そして今、構成員のほとんどが伯爵家の屋敷に詰めていることも。ゆえに対象は二つ、本館と別邸、これを同時に襲撃します」


 ちなみに上が私の役目。真ん中が屋敷猫の役目。下が兄上の役目です。

 ウィル兄も連れて行きますが状況に応じて適宜配置、トーマスも連れて行く予定だったんですが……まあいなくてもいいかなって。寝てるし。


「今回の作戦の意義は不要な戦争を回避することにあります。リットン子爵家、反王国派の集まる彼奴等との戦争はもう避けられませんが、ナイトレイ伯爵家の領民は大半が融和派です。今回の一件も一部の過激派の暴走に過ぎない。そんな彼らに反逆者の烙印を押し付け、大軍を以てすり潰すなどあってはならないことです」


 ただでさえ、かつての祖国の奸計、王国の暴走によって不遇の立場にあり続けたのです。

 そんなことになれば、あまりにも惨い。


「作戦成功後の処理については御屋形様がロイド・ナイトレイ氏の協力のもとで準備していますので、案ずることはありません。遠慮は無用、容赦なく食い散らかしてください」


 政治的あれこれなことはね、ニンジャ専門外なので必要に応えることにだけ注力しましょう。なに、大丈夫です、私強いので。


「つきましては、みんなには数千数万の命を背負ってもらうことになるわけですが……これがどういう意味か、分かりますか」


 ちょっと低い声でそう言うと、リーとヘイリー以外は少し怯えたような表情をしてしまいます。こーいうとこ経験値の差って感じがしますよね。

 あ、チーちゃんは暢気にあくびしてますよ?


 それはそうと、領民の命を背負うということはどういうことか。

 中途半端は許されず、努力は無価値、結果が全て。成功以外は全て大罪。

 重大な責任が伴います。

 プレッシャーは普段の比ではないでしょう。


 ですが、あまり重く考えすぎるのも良くありません。

 いつだって、前向きに、ポジティブに。

 つまり──


「ここで勝てば英雄(ヒーロー)です」


 不敵に笑ってやりましょう。


「……ふふっ、みんな、聞きましたか?」

「……………(バッチグー)」

「よっしゃー! やってやんよー! ハッハー!」

「カレン・カトラス! ヒーローになります!」

「み、右に同じ……」

「忍びの誇りを見せてやるでござる!」

「ニャーーッ!」


 政治戦争の裏側こそ我らが戦場。

 影の英雄に、なってやろうじゃありませんか。







・サツキさん「か、か、かっこいいー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ