全員集合 3
・普通に戦わせてみた
その疾駆は光速を超える──というのは些か過言ですが、鍛えられた脚力と強靭なバネによってその迫力は放たれた矢の如く、若しくは「死」そのもの。
空気を切り裂く、蜂の一刺しのような致命の一撃。
彼女の性格をそのまま反映したようなストレート真っ直ぐではありますが、常人では分かっていても避けられないだけの速度があります。
「てぇぇぇぇぇいっ!」
「ほいほいっと」
とはいえ私の方が速いです。
腰を捻ってさらっと回避、まあ私は紙装甲なので一発もらえばそこで試合終了なんですけどね。
当たらなければどうということはない、とは言いますが私は「軽い・細い・小さい」の三拍子が揃ってるので本当に直撃をくらうと弱いのが悩みの一つです。
パンチキックで骨ポッキンしちゃいます。
「せぇいやっ!」
「むっ!」
だからこんな足を止めての打ち合いとかと真正面の白兵戦って嫌いなんですよね。
実に正直な突きの連続。まあ突剣なんだから当たり前と言えば当たり前で、芸がないと言われればそう否定することでもありません。
でもそれが強いんだ。
避ける、逸らす、いなす。
私の速度では処理できますが、正直防御する度に腕が痺れるので嫌です。
というか点の攻撃のはずが、速過ぎて弾幕みたいになってるんですけど。怖いんですけど。
「まだまだぁっ!」
「いやそんなにですね──」
馬鹿正直に相手はしません。
一発ミスると負けなので早々にバックステップから。
「逃がさっ──!」
「逃がして」
とついでに煙幕。
屋敷の設備じゃないしこれぐらい使っても良いでしょ。全力って話ですし。
煙もくもく。
……オーディエンス?
知らん。
「小癪なっ!」
まあ、うざったいですよね。
でもこういう人たちって気配で当ててくるんですよね~。
とりあえず先に小細工して、やられる前に仕掛けましょうk──
「そこだっ!」
「危なっ!?」
ヒュー!
かーみひーとえー♪
迷いが無くて大変結構、私はスピードタイプのゴリ押しが一番嫌いです。
とりあえず距離を取r──
「うぉおおおおおおお!」
「ひゅ!?」
見えてないのになんでそんなに突っ込んで来れるんですか。
私はスピードタイプのゴリ押しが一番嫌いです。
私はスピードタイプのゴリ押しが一番嫌いなのでゴリ押さないでください。
「くらえっ!」
くらいません。ゴリ押さないでください。
もう少しカウンターとか警戒してください。ゴリ押さないでください。
ということでもう一回バックステップからの、前上方にジャンプ。
くるっと回って……
「踵落とし!」
技名は叫んで蹴る! ちなみに靴の踵には鉄仕込んでます。当たると痛いよ!
「なんのっ!」
とここでサツキさんは受けずにバックステップ。
そうそうそれで良いのです、だってそこには──
「まきびしですよ?」
「なっ!?」
煙幕と同時にサツキさんの頭を越して後方にシュートしてたのです。
音でバレるかなぁ……とは思いましたが、素直さんで良かった。
ちなみにまきびし、尖ったやつは使ってませんが踏むとめっちゃ痛いです。
まさに足つぼマッサージ。
「ふっ、やっ、とぉ!」
お、避けました。
足の親指と、母指球だけの着地は見事です。
10点!
が、体勢は崩れていますので。
「足元がお留守です」
突っ込んで足払い。
「あ……!?」
「そして、キャッチ」
まきびしに落ちる前に突剣握ってる方の手首を掴み、もう片方の手で首元を抱くようにしてキャッチ。
ちなみに私の指にはカミソリ仕込んでるので、首元に添える形です。
「チェックメイト、で良いですか?」
「……完敗だ」
最初は何が起ったか理解していないような顔をされていましたが、すぐにふっと笑ってそう言ってくれました。これは爽やか。私は健やか。
おっけーい。
「まきびしか……気づかなかったな……」
「んー……僭越ながら前だけを見過ぎですね」
「よく言われる、改善点だな」
「いえ、でも勢いは長所でもあると思いますよ。後ろを守ってくれる人がいるならノープロです」
一対一で戦うこともあまりないでしょうし。
兵を率いて戦う場合はまあ、ピーター兄がなんとかするんじゃないですかね。
いざという時に肉壁にすらならないでしょうが。
「そうか?」
「ですです」
しかし、まきびし攻撃に使うのやっぱ楽しいですね。
基本的に逃走用の代物ですが、戦闘中に踏ませる立ち回りすると良い感じに嫌がらせになりそうですし、クソ野郎との戦いにも使ってみましょう。
ぶっ刺してやるからな!
***
「やり方がえぐい」
「見てる方が痛い」
「常識って知ってる?」
「戦場で常識とか言ってるやつから死んで行くんですぅー!!!」
***
それからどしたか。
私とサツキさんの2回戦がやたらと好評だったらしく、なぜかパーティーそっちのけで王国の東方不敗を決める武闘会が開かれました。
みんな戦争終わりで興奮してたんですかね、血の気の多いことです。
領主さんたちは陣地の方で酒宴を開いていた腕っこきの部下をわざわざ呼び寄せたりもしたので中々参加者のレベルは高くなっているみたいですよ?
私は参加してませんけど。野郎どもだけでやってください。
だって女の子だもの。
……異論があるなら明日に聞きましょう。
無事に朝が迎えられるもんならな!
「あ、ウィル兄とトーマスじゃないですか」
今が何回戦目か知りませんが、いつぞやのリベンジマッチ。
身体スペックでゴリ押すパワータイプのウィル兄と、フィジカルはまだ仕上がってはいませんがセンス◎のテクニックタイプのトーマス。
これは注目の一戦ですよ。
私は運動して疲れたのでチョコとドーナツとポテトチップスを食べながらオレンジジュース飲みますので精々盛り上がる試合をしてください。
「お、巧い巧い。やりますねぇ、トーマス」
ほぼ互角じゃないですか、ウィル兄は怪我明けですけど。
おおっ、シールドバッシュ! 押した! 懐に潜りました、これは行けるんじゃないですk──あ、喧嘩殺法……。
お腹にウィル兄の膝がモロに入りましたね。
立てるかな? 立てないかな? 立つ気が無いかな? 立つ度胸も無いかな?
がんばれー、トーマスー。
あ、立った。やるじゃん。七転び八起きでファイト!
……む!? このドーナツすごく美味しい!
「サクラ、隣良いか?」
「サツキさん。どうぞ!」
隅っこで観戦してる私の隣にサツキさんが腰を下ろします。
ドーナツどうぞ。リンゴジュースもありますよ。
なんならチェリーパイでも焼きましょうか?
「……こんなに食べたら太ってしまわないか?」
「私は食べないと逆に痩せちゃうのです」
「ああ、基礎代謝凄そうだものな」
1日7食は食べたい。あんま入らないけど。
「サツキさんは戦わないでも良いのですか」
「……負けたばかりの相手が参加しないとなればな。男衆で盛り上がってるところに水を差すのも悪い。もちろん参加しても負ける気はしないがな」
「そうですねぇ、確かに我が家でもサツキさんに勝てる相手は……私含めて4人ですかね? ウィル兄はどうでしょう?」
「ウィリアム殿か……今の戦いを見る限り分が悪い。10戦やれば2、3は取れると思うのだが」
「十分ですよ。あれでも王国じゃ十本指に入ったり入らなかったりする程度には強いので」
「この家には十本指が5人もいるのか……?」
「いえ、私は公式ランキングにはいませんし、もう二人は大会出禁なので実質二人です」
ちなみにウィル兄ともう一人は副騎士団長のゾズマ君です。
「それはそれで恐ろしい家だ……」
「シマヅ家は他人のこと言えるのですか?」
「ふふっ、さあ? どうだろうな」
む、そこではぐらかしますか。
ピーター兄から送られた手紙や、今回援軍に駆け付けてくれた人たち。そしてサツキさんを見る限りシマヅ家も大概ですけど。
「これは実際に見て判断するしかありませんね」
ええ、それしかありませんとも。
「ああ、落ち着いたらこっちに来ると良い。自分も、新しい家族をみんなに紹介したい」
「ええ、ぜひに」
にゃはは。
「美味しいお菓子とか教えてくださいね、サツキさん」
あんみつとかいうの、私食べたいです。
「…………なあ、サクラ」
「……?」
「自分とサクラはこれから義理とはいえ姉妹になるんだよな?」
「はい……そうなりますけど……?」
何を今更、という言葉は呑み込みます。
サツキさんはちょっと顔を赤くしながら──
「自分のことを姉と呼んでも良いのだぞ!」
──と、言いました。
大きな期待とちょっとの羞恥に染まったその表情、可愛い。
そういえばサツキさんは一人っ子でしたっけ。従兄弟や歳の近い甥は沢山いるみたいですけどそれも男性ばかりだそうで。
「…………姉、ですか」
「そ、そうだ」
ふむ……たとえば姉上、姉さん、姉ちゃん、ねぇね、ねぇたま、姉貴、姉御、姉君、姉者、お姉さま……あとなんかあります?
「わくわく」
口に出てる……。
「義姉上は……被ってしまうので駄目ですね、そうなると──」
「…………(期待に満ちた眼差し)」
「サツキお義姉ちゃん!!」
「義妹よ!」
「ぐぇっ」
抱きしめられました。
あ、ちょっと待って痛いです痛いです、待って私は耐久E。
「自分は昔からずっと妹が欲しかったんだ! それがこんなっ……可愛いなぁ! サクラは可愛いなぁ!」
「お義姉ちゃん、お義姉ちゃん痛いです、苦しいです」
『勝者、ウィリアム・アブソルート!』
あ、トーマス負けてる。
どんまい。
・全員集合って言ってもそんなキャラいなかったよね。っていう。




