全員集合 2
・依然として話は進まない。
・サツキVSサクラ
お世話になった方、初対面の方とのご挨拶も粗方終わり、現在は美味しい料理やお酒をお供に皆さん談笑を楽しんでらっしゃいます。
そこで私たち兄妹は懲りずにカップルをいじるために、サツキさんを交えてお話をしてみることになりました。
地味に私だけ初対面。
なので改めて自己紹介という流れになりましたが──
「じ、自分はシマヅ家当主タカヒサが四男イエヒサの娘、サツキと申す者! 当家においては侍大将を拝命している! そ、そして今宵を以ってせ、正式にピーター・アブソルートのこんっ、婚約者と相成った! いいい、未だ若輩の身なれど、どっどうか宜しく頼む!」
──お目々ぐるぐる、顔真っ赤、汗がだらだら、ハンカチどうぞ。
すんごい緊張してらっしゃる。
大丈夫大丈夫、嫁姑問題や嫁義妹問題なんてものここにはありません。
アブソルートコワクナイヨー。
トッテモヤサシーファミリーダヨー。
サクラウソツカナイ。
「私はアブソルート侯爵家の末っ子長女、サクラと言います。お会いできて光栄ですサツキさん。うちのもやしが大変お世話になっておりますようで、お味の方は如何でございましたでしょうか?」
「ふふっ……」
あ、ウケた。
「何も問題は無い、むしろ最高だった。最近では家族で取り合いになるぐらいには大人気だぞ?」
「それは良かった、お気に召したようで何よりです!」
そして握手。
緊張はあっさり解けたようです。もやしは偉大。
今度ナムルってやつにしましょう。
それはそうとサツキさんの手、お姫さまって感じのそれではないです。手入れはされていますが騎士団の人と同じ、戦う人の手です。
なんとなくですが兄上より強そうですね、トーマスでも駄目かも。
……ん?
本当に食べたんです?
美味しかったんです?
家族でシェアです?
……まあいいか。
「ふむ……」
サツキさんはサツキさんでなにやら思案するような顔。
ふっ、気づいてしまいましたか。私の強さに。
「ピーターから話は聞いていたが……強いんだな、サクラ殿は。その若さで見事だ」
あ、本当に気づいてくれた。わーい!
「殿は要りません。それにサツキさんもかなりの使い手のようですし、歳も私とそう変わらないでしょう?」
「自分は十七だな」
えっと、ピーター兄が十六なので……。
姐さん女房じゃないですか、一歳差ですけど。
「私は十三です!」
ちなみにもうすぐ十四です。だって春ですからね!
「成長期の四つ差はでかいさ。私が十三の頃はまだまだ弱かったからなぁ……サクラのその強さは誇るべき偉業だ、自分が保証する」
「あ、ありがとうございます……」
こんな真っ直ぐに褒められたのは久しぶりな気がします。
最近みんな私が何かすると「えぇぇ……(困惑)」みたいな表情するんですもん。屋敷猫のみんなは私に対してほぼ全肯定だし。
「そこでものは相談なのだが……」
「……はい?」
サツキさんがちょっとソワソワしながらひそひそと耳打ち。
……なになに?
……ふむふむ。
なるほどなるほど。
そいつぁごきげんですね。
──というわけで。
「模擬戦の時間だぁ!」
「ドンドンパフパフ!」
「「「なんで?」」」
首を傾げる兄三人。
なんでって……なにが?
「侯爵令嬢と一国のお姫様が出会って五分で模擬戦とか言い出した。何を言ってるか分からないと思うがもちろん僕も分からない」
「サクラ、武器はあるか?」
「私の部屋に各種取り揃えてます! サツキさんは何を使うのですか? やはり片手剣でしょうか?」
「ああ、一対一だしな。突剣を借りれるだろうか」
「はーい、取ってきまーす!」
びゅーん!
***
「すごいナチュラルに無視された」
「ピーター、お前の婚約者の強さは実際どんくらいなんだ?」
「二年前の兄さんよりは少し強いよ」
「つまりジョーより強いと」
「悲しくなるからあんま言わんでくれるかそれ」
「僕としてはサクラが今どのくらい強いのか未知数なんだけど……」
「最近ルドルフには勝てるようになってきたよな?」
「確か勝率三割とか言ってたぞ、ハンスにもそろそろ届くかもな」
「え、うそ!?」
「まじまじ」
「まああの二人も衰えて──」
「ほっほっほ、まだまだ若い世代に簡単に勝ちを譲るほど耄碌はしておりませんよ。全てはお嬢様の飽くなき探求と研鑽の成果でございます」
「「「うぉびっくりした!?」」」
「ふん、俺はそうそう負けてやるつもりはないがな」
「あー……打倒ハンスは俺が先に達成してぇなぁ……」
「……十五年早いな」
「正確な分析やめれ」
「ジョーは五十年早い」
「百まで生きる気だこの爺……」
***
「お加減どうですか?」
「うん、悪くないぞ。手に馴染む」
渡した突剣を軽く振りながらサツキさんは満足そうに頷きます。
私の方は普段小太刀一本に暗器多数……なのですが、暗器ってこういう場合に使っても良いのでしょうかね?
もう騎士団や屋敷猫のみんなは私の戦い方を十全に理解してるので暗黙の了解みたいになっていますが、初対面の相手にそれは些か失礼な気が。
いや卑怯卑劣は誉め言葉ですけど。
「ルールはどうしましょう?」
「この家では普段はどうやってるんだ?」
「んー……組み合わせにもよりますが私は基本的に時間制限無しの実戦形式でやってます。まあ、なんでもありですね」
あれですあれ。
最近は専ら私が教える側なので「全力で掛かって来い、相手になってやる」状態なのです。
ハンスやルドルフ相手だと事故が怖いのでそれなりに制限付きでやりますけど。
「ではそれで頼む。手加減はお互い無しだ、全力でやろう」
「えっ」
と、言ったのは私ではなくピーター兄。
私としては「でしょうね」という返答でした。
婚約者VS妹ですから、どっちかが大怪我しようものならと気が気でないのでしょう。
不安そうな眼をしています。
「良いんですか? 私、小さいけど結構強いですよ?」
「構わない。何事も本気でやらねば意味が無いからな」
涼し気に笑うその顔は自信に満ち溢れ、素振りの早さ一つをとってもその強さを保証しています。
うーん、清々しく気持ちの良い人です。もやしにはもったいない。
「んー……本気ですか」
「遠慮は要らないぞサクラ。自分のことは……そうさな、サクラの一番嫌いな相手と思ってくれていい」
胸を叩いてどーんと来いとサツキさんは言います。
「一番、嫌いな相手……」
「そうだ。サクラの一番嫌いな相手が、不遜にも屋敷に侵入してきた。そんなつもりで叩き潰しに来い!」
「屋敷に……侵入……」
ほわんほわんサクサク~~
「ちっ!!!」
クソ野郎。そう目の前にいるのはクソ野郎。
……なるほど理解しました。
「えっ?」
「分かりました。微力ながら力を尽くさせてもらいます」
「あの……それ止めておいた方が……」
と、言うのはこれまた私ではなくさっき審判役に拾ってきたトーマス。
何かを察したのか額に冷や汗が見られます。
「いえ、大丈夫ですよトーマス」
「……そ、そうだな。自分に二言は無い」
「ではサツキさん、こちらに……」
サツキさんの手を取って広い場所へ。
***
「なになに? これなんの話?」
「あ、父上。サクラとサツキさんが模擬戦闘をやるという話に?」
「なしたらそんな話になんの?」
「いやもう教育方針を間違ったとしか」
「あ、シマヅではあれがデフォです」
「なにそれ怖い」
「俺は興味あるな」
「ウィリアムはそうだろうねぇ……」
「ふむ、ウィリアム殿は我が家に興味がおありか?」
「タカヒサ殿!」
「そう固くならずとも結構、家族になるのだ、気安く話してくれたまえ」
「じゃあ早速。いやー俺はバリバリ興味ありますね、王都の学園の単位がやばくなかったら俺が代わりに留学してたはずだったのになー」
「お前は異文化交流ってガラじゃねぇし、行かなくて正解だったろ。なあピーター」
「まあね、兄さんが馬鹿で良かった」
「兄弟も辛辣」
「……家族仲がよろしいのだな」
「ええ、まあ……」
***
なんかギャラリーがめっちゃいる。
というか全員見に来ている。
暇なんですか?
まあアウェーだのビジターだので実力が変わる時期はとうに終わりました。
「用意は良いか? サクラ」
「問題ありません」
お互い適度に距離を取りウォーミングアップをします。
いっちにーさんしー
ごーろっくしっちはっち
「サクラ、初手は譲ろう」
「……はい?」
「まずはサクラの全力が見たい、最初は強く当たって後は流れでというやつだな。もちろん自分も全力で迎え撃つぞ!」
「…………」
その、まあ。サツキさんが私を見下してるとか、そういう訳ではないと思います。
今までそれが当たり前だったから、今回もそうした。たぶんそれだけです。
ふむ、でも、その、逆がよろしいかと……ってのは言い難いですよね、自分の方が年上なのだから引っ張ってあげないと、という気概がありありと感じられますし。
うん。
「……では、行きます」
「来い!」
その声と同時に私は指をパチンと鳴らします。
「え?」
次の瞬間、私が飛び掛かってくるのを今か今かと待ち構えていたサツキさんの──
「落としあ──!?」
──床が消えました。
驚愕の表情と共に落ちてゆくサツキさん。
しかし、さすがシマヅの血を継ぐ女傑、咄嗟に空中で地面に向けて手を伸ばしますが──はいもう一度指パッチン。
「たらいドーン!」
「なんとぉ!?」
ゴーンと鈍い音を立てて、たらいが頭に直撃。
私は星のエフェクトを幻視しながら落下していくサツキさんを見送りました。
唖然とするロビーを静寂が包みます。
「WIN!」
「LOSEだ馬鹿!」
「痛いっ!?」
「サツキさーーーーーん!!!?」
・全員に王太子殿下は含まれないことを……
・てかあいつ名前何だっけ
・というか名前あったっけ
・まあええか