全員集合 1
・あんま話進まなかった。
べりべりはんぐりーぴーぽーわたし。
忙しかった時はなんとか無理にでも必要な分のカロリーは賄っていましたが、まともな食事をしていなかったので非常にお腹が空きました。
死んだ目でクソ不味いご飯を食べながらカロリーだけは摂取してる時のあの絶望感ってなんなんでしょうね、私はショートケーキが食べたい。
「ショートケーキは無い」
「ピ!(絶命)」
「母上のアップルパイならある」
「ふぇにっくす!(蘇生)」
何度でも立ち上がりますとも、絶対に。
なんて、それはそうとリーが夕食の用意ができたと報せに来たので兄上を伴い二回の私の部屋から一階のリビングへとゴー、ゴー、レッツゴー。
しかし、その途中でちょうど誰かが屋敷に帰ってきたようで、玄関の方からなにやら賑やかな声が聞こえてきました。
誰かなーって、少しロビーで待っていると突然扉が勢いよく開かれ、
「たのもーーーー!!!」
「いやここ道場じゃないから」
と、
「あ」
「おっ」
「えっ」
「ん?」
久し振りに見るもやしの擬人化みたいな兄と、異国情緒溢れるとても綺麗な女性が現れたのでした。
おそらくあれが噂に聞くサツキ・シマヅさんですね。前回屋敷に来られた時は会えなかったのでお姿は知りませんでしたが、状況証拠的にほぼ確定でしょう。
これはもうあれですね。あれをやるしかないですね。
私はリビングの方へ走りながら屋敷中の人間に聞こえるように大声で叫びます。
「父上―! 母上―! 三番目の兄上が彼女連れて来たーーーーーーー!」
「え、ちょ、サクラ!?」
制止の声も何のその、私の疾走は止まりません。
そして私の思惑通り父上と母上だけでなく屋敷の各所からウィル兄とかハンスにルドルフ、それに屋敷猫とか他の使用人の人たちも揃って顔を出します。
そして、
「お、なんだなんだ?」
「え、なに本当?」
「えー!? あのピーター様が!?」
「まじで? 大丈夫? ピーター様死なない?」
「わぁ! 良いじゃなーい! 素敵じゃなーい!」
「ほぉ……これはこれは……」
「これまた前回お会いした時よりも随分とお綺麗になって……」
「あれ? 小豆って在庫あったっけ?」
「お赤飯は気が早いでしょ(笑)」
みたいな感じでやいのやいのとどんちゃん騒ぎ。
帰宅一秒で時の人になってしまったピーター兄は羞恥からか顔を真っ赤にしながら俯いてプルプルしてしまうのでした。
「いやぁ、満足」
かいてない汗を拭いながら言うと、一仕事終えた感あります。
「最低だなお前」
「半笑いで言っても説得力無いですよ兄上」
ちなみにもう一人の渦中の人物であるピーター兄の彼女(推定)である、サツキさんは私が「彼女」と言ったことがいたく琴線に触れたのか、
「なぁなぁピーター! 彼女だって! 彼女だって! やっぱり自分たちは恋人同士に見えるみたいだぞ! 見えちゃうみたいだぞ! やったなピーター! なぁなぁなぁ!」
と、瞳を輝かせながらピーター兄をつついてるので彼女で間違いないようです。
まあここで本当は彼女じゃなかったらそれはそれで面白かったんですが、それはさすがに可哀想なのでいや良かった良かった。
しかし、それにしてもピーター兄が彼女を連れてくるとは……。
もやしなのに成長したんですね、妹は嬉しいです。
なにせ上の兄二人はあれですもん。
一人は婚約者に逃げられ……もう一人は彼女いない歴=年齢……。
「……なにが言いたい」
「…………へっ」
「おい」
まあ兄上の方は今後の努力次第でリア充返り咲きですが、ウィル兄はめんどくさがってないで社交界でお相手を見つけて来ればいいのに。
顔も性格も家格も悪くはないんですからはよ行けって感じです。
モテないわけじゃないんですけどねー。なにがそんなに嫌なんですかねー。
私は行きませんけど。
***
なんてことは置いといて、夕食の時間。
もとい『戦勝記念のような敗戦回避記念パーティー兼みんなお疲れ様会 in アブソルート』が始まりました。
参加者はですね……えーっと……だいたいみんないます。たくさん。めにめにぴーぽー。
なんとシマヅ家当主のタカヒサ殿も来ているというから驚きですが、もう完全にピーター兄とサツキさんが婚約する前提で今後の話を父上としていました。
他にも前々から交流のあった王国東方の貴族の方々で、動ける程度に元気な人は粗方参加しているのではないでしょうか。
でまあ会話の中身は何年かぶりに帰ってきたピーター兄の話がだいたい七割。
「えー本日はお日柄も良く、二人の門出を祝うには──」
「あらあなた、今日は皇国では『仏滅』って日らしいわよ」
「そうなの? フローラは物知りだなぁ……」
「ツッコミどころはそこじゃないです母上!」
始まりの乾杯の音頭からしてこんな感じでしたからね。
お疲れ様会と言うよりは『ピーター兄をいじる会』へと早変わりです。
ええこれは私も後れを取るにはいかぬというもの。
「へい! ピーター兄! パイ食べませんか! 母上の!」
「え、嘘? 食べる食べる!」
「じゃあ、はいです」
ナイスパス。
「え、なにこれ?」
「ナイフ」
ナイフパス。
「……なんで?」
「ケーキ入刀ならぬ、パイ入刀です!」
「……なんで?」
「えーだってピーター兄は向こうで式挙げるんでしょう? あっちにケーキ入刀ってないらしいじゃないですか」
神前式とか言うやつ。よく知らないけど。興味もないし。
「いや、そうだけど……」
「彼女さんもやりたがってますよ?」
「うそ」
「ほんとほんと」
兄上の彼女のサツキさん、健康的な体と日焼けからどう見ても快活な性格に見えるのですが、先ほどからどうにもソワソワとしながら父君と挨拶回りをしてらっしゃいます。
察するにお淑やかな女性を演じているのでしょう。
頻繁にピーター兄の様子をチラチラと窺っているのでその様は「落ち着きのない大型犬」を彷彿とさせ、今もピーター兄とアップルパイを見つめながら無いはずの尻尾がぶんぶんと振り回している姿が幻視できるようです。
「お淑やかなご令嬢とか、私がいる時点で……ねぇ?」
「開き直るのは良くないと思うよ」
「開き直ると言っても今回の件でハンスもルドルフもウィル兄も重傷を負いましたが私は無傷、これはもうアブソルートにおいてこの私が最強というのは確定的に明ら──ひっ!?」
殺気!?
武人組が無言で睨んでくるんですけど! 怖い!
なんか言ってくださいよ!
「言うねぇサクラ、俺はお前と十回戦ったら勝ち越せる自信はあるぜ」
「む」
なんか言ってきた。
「それ後半にウィル兄の目が慣れて私が走り回って疲れるからじゃないですか、三戦に絞れば私の圧勝ですよ」
「初見殺しに最強の名はやれねぇよ、なぁ?」
「『なぁ?』って言われても初見で殺される側にはなんとも。久しぶりだね、兄さん」
「おうピーター、久しぶり。でかく……なってねぇなぁ……」
「もやし」
「もやしはもやしでも最高のもやしだから良いんですよ」
む、このもやし成長してますね。前は普通に落ち込んでいたのに。
体つきは留学前と比べて身長がほんのり伸びたぐらいでしかありませんが、姿勢が良くなった気がします。自信でも付けましたかね。
「なんですかピーター兄、彼女同伴だからって強気ですか、そうなんですか!」
「もうさっきから散々いじったんだからそのネタやめない!?」
「いーや、兄を差し置いて彼女持ちになった弟なんて認められねぇよな!」
「ウィル兄はそもそも彼女作ろうとしてないじゃないですか、論外ですよ」
僻む前に作る努力をしましょうよ。
あ、リーはあげませんからね。
「……最近妹が辛辣」
「自業自得では?」
「何の話だ?」
「あ、一番悲惨な人」
「よう、一番悲惨な人」
「お久しぶりです、一番悲惨な人」
「なんかちょっとディスられてないか俺?」
「「「気のせい」」」
はもった。
・おわかりいただけただろうか……




