社交界など行きとうない! 2
・お兄ちゃん回
・お兄ちゃん書きやすい
・恋愛要素は劉禅天下統一の可能性ぐらい
・百一匹阿斗ちゃんの話はしてない。
ジョー・アブソルートは焦っていた。
それはもう、焦っていた。
ちょっと前。宮廷での仕事の報告を終え、宿舎へ帰ろうとしていたところを国王陛下に呼び止められた。
「ああ、ジョー・アブソルート。ちょいと待て」
「なっ、何か御用でしょうか?」
「そうかしこまらんでいい。たいした用件ではない。お主の妹……サクラだったか? 今いくつになる?」
「……十三になりますが、サクラに何か?」
「ん? いやなに、もうすぐ倅の誕生日パーティーがあるからな。確か歳が近かったようなと、ふと思い出しただけだ。生まれたときに一度見た切りで、アレクが全然外に出そうとしないらしいではないか。まあ随分と箱入りのようだな?」
「………そうですね!」
俺はその時、嘘を吐いた。
箱に入っていた例なんか一度たりともないが、だからって「ニンジャをやっています」なんて言う勇気は俺にはない。
箱入り娘よりも秘密兵器と言った方がたぶん正しい。
もしくは最終兵器妹。
「連れてこい」
「はい……え!?」
「なんだ? 倅と同年代の侯爵令嬢だ、言わんでも意味は分かろう?」
正気かあんた。
いやそれを言うならあのサクラにか。
確かに年齢と身分は釣り合っているし、容姿も身内の贔屓目を抜きにしても十分以上だ。
オリヴィエとルドルフの尽力の甲斐あって公の場での礼儀作法にも問題はない。
もしそういう事態になったとしても、重圧で潰れるタイプではないし、どの分野においてもその学習能力には目を見張るものがある。
民を想う優しき心を持ち、使用人たちには慕われ、浪費癖もなく、主人には尽くすタイプ。
あれ……これ結構いけるんじゃ……
いやでもニンジャはねーわ。
「招待状はあとで送る、会える日を楽しみにしているぞ」
それだけ言うと陛下は颯爽とマントを翻して去っていった。
===
なんてことがあったので──
「出てこい馬鹿! 国王陛下から直接の招待だぞ!」
俺は布団にくるまってベッドに籠城するサクラを引き剥がそうと躍起になっていた。
いや力強ぇなおい!
「嫌です無理です行きたくないですぅ! いいじゃないですか箱入りって設定なら! ついでに体が弱いって設定も追加しといてくださいよ!」
「熊より生命力ありそうな奴が何言ってんだ!」
そのスポーツマン体型を一度鏡で見てから言え。
「病弱の代名詞ピーター兄上がいるから信憑性高いでしょ!」
「脳筋の代名詞ウィリアムがいるから無駄だ!」
いやそういう話ではない。
国王陛下からの招待状、つまりそれはある意味では召喚状。
子供のわがままで断れるものではない。
「たかだが二時間ちょっと飯食いながら喋るだけだろうが!」
「それが嫌だと言ってるんです!」
「どこがだ!」
「どうせみんな私のことを変な子馬鹿な子頭のおかしい子って言うんです!」
「………」
くそっ、否定できねぇ。
「否定してくださいよ!」
「してほしけりゃ出てこい!」
「い、や!!!」
魂の断固拒否を続けるサクラ。
ベッドに縫い付けてあるのかと思うほどにその布団は剥がれない。
どうなってんだこれ。
「ドレスがそんなに大事ですか! 刺繍ができるのがそんなに偉いのですか! 花を愛でなきゃ駄目なんですか! 本を読まなきゃ馬鹿ですか! ニンジャはそんなに悪いことなんですか!?」
「それは……」
サクラはそう叫ぶように言う。
わがままと言えばわがままだ。
善し悪しは別としてもサクラが変な子であることに間違いはない。
俺としてもニンジャなんかやってほしくはない。
「私は普通じゃないですよ! そんなのわかってます! だからってなんで否定されなきゃいけないんですか! 悪いことなんてしてません! みんなの役に立ちたかっただけなのに! 私だって遊びでやってるわけじゃないのに!」
「………」
サクラがニンジャに、正確には太祖であるルクシア様に憧れたのは単純に、かっこよかったから。『みんなを助けるかっこいいヒーロー』だったから。
二十年ほど前のアブソルート侯爵領は大きく荒れていた。
今でこそ繁栄を遂げているが、それは父とその仲間の尽力があってこそだった。
サクラがニンジャを拗らせ始めた六歳の時。
父やハンス、ルドルフの多忙さは当時幼かった俺も子供ながら不安になるほどだった。
栄養剤を腹に流し込んで徹夜したり、化粧で目の隈を隠したり、ひどい時は倒れかけたりなんてことは日常茶飯事で、特に父なんて要領の悪い人だから見ていて危なっかしいのでハラハラしたものだ。
俺も、ウィリアムも、ピーターも、そしてサクラもみんなの力になりたかった。
それでサクラの場合変な方向に行ってしまったが、家族を想う真摯な心の発露であったことは誰にも否定できないし、否定させない。
そもそも遊びで到達できるような場所にはもういねぇし。
つか俺より強いのはどうなんって感じだ。
そっと、布団から手を放し、ベッドの前に腰を下ろした。
「なあサクラ、一回だけ、頑張ってみないか?」
「………」
返事はない。
「お前の未来には無数の道が広がっている。そこからどの道を選ぶのかはお前次第で、今の道だってお前が真剣に考えた結果で、それが駄目だなんて頭ごなしに否定はしない」
「………」
「でもお前はまだ十三歳だ、歩む道を確定するにはまだ早い」
「………」
「七年前と今は違う。お前はあの時今の道を選んだのか、それともその道しか見えてなかったのか、自分でもわかるか?」
「………」
「お前は令嬢っぽいことをしてこなかったんじゃない、俺たちにさせる余裕がなかったんだ。それはすまなかったと思う。でも、今ならさせてやれる」
「………」
「刺繍だってパーティーだって案外、楽しいかもしれない。もしかしたらお前には楽しくないのかもしれないけど、わからず終いはもったいないだろ。道は無数にあるんだ、他の道に変えちゃいけないわけでもない、寄り道してもいいし、道草食ってもいい、振り返って逆走したって問題ない」
「………」
「その結果お前が今の道を進みたいってんなら、俺も反対はしな──いや、反対はするな。たぶん。うん。する」
「………」
「──でも、止めはしない。今はまだ理解してやれないかもしれないが、理解してやるための努力を怠るつもりもない。俺は、お前の選択を尊重する」
「………」
「お前は優秀だ、その活躍も、努力も、俺は知っている。でもこれだけはわかってほしい。お前が戦う必要はないんだ。確かに帝国は怪しいが、国王陛下は聡明な方だ。この家だってハンスとルドルフが現役である限り滅多なことは起こらない。それに俺だってもう二十一なんだ、ちったぁ頼れるお兄ちゃんになれたつもりなんだぜ?」
「………」
「俺も一緒に行ってやるし、なんかあったら守ってやるよ。だから──」
「………」
「おい、なんかおかしくねぇか」
俺は急に嫌な予感がして立ち上がって、布団を引き剥がしにかかると、何の抵抗もなく布団が宙に舞った。
そして──
「おらんのかいぃいいいいいいいいい!!!!!」
そこにはサクラと同じくらいのサイズの丸太が寝そべっていた。
そして書置きの紙が一枚貼り付けられていた。
内容はたった一文「特務騎士(笑)」
「………………」
あ ん の ぐ ま い が あ !
いいだろう、相手してやる。
確かに俺にはウィリアムのような強さも、ピーターのような頭の良さもない。
だが、思い知らせてやろう。
「兄より優れた妹など存在しねぇということを」
首を洗って待っているんだな。
「ん?」
しかしながら、ふと振り向いたところ。サクラの机の上に置いておいたお菓子の箱の中からマドレーヌだけが綺麗に消えていた。
「………」
いや別にいいけど。ウィリアムの分はちゃんと用意してあるし、サクラのために買ってきたやつだけど。
ここまでコケにされるのは久しぶりだ。
よろしい。なればこれは喧嘩ではなく戦争だ。
屋敷の全兵力を使ってお前を追い詰めてやろう。
・前回冒頭のあれについて。
・ミステリアスで良くねって思って書きました。
・ぶっちゃけ伏線でやんす。
・本編は基本ノーシリアスで続けます。
・書きたかったからしょうがない。
・許してヒヤンシス。
・この作品はハッピーエンドなので、希望の明日へレッツゴーします。
・バドエンは苦手です。でも某ぶっちーは好き。
・さよ朝とアニゴジとリズを観ようね。