お母さんはどんな人?
・ママンは普通の人なんだ……ごめん……
CASE1
インタビュイー:ピーター・アブソルート
インタビュアー:サツキ・シマヅ
はい? 母上ですか?
んー……そうですねぇ……
母上も僕に負けず劣らず体の弱い人ですからね、お互い体の調子が合致することがほとんどなくて一緒に何かをしたって記憶はあまりないんですよね。
あ、いや、別に気にしてる訳ではないのでそんなに申し訳なさそうな顔はしないでくださいよ。そりゃあシマヅ家の生活と比べれば薄味の子供時代だったかもしれませんけど、僕は十分楽しかった。
母上はなんというかふわふわぽわぽわした性格なんですけど、案外好奇心が旺盛でして。
四児の母ですのでそれなりに歳を重ねてはいますが、今でも新しいことや習い事が好きで積極的に取り組んでるんです。
手芸やら生け花やら楽器やらと色々と手を出してはまあ、だいたい下手なんですけどね、少し上達したりすると凄い楽しそうに成果を自慢してくるものだからこっちまで嬉しくなってきたり。
一緒にお出掛けをしたりはできませんでしたが、誕生日にケーキを手作りしてくれたり、不器用ながら手編みのマフラーをプレゼントしてくれたり、寝込みがちな時期でも精一杯構ってくれましたので本当に、優しい母ですよ。
いつだって柔らかな笑顔でころころと笑っている。
平和な日常、その象徴みたいな人です。
CASE2
インタビュイー:サクラ・アブソルート
インタビュアー:トーマス・パットン
私は母上が大好きです。
…………ん? それだけですかって?
え……これ以上何か言う事あります?
別に長々と語ってもいいですけど三時間ぐらいかかりますし、結局のところ結論はさっきの一言に集約されるじゃないですか。
え? 三時間でもいいので聞きたい? いやトーマスそんな暇ないじゃないですか。
語彙力があれば愛があるって訳でもないですし、そもそも母上が最高に優しくて一緒にいるだけでとってもハッピーなことぐらい屋敷の皆はもう知っているでしょう?
……ふむ、屋敷の皆が知らない母上の良いところですか。
母上は裏表がないのでどこまで行っても100%あのままなんですよね。
んー……そうですねぇ……強いて、強いて言うなら料理がすっごく上手なんです。
正直母上は不器用ですし、滅多に台所にも立たないのでトーマスみたいに最近来た人はには知らない人も多いかもしれませんが料理だけは本当に得意で、特にスイーツに関してはパティシエ顔負けの腕前の持ち主なのですよ!
……母上のアップルパイ。
林檎の旬、母上の体調、何らかの祝い事、この三つが奇跡的な確率で揃った時にだけしか食べられないそれは、同じだけの重さの金塊よりも価値があると言われています。
外はサクサク、中はしっとり。
香ばしくほのかに甘い皮と、甘酸っぱく煮た林檎が舌の上でとろけて最高の味になります。絶品です。
まあ私も十歳の誕生日に作ってもらったっきりなんですけどね。
……もう一回、食べたいなぁ……。
CASE3
インタビュイー:ジョー・アブソルート
インタビュアー:ジェシカ・ナイトレイ
は? 母上?
いや前に会ったことあるだろ、そのまんまだよ。
無邪気な子どもがそのまま大きくなった感じ。
あー……でもな、前はもっと元気だったんだよ。ピーターは憶えてないだろうし、サクラはまだ生まれてもいない時だったけど一緒に海に行ったこともあったな。
まあ爺さんの件で体を壊してからは屋敷の庭を軽く散歩するのが限界になっちまったが本当はアウトドア派だったんだよ。
父上に内緒で庭園に畑作って野菜育てたりもしてたな。あれが美味くて、ウィリアムの野菜嫌いが治ったりもしたもんだ。今は再発してるけど。
あいつ肉と炭水化物しか食わねぇんだよなぁ。
……それはともかく、良い人だし、良い母親だよ。それは俺が断言する。
王都に来てからも毎年誕生日には手紙と手製の編み物を送ってくれるんだ。
俺の誕生日は秋口だから編み物の方は結構ありがたい。
まあぶっちゃけ編み物は下手っぴなんだけど……暖かいんだ、本当に。
それに年々ちょっとずつだけど上達してるから密かに楽しみだったりするんだよなぁ。
……手紙の方は読んでてこっちが恥ずかしくなるくらい、真っ正直に気持ちを伝えてくるから苦手だ。でも、まあ、嫌いじゃないよ。
CASE4
インタビュイー:アレクサンダー・アブソルート
インタビュアー:ルドルフ・シュタイナー
フローラはさ、何も言わなかったんだ。何も、言わなかった。
僕は入り婿だったから、結果で言えば僕のやったことは乗っ取りとほとんど同じだもの。
実際に嫌われてるところからは「拾われた恩を仇で返した」なんてよく言われたよ。
表向きは病死ってことにはなってたけれど誰がそれを信じるかって話だよね、フローラも当然分かってたと思う。
でも彼女は泣きもせず、責めもせず、ただ静かに、悲しみを押し殺しながらずっと傍に居てくれた。
あの時の僕は本当に憔悴していた。凄く辛かった。子供の顔すらまともに見られなかった。
だけど、彼女の方が辛かったはずだ。
優しかった父が殺され、それを成したのが自らの夫。口には出さずとも体を壊すほどの心的負荷だったのだから。
それでも、フローラは。
今日は何をした、明日は何をしよう、こんなことをやってみたい、こんなことをしたらどうか。と、いつものように柔らかな口調で彼女は僕に接してくれた。
屋敷から人が消え、笑顔が消え、暗い雰囲気が漂う中で、彼女だけがいつもの日常を続けてくれた。
辛かったろうに、泣きたかったろうに。
僕にも子供たちにも、そんな素振りまったく見せずにいてくれた。
それにどれだけ心を救われたか、言葉だけでは伝えきれない。
***
「何故──という言葉の前に俺から説明しよう。まあ単純な話なのだが。お前の兄の婚約者、名前はなんといったか……まあいい、それがよくこの屋敷に来ていたらしじゃないか、それも頻繁に。お前の妹がよく懐いていたのだろう? 屋敷の設備を一から十までべらべらと自慢するくらいにな。……素晴らしいよなぁ兄妹の絆ってのは。お前自身は何も悪くないのに、まんまと女に騙された兄妹に足ぃ引っ張られて負けちまうんだから」
「………………くそが」
ふらふらとしながらも立ち上がり、頼んでもいないのにべらべらと喋るエンタープライズに対しそう吐き捨てて、ウィリアムは剣を手放した。
ぐったりとして気絶している母を見る。
兄妹の中では比較的冷徹になれる性格をしていたウィリアムではあるが、それでもどうしたって捨てられないものがある。
「母上に一つでも傷を付けたら分かってんだろうな?」
「もちろん、人質の扱いには十分に配慮する。唯一と言っても良い切り札だからな、馬鹿な真似はせんよ」
「そうかいそうかい、そいつを聞いて安心した。……で、俺はどうすりゃいい?」
「さらに安心すると良い、殺しはしない。ただ少しばかり眠ってもらうだけだ」
言って、ペンサコーラが母の首元に刃を突き付けネイティブダンサーが指を鳴らしながら前に出る。
実に楽しそうに顔を歪めていた。
まあ、そうなるだろう。
「別れの言葉を聞いておこう、何か言い残すことはあるか? ウィリアム・アブソルート」
上から目線の余裕の言葉。
それに対しウィリアムは思いっきりの憎悪を込めて言う。
「次会ったら殺す」
「……良い啖呵だ、感動したよ。──だが無意味だ」
次の瞬間、ウィリアムの頬に拳がめり込んだ。
・お兄ちゃん二号「ぬわーーーーっっ!」
・CASEの時系列はバラバラ。
・次主人公が出るよ。ニンジャは汚いからきっとへっちゃらさ!
・ちなみにウィリアムが強いのは二割の才能と五割の努力と三割の環境(騎士団)
・ジョーもだいたい同じ。
・サクラは突然変異。