家内騒乱 3
・短いんじゃよ。
・それはそうと10茸、この前観ました。
・主人公がエゴエゴしてて面白かったです。
・普段ああいう大人になれないタイプの主人公苦手なんですけど最初から最後まで一貫してたんで一周回って「ええやん、頑張れ」ってなりました。
・特に新海誠監督のフォロワーではないんですが君の名は。に続いてあのレベルの作品連発できるって凄いっすなぁ。
・そんで秒速は絶対見ねぇぞって決意が深まりました。(あのクオリティで心抉られたくない)
ウィリアムが落とした剣を拾った時、くぐもった笑い声が漏れ聞こえた。
「くっくっく……まさか十分すら保たんとは、笑えてくるな……」
「あ? んだよ、まだ意識があったのか?」
「意識だけはな。もう、指一本すら動かせん。完敗だな」
「良し、今から心臓も止めてやる。そのまま動くなよ」
剣を逆手に持ち歩み寄る。
うつ伏せの状態のエンタープライズは、言葉の通り微動だにしない。
ぶん殴った時に手応えは確かに感じた。少なくとも、死んだふりに類する演技ではないのは間違いない。
「仲間の居場所を吐くなら苦しまずに殺してやる。何も言わねぇなら痛めつけて殺す」
「……前にも同じような台詞を聞いた覚えがあるな」
「死刑執行五秒前だ、早く決めろ」
「OK分かった、吐こうじゃないか。どうせこんな体だ、もう抵抗はせん」
「……ちっ」
「露骨に舌打ちをするんだな、お前は」
心底残念そうな顔をしながらウィリアムは今にも突き立てようとしていた剣を止めた。
そのまま座標をずらして心の臓の上へ。斬り刻んで滅多刺すのは残念ながら中止だ。
喋ったら殺す。動いても殺す。喋らなくても動かなくても殺す。そんな感じ。
「まあ、言わずとも分かっているだろう。俺が時間稼ぎであることくらい」
「………………そりゃあ、な」
それは、そうだろう。
あまりにも不自然が過ぎた、これで何の策もなく突っ込んできたのであれば何のために出て来たのか分からない。
「命令があってな、この屋敷からある物を盗んで来いと言われた。だがどうにもお前が邪魔で邪魔で仕方がないから、嫌々ながら俺が相手することになったわけだ」
つまりは他の二人もこの屋敷に侵入しているということらしい。
「そいつはとんだ貧乏くじを引いたもんだ」
と、言いつつもウィリアムはこの屋敷を攻略しなければならない二人の方に同情していた。
なんと言っても一瞬でも気を抜けばすぐさま硫酸の溜まった落とし穴に嵌ったり、四方八方から槍に串刺しにされたり、突如として転がる大岩に追われたり、迫りくる壁に圧し潰されたりするのだから目も当てられない。
たとえグレイゴーストのような専門家が相手だとしても、設計したのはその道の最高峰。
アブソルート侯爵が誇る最終兵器。
申し訳ないが格が違う。
「そうでもない。この屋敷の堅牢さは俺たちの業界でも有名だった。一度入れば二度と帰って来れない地獄の釜、今となっては眉唾と笑い飛ばすこともできん」
「……そうかい」
地獄の釜をこの世に顕現させる妹、怖い。
ウィリアムは複雑な気分になる。なんとも言い難い。
そして、エンタープライズの続く言葉に──
「俺もな、屋敷の防衛設備について聞かされた時は大層驚いたものだ。狡猾でどこまでも抜け目がない、偏執的なまでに侵入者への殺意に満ちた罠の数々。……あれは知っていても難しい」
──尋常ではない寒気と共に、大きく息を呑んだ。
「お前、いまなんて言った……?」
震える声でウィリアムは問うた。
あれだけの戦闘の後にすら汗一つ掻かなかったというのに、瀕死の男の言葉一つに冷や汗が止まらなくなっている。
嫌な予感が、それもとびきりの最悪が、脳裏を過る。
「聞こえなかったか? ならもう一度言おう」
うつ伏せだった男の顔が左に曲がる。
その横顔は、死を前にした諦観ではなく、
「あれは、知っていても難しい」
愉悦を前にした嘲笑だった。
「っ!?」
その一言で目の下の男のことなど全てがどうでもよくなった。
逃げたいなら勝手に逃げればいい、盗みたいものがあるなら持って行けばいい。
十秒前までこの世で一番嫌いだった男に背を向けて、ウィリアムは屋敷の奥に向けて駆け出した。
だがそれも、たった五歩走ったところでピタリと止まる。
「あ? んだよ十分保ってねぇじゃねぇか、だっせぇ」
「え……あなた自分がこの前誰に負けたのか覚えてないんですか?」
明かりのついていない廊下の暗がりから二人、いや三人の人影が現れた。
一人は、そう細身の女だ、ペンサコーラとか名乗っていた。
もう一人は筋肉質の大男、ネイティブダンサーとか言ったはずだ。
そして、大男が雑に肩に担ぐ、一人の女性。
それは、見ただけで脳が沸騰しそうな光景だった。
「はは……うえ……」
まともに呼吸すらできない状況で、なんとか絞り出した声。
自分が、家族が、誰よりも大事にしていた人。
体が弱くて、病気がちで、一緒に何かをした思い出なんて数える程度しかないけれど、いつだって優しく見守ってくれた最愛の母。
フローラ・アブソルートが、グレイゴーストの手に落ちた。
「チェックメイトだ、アブソルート」
・書いた後に気づいたんですが、そういえばママン今まで数える程度しか出番無かった。
・どないしよ。