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今ここにいる人たちの話 7

・HIGH & LOW の新シリーズが始まりましてたね。なんとアプリも配信されるそうで。

・僕は芝マンに食券を賭けます。

 壊滅以上殲滅未満。

 完璧に決まった三方包囲戦術と散々に続けた追撃戦によって兵も将も多く討ち取られ、アブソルート侯爵家領方面の帝国軍は完全に崩壊した。

 這う這うの体で陽平関に帰っていった彼らはきっと妖怪「首置いてけ」の恐ろしさを一生忘れないだろう。僕も忘れない。すごい怖かった。

 楽勝ムードの中後ろからあんなのに襲われたらそら泣くよ。

 僕なら泣く。なんなら死ぬ。


 だけど剣閣方面の敵は健在、依然として予断を許さぬ状況だ。

 早くに援軍に行きたいけれど強行軍に次ぐ強行軍でグイシーマンズと言えど疲労の色はかなり濃い。シマヅ家にもスタミナという概念はあるのだなと改めて知る次第。

 でも彼らのなにが厄介って、自分が疲れているという自覚が無いとこなんですよね。

 限界が来て体が動かなくなったときに初めて己の疲労に気づく。

 いつだってアドレナリン・ハイボルテージ。

 お願いだから疲れたら自己申告してほしい、管理する身にもなって。



 それはさておき、


「弁明があるのなら聞きます」

「……ありません」

「それは良かった。素直さは美徳ですよ」


 現在は正座でお説教タイムです。

 勝てば官軍とは言ったもので、今回のMVPを選ぶのならそれは間違いなくサツキさんである。がしかし、規律違反はいただけない。


 シマヅ家に不必要なもの、それは正気。

 シマヅ家に必要なもの、それは理性。

 どれだけ思考が狂ってようが構わないけれど、考えずに動くな。考えたくないなら僕が考えるから。お願い。本当に。


「皇国の常識と僕の常識が違うのは理解しています。戦場で果てるが武人の誉れという考え方も否定はしませんが、僕はあなた達を死なせたくない、一人でも、多く。それは、わかりますか?」

「はい……」

「人道的にも、経済的にも、人が死んでプラスになることなど無い。このマイナスが少しでも小さくするために僕がいるんです。でも、サツキさんが僕の言うことを無視して無茶をすればそれだけ多くの兵が死ぬことになる。そしてそれをあなたが是とするのなら、僕がシマヅ家に居続けることはできない」

「っ!? そんなことはないっ! ピーターは我が家にっ……いや、自分にとって本当に大切な存在だ! そんなこと言わないでくれっ!」


 ………………。

 あっ、ちょっとタンマ。

 待って、待ってね。うん。


「んんっ! ……でもね、堪えられないんですよ──」


 いや本当に。


「──胃が」


 コフッ!


「わーーーーーーっ!!!」


 ぼくもう疲れたよ……なんだかとっても眠いんだ……。




 ***




 もとい。

 まあぶっちゃけ割と無理して立っていたので倒れてしまった僕が目を覚ますと、そこは救護テントの中だった。固いベッドの上。

 いやー、説教の間ぐらい保つかと思ったのだけど、現実はそう甘くなかった。

 まだ仕事は残ってるんだけどね。

 起き上がろうとして状態を少し浮かしたところ力が入らず枕にぼすっと沈んでしまった。

 あと口の中で鉄の味がする。


「起きられましたか……ピーター様」


 ふと隣のベッドから声がした。


「ああ、ハンス、久しぶり」

「ええ、本当に。……もう会うことは無いと思っておりましたから」

「ひどいな、僕ら兄妹の孫を見るまで生きるって約束したじゃないか」

「……いつの話ですか……」

「サクラが生まれた時かな? 記憶力は良いんだよ、僕」

「それは……危うく約束を破るところでしたな」

「本当……ひどいやつだ」

「……………」

「……………」

「まあ、そうですね。お相手もいるようですし、案外早くなりそうだ」

「ひどいやつだな。みんなの前では揶揄うなよ?」

「そんな約束はしておりませんだな」


 二人で会話しながら弱々しくもからからと笑う。

 その後もぽつぽつと近況報告でもしてると、遠くから早くて大きな足音が。


「ピーターが起きたと聞いて!!!」

「ピーター・アブソルートは起きてますよ。起き上がれませんが」


 息を切らせながらやってきたのはサツキさんだ。

 焦ったような顔で僕を見つけるとふらふらと近づいてきて、ベッドの側に崩れ落ちた。


「し、死んじゃうんじゃないかと思ったじゃないかぁ~!!!」


 涙ながらにベッドをぽかぽかと殴るサツキさん。


「ああ、話の続きなんですが──」

「いまか!?」

「何度も言ってますけど本当に、無茶をしないでください。あなたがいなくなってしまったら、僕は失う痛みに堪えられない。それなら、最初から一緒にいない方がマシだ。……お願いします、どうか、死なないで」

「いまのおまえがぁ……いうなぁ!!!」

「大丈夫、。僕は絶対サツキさんを置いて行ったりはしないよ。……置いて行かれない限りはね」

「自分もピーターを置いて行ったりしない! 約束する!」

「じゃあこれから騎兵の指揮禁止ね?」

「え゛」

「約束ね?」

「……はい」


 言質取ったり。


「いや待て! それなら自分は何をすれば良いのだ?」

「僕と一緒にいてくださいよ、前までそうだったし」

「……………はい」


 言質取ったりぃ!


「じゃあもうお説教は終わりです……サツキさん、ちょっと起き上がれないので手を握ってもらえませんか?」

「? ……ん」


 差し出された右手を握る。

 お説教が終わりなら、次にやることは一つだ。


「ありがとうサツキさん。家族を助けてくれて。あなたがいてくれて良かった」

「なっ……!?」


 ただ、感謝を。


「……それと、好きです。心から」

「~~~~~~~~~~~~~!?」











「……………他所でやってくれんかね」









 ***







「前を守れば後ろが空く、常識だな」


 闇夜に一人、男が呟いた。

 傍にあと二人、控えている。


「大軍は囮に使ってこそとは誰の言葉だったか。四万の囮とは贅沢な使い方だ、中々に気分が良い」

「行きますか?」

「行くとも、仕事の時間だ」


・そりゃサブタイトル的に出るよなっていう。

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