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今ここにいる人たちの話 5

・ここまで読んでくださった皆様も常々感じられていることなのでしょうが、更新再開するにあたって決死の思いで自分の書いた物を読み返してみると「お前にはよォ……! 世界観ってモンがねぇのかよああん!?」って感想しか出てこなかったのでこれからも世界観を無視したいと思います。

 船に乗っているときからピーターはずっと苦しそうな顔をしていた。

 少し小突くだけで死んでしまいそうな、弱々しい姿だった。

 それは、もちろん船酔いのせいというのもあるだろうが、それだけじゃあないことは自分にも理解できた。

 家族の危機に自分は遠くにいて、駆け付けようにも間に合うかどうか。

 今この瞬間にも大切な人が傷ついているかもしれない。

 そんな不安が胸を圧し潰すまでに膨らんだ状況でも、あいつはそれを周囲に悟らせまいと必死に隠していた。

 まあバレバレだったんだが。

 でもそーゆうところが良いと思う。実に。


 *


 ピーターはいつだって冷静だ。

 どんな時も自分ができる最善を理解していて、過大評価も過小評価もあいつの辞書には書かれてない。

 自分だったら何も考えずに突撃するような場面でも、あいつは先の先を考えている。

 港に着いた時、本当は即座に家族を助けに行きたかっただろうに(まあ走ったらたぶん吐いてたと思うけど)落ち着いて現状を把握して作戦を立案、その顔はシマヅ家で名将アキトゥーラを相手に互角の知恵比べをした軍師のそれだった。


 シマヅ家でのピーターは基本的に相手の策を回避することに注力していた。

 まともに戦えば勝てるのだから、相手にまともに戦わせる。

 勝つべくして勝つが、ピーターの戦いだった。

 それでもオウトモ家とのとある戦い、伯父様が敵の罠に嵌り寡兵での戦いを強いられたここぞの場面で、ピーターは策を発動した。


 三面包囲戦術『釣り野伏』。


 少数の囮を使い撤退する振りで敵を釣り、左右に伏せていた兵で包囲を図る、言ってしまえばそれだけのことであるが、言うは易く行うは難しの典型だ。

 特に釣り役には多大な負荷が掛かるため高い練度と士気、複雑な連携行動、そして信頼関係が求められる。

 そう信☆頼☆関☆係が!


 しかし結果はアキトゥーラの募り募った疲労と焦り、そして苛立ちから生じた一瞬の油断を見逃さなかったピーター初の作戦勝ちだった。


 その戦では自分の父様が釣り役を担当していてとても羨ましかったのを覚えている。

 自分が……やりたかった……!

 でもあの戦を機にピーターへの信頼を深めた父様によって婿入りの話が本格化したのでそれも良かったと思う。実に。


 *


 そして今日、自分はその大役を任されたのだ!

 これはもう自分とピーターの信☆頼☆関☆係の証明ではないだろうか!?


「サツキさん、絶対に突出し過ぎないでね?」

「もちっ!」

「絶っっっ対にっ! 無理しないようにね?」

「分かっている、分かっている。心配性だなぁ、ピーターは」


 もしやあんまり信頼されてない?

 いつもお前の護衛役ばかり任されていたがこれでも騎兵を扱わせると家中でも五指に入るぐらい強いのだぞ?

 えっへん、なんて胸を張ろうとしたら肩を掴まれた。


「心配なんだ、僕は貴方を失いたくない」


 ………………。


「……………はい」


 良いと思う。実に……実に……。


 *


 というわけで、デデドン!

 釣り野伏においての釣り役として帝国軍の横っ腹を蹴りつけ、撤退する振りをしながら所定の位置まで敵を誘導する役割を負っていたはずなのだが、途中で何やら気概のある王国兵? を見掛けたのでちょっと寄り道というか……予定にない相手にもちょっかい出してしまったというか……


「深入りし過ぎたぁああああああああああああああ!!!」


 敵本陣なう。てへっ!


『だから言ったじゃん! だから言ったじゃん! もーだから前に出したくなかったのにー!』


 っていうピーターの声が聞こえるようだ。


「ご、ご老公! は、早く、早く馬に乗って!」


 と、とにかくこの騎士のご老公をお助けせねば!

 おそらくこの方がピーターの言っていた騎士団長殿に違いない。


「うっ……うぅ……」

「起きてご老公! 頼むー! 自分がピーターに怒られてしまう!」

「……………」


 あ、無理だ、気絶した。


「お嬢! 敵が! 敵がー!」

「あーーー! あーーー! あーーー!」

「お嬢落ち着いてー! 若大将に嫌われちまいますよ!」

「馬鹿お前! 今そんなこと言ったら──」

「しまっ──」


 ピーターに、嫌われる……?

 き、きらわ……


「やだぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「だっ大丈夫ですよ、お嬢! ここでこの人たちを助ければ怪我の功名ってやつです! 全然挽回可能っすよ!」

「ほ、ほんとぉ……?」

「本当です! むしろ惚れ直すレベルです! ですから泣き止んでください! ここの方々は俺たちが運ぶんで早く馬に乗って! 逃げますよ!」

「うん……」


 それからは酷い有様だった。


「敵が来るぞぉおおおお!!!」

「た、退却ぅーーーーーーーーーーー!!!」

「突撃ぃいいいいいいいいいいい!!!!」

「了解!」「了解!」「了解!」

「急げぇーーーーーーーー!!!」

「脱出せよぉ!」

「衛生兵ーーー!」

「大和魂を見せてやれ!」

「俺は攻撃を行う!」「俺は殿を行う!」

「お陀仏だなぁ!!!」

「すごい」

「みなごろしだぁあああああああああ!」

「駄目だ!」

「オイを止めてみろぉ!」

「てめぇは寝てろぉおおおお!!!」

「「「ばんざぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」


・夜の湖に浮かぶ月のように繊細な物語を書いてみたいですな。

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