今ここにいる人たちの話 3
ニンジャ占い
下の選択肢から一つ選んでね。
結果はあとがきで。
・赤兎馬
・絶影
・的盧
船に乗り、船で酔い、命からがら妹から手紙で指定された港町に到着すると、そこは戦場に近いこともあってか住民の避難は済んでいるようでもぬけの殻だった。
待っていたのはアブソルート家の制服を着た数人の侍女。
ほとんど面識は無かったが一人だけ名前を知っていた。
「お待ちしておりました、ピーター様。……そして、このような形ではありますが、お帰りなさいませ」
「はい、ただいま。久し振りだね、リー」
サクラの侍女筆頭であるリーだ。
船酔いで死にかけた僕に負けず劣らず顔色が良くないように見える。
それだけで、今の状況の過酷さが理解できるというモノだ。
「はい、お久しぶりです。そして申し訳ございません、ここまで早くお着きになるとは思いも寄らず……お迎えの準備もままならぬ状況でして……」
「大丈夫だよ。シマヅ家の人はそんなことで怒る人達じゃないし、事情だって理解してる。それに僕は家族を助けに来たんだ。無理はしないで任せてほしい。寝てないんでしょ? 目の隈が酷いよ」
「……っ!? し、失礼いたしました!」
軽いお色直しに下がったリーの代わりに、ハジメという特徴的な語尾の侍女にざっくりとした戦況の報告を受けるが、中々以上に芳しくなかった。
ハンスとルドルフ、どちらも少ない手勢で二万の兵を相手にしているのだから当然と言えば当然なのだけど、これはもう限界が近い。
特にハンスの方が良くない。平地でロクな防衛設備もない状況で戦線を未だに保っているのは奇跡みたいなものだ。これができるのはハンスぐらいだろう
とは言え無理をするなと言った手前あれだけど、この状況で無理をするなと言うのも無理がある。
正直、耐えろとしか言えない。
う~ん、歯痒い。
「ピーター! 全員下船して整列し終えたぞー!」
と、そんな時こんな報告が。
一々行動が速いんだよねシマヅ兵は。
「じゃあ早速動きましょうかね」
「え、もうでござるか!? 船旅を終えたばかりでござろう!?」
「皇国は島国だからね、僕たちよりは船に慣れてるし狭い船内で窮屈だったろうから早めに暴れさせてあげないと怒られちゃうんだ」
「そ、そうでござりますか……」
あ、めっちゃ引いてる。
わかるよ、それ。
「あ、そうそう、頼んでおいた馬は揃えられたかな?」
馬は海上輸送に向かないから皇国から連れてきてはいないけど、サツキさんは騎兵の扱いが凄い上手なので小舟を飛ばしてその旨を伝えていた。
まあこの急場では用意できなくても仕方ないけど。
「ご要望の数には届きませんだが、かき集めてかき集めて二百頭ばかり、待機させておりまする」
「いや十分、むしろそんなに集められたなんて驚きだよ。どこから引っ張ってきたの?」
余剰なんてそうそうあるものではなさそうなのに。
「実は昨日の時点で数十頭ほどしか揃えられていなかったのでござるが、無いものは仕方ないので帝国からぱちってきたのでござる!」
「……………ん?」
今何か不穏な言葉が……。
聞き間違いかな。
「足りない物資は敵から盗めと教わったので、ちょっと夜襲を仕掛けてきましたでござる! さっき!」
聞き間違いじゃなかった。
「さっき?」
「さっきでござる!」
「何人で?」
「九人でござる!」
「何頭盗んできたの?」
「百五十頭ほどでありますかなぁ……? オススメは赤い毛色のと、影のように黒いのと、額に白い模様がある馬でござる! おそらく大将級が乗る名馬かと!」
「……………」
そうなんだよなぁ……。
うちの人間も大概意味わかんないんだよなぁ……。
いやぁ懐かしい……。
「誰に教わったの?」
「もちろんお嬢様でござる!」
あらやだ良い笑顔。
知ってた。
忍び込んでー、火を点けてー、混乱してる隙に盗みましたー、とか簡単に言うもんねあの妹。そうかー、前はリーともう一人ぐらいだったけど侍女全員このレベルか―。
お兄ちゃん怖いなー。
「ピーーーーターーーー! どの子が良いと思うーーーーー!?」
「赤いのが良いと思いまーーーす!」
一日に千里を走りそうで良いと思います。
***
という訳で軍議。参加者は僕とサツキさんとリーと、部隊長の面々。
シマヅ軍は現在騎兵・長槍兵・弓兵・鉄砲兵を基幹に構成されている。
タカヒサさんが貴重な鉄砲を五百丁も貸してくれたのでとても助かっている。確かこっちにはまだ普及してないんだよね、鉄砲。
この差はでかい。
次に簡単に位置関係を把握しとくと、ここが東だとすると陽平関が北、アブソルート侯爵家の屋敷とハンスの騎士団が南で、西にルドルフが守る剣閣があって、帝国軍は中央を拠点として西と南に大規模な攻勢を仕掛けている状況となる。
しかし地図を見るにこれは……
「いや清々しいほどに横っ腹ががら空きで痛快だね」
「帝国軍もさすがに海から増援が来るとは考えていないようですから」
「奇襲だ! 奇襲をしよう! 自分が突っ込んでバーンとやって大勝利だ!」
「いやまあ『バーンとやって』のところをちゃんと詰められるならそれでも良いんですけど」
「わかんない!」
「じゃあお口チャックでお願いします」
「……………」
「……素直な方ですね」
「こういうとこサクラと気が合うと思うんだけどねー」
「あ、わかります!」
なんて会話をしつつも軍議は進んでいった……
というかシマヅの人たち「吶喊!」としか言わないので僕が作戦を考えつつ、それを噛み砕いて説明するといういつもの流れだった。
悲しいね。せめて一人ぐらい事務系の部下が欲しい。
「突撃!」
「吶喊!」
「チェスト―!」
いや、うん、突撃だけでも勝てはすると思うんだけど。
足りないんだよね。
時間が、そして打撃力が。
勝ち方にも格というものがある。
いま必要なのは熱闘ではなく圧勝。
一撃で敵を瓦解させる必勝の策。
ではどうするか、せっかく大量の鉄砲があるんだ。
これを有効に使わない手はない。
ならば──
「みんな、釣りをしようじゃないか」
・一位は赤兎馬を選んだ貴方。声が緑川になるでしょう。
・二位は絶影を選んだ貴方。女難の危機かもしれません。どっかのちびは捨て置いて、名前に馬が付く人と一緒に△ボタンを連打しましょう。
・ごめんなさ~い、最下位は的盧を選んだ貴方。蜀が滅んだ責任の二割は貴方だと思います。




