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今ここにいる人たちの話 2

・就活なんて無かった。

 前回までのあらすじ。

 襲来! 妖怪・首置いてけ!


 ***


 お久しぶりです、ご無沙汰してます、ピーターです。

 そんなわけでこんなわけです。

 え? あらすじが端折り過ぎて意味分からないって?


 OKじゃあもう一度だけ説明するね!

 僕の名前はピーター・アブソルート!

 今まで二年間、シマヅ家にたった一人の留学生だ。

 あとはもう知ってるだろ?


「──って知ってるはずないですよね? 僕今まで空気だったのに……ねーサツキさーん! これ台本合ってるのー? ……え、合ってる? そのまま読め? あ、はい……」


 ……もとい。

 なぜか軍師にさせられて、国の戦略を託された。

 そして兵を指揮し、戦い、勝利し、敗北し、恋に落ち、婚約し、また血反吐を吐くぐらい戦って、戦い続け──そしてなんだかんだ半年が過ぎた頃、敵の将軍が雷に打たれて死んだ。




 …………なんで?




「というかまだ婚約はしてなっ────まだっ! まだってだけだから! 違う違う! 婚約しないって言ってるわけじゃないってサツキさん! あ、待って、お願い泣かないで、ちょ、待っ────!?」




『少々お待ちください』




 ***




 ……続けます。

 二か月前シマヅ家のライバルであったオウトモ家の大黒柱であった「アキトゥーラ」が雷に打たれて死亡した後、オウトモ家は瓦解。

 戦線は膠着を脱しシマヅ家は連戦連勝、領土を大きく拡大し皇国の主要四島の一つ「ココノエ」をほぼ占有するような形となった。

 ほぼというのは、オウトモ家最終防衛ラインであるダーザイ―フにて名将「ジョン・ウー」が戦神のような活躍を見せ孤軍奮闘、シマヅ家の侵攻を今なお押し止めているからだ。

 正直、城を枕にするような死兵をまともに相手するのも馬鹿らしいんで城を包囲し降伏勧告をしつつ兵糧攻めをしているのが現状。

 僕はもう現場にいても役に立たないので後のことはサツキさんのお父さんであるイエヒササンに任せてスアツマに帰ってきたのが一週間前のことになる。


 そうしてスアツマの屋敷に帰ってきた僕を待っていたのは一通の手紙。

 僕が帰る二日前に届いたというその手紙を、なぜか僕より先にサツキさんが読んでいた。

 その次にシマヅ家当主のタカヒサさん、次のそのご子息のヨシヒサさん、ヨシヒロさん、トシヒサさん、……などなど計十人ほどをはしごしており、僕の手に渡ってきた時にはすっかりとしわくちゃになってた。

 プライバシーとかないのかな。

 ないんだろうな。

 知ってた。




 それはともかく。

 問題なのは手紙の内容だ。

 送り主は実家の妹、中身は一枚の便箋と数十枚に及ぶ資料の束だった。

 いつもは生真面目に書いてある時候の挨拶も抜きに始まったそれは王国の、つまり我が家の対帝国の戦争の開始を僕に告げた。

 そして、現在の戦況が大きく不利にあるということも。


 手紙の筆跡は荒く、つづりの間違いも多かった。

 急いで書いたのが丸分かりだ。相当、焦っていたのだろう。

 あの妹が、僕なんかに助けを求めるほどに追い詰められている。

 そう考えると、自然と体が震えていた。

 だがそれを、拳を握り締め無理やり抑え込んだ。


 今はうだうだとネガティブな思考に囚われている暇はない。

 サクラからの手紙、それが意味するところは『どうにかシマヅ家を説得して援軍を寄越してほしい』ということである。


 故にこそ、アブソルート侯爵家の命運は僕の弁舌に懸かっているのだ。

 おそらく先に手紙を読んだタカヒサさんもそれを理解しているだろう。


 アブソルート侯爵家とシマヅ家の関係は良好ではあるが、付き合いはまだまだ浅く現状は交易相手の一人でしかない。

 自国が戦争中だと言うのに他国の、しかも海向こうの土地の諍い事に首を突っ込むとなると、それ相応の理由が必要になる。

 デメリットを超えるメリットを提示しなければならない。

 義理人情で動けるほど国主の責任は軽くはないのだ。




 ──なんて、そう思っていた時期が僕にもありました。

 意を決してタカヒサ殿への面会を申し出た僕を待っていたのは──


「みんなー! アブソルートに行きたいかーっ!!」

「「「応ともよぅ!!!」」」

「どんなことをしても、アブソルートに行きたいか―っ!!」

「「「あったりめぇよぅ!!!」」」

「死ぬのは怖くないか―っ!!」

「「「バッチコーイ!!!」」」


 ──なんかこんな感じの決起集会でした。

 壇上に立っているのはサツキさん、タカヒサさん、ヨシヒサさんにヨシヒロさん。

 僕、一切相談されてないんですけど。


「義を見てせざるは勇有らざれば! いざや、いざ、いざ大戦!」

「弓持て槍持て舟に乗れ! 華の祭りはシマヅを通せ!」

「勝てば天国、負ければ極楽! 知力・体力・時の運! 早く来い来い法螺の音!」

「これぞシマヅのお家芸! 黄泉路駆けぬは恥と知れ!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」」」


 叫ぶ軍兵。響く太鼓に、轟く法螺貝。

 ……ウォーモンガー怖い。


「テンション上げて行くぞーーーーーーーー!!!」

「「「いよっっっしゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」」」


 ……なぁにこれ?


「皆の者ぉ! 陣触れじゃあああああああああああああああああ!!!」


 陣触れだった。

 僕の弁舌とは何だったのか。




 ***




 後からタカヒサさんに聞くと、僕サツキさんの本格的な婚約のために近々アブソルート侯爵家に挨拶に行こうと思っていたところ対帝国戦が発生。

 曰く、

『大事な交易相手であり未来の家族でもあるアブソルート侯爵家を助けるのはスアツマ隼人として当然のことである』

『それはそれとしてここで援軍を送ればアブソルート侯爵家だけでなく、王国全体に恩を売ることにも繋がるだろう。今後の領地の発展を鑑みるにそれはとても魅力的だ』

『加えてこの貸しのおかげでピーターを我がシマヅに婿入りさせる方向で話を進めやすかろう、ぶっちゃけここが一番大事』

『あと結納品なんにしよっかなーって思ってたけど、あっ兵隊とかで良いんじゃねって?』

 とのこと。


 結納品(武力)、とは。

 いや確かに特産品だけども。

 戦闘民族らしい発想と言えるだろう。




 ***




 結局、前々からアブソルート侯爵家騎士団との演習を予定して準備していたサツキさんの手勢三千を率い、先鋒として僕はその日のうちに船に乗り大陸へと渡った。


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