今ここにいる人たちの話 1
・短いです
前回までのあらすじ。
宰相をボコった。簀巻きにした。勝った。
簀巻きにした後もピーピーうるさかったので頭を蹴り飛ばしたら静かになりました。
友達はボール。
「く、そ、が……」
あ、生きてた。
「いえーい! 完全勝利! ぶい!」
ということで煽りましょう。うぇーい。
「~~~~~~!!!」
宰相さんお顔真っ赤です。
お猿さんみたい。
まあいくら泣こうが叫ぼうが誰も助けには来ないんですけどね。今続々と正規兵さんが入城していますので。
(しかしまあ、手酷くやられましたねぇ……)
煽ってはみたものの客観的に見ればこちらの大失態も良いところ。
王城が一時的にとはいえ落とされたのはカリスマ一本で国をまとめていた陛下の今後の国家運営にかなりの悪影響を及ぼすでしょう。宰相という右腕も失った訳ですし。
これからの政治は大変ですねー。
まあ今は国が残るか滅びるかの瀬戸際なんですけどね!
大ピンチ!
噂によると西方も結構混乱中とか!
さあ、どうしましょう?
「とりあえず早く軍を再編して剣閣に向かわないといけませんね。さっそく陛下──って無理ですかそうですか」
陛下はあれですね。指揮とかできる状況じゃないですね。
さっき蹴っちゃったからなぁ……邪魔だったから、つい。
「兄上兄上、いま王都で陛下と宰相の次に偉いのって誰ですか?」
「……文官統制は機能停止中だ。陛下はすぐに医者に見せる必要があるとして、外で軍を指揮しているマンネルヘイム元帥になるな」
「ではとりあえず書類だけでも……いやもう印籠的な何かで代用しましょうか。面倒なことはあとで頭の良い人に考えてもらいます」
だって国の失態ですしね!
そのツケを払ってるのはウチの領地ですもん!
ということでぐったりしている陛下から胸元のペンダントを拝借。
誰も見てないからやりたい放題。
「ということで御屋形様、パスです」
「え? ワシ?」
「戦場は我らが領地です、元帥閣下と今後について早急にお話する必要があります」
「そうだよねぇ……元帥かぁ、あの人怖いんだよね」
「俺も一緒に行きます。急ぎましょう、時間がありません。剣閣が落ちたら国が終わる」
王都は貧弱ですから、首都決戦なんてしたら五秒で敗北しちゃいます。
剣閣から王都までいくつか関や砦はありますが、剣閣以下の防衛能力しかありません。
というかアブソルートが負けた時点で負け確ですよ。
ダッシュですダッシュ。Bダッシュ。ちょっと速過ぎるぐらいがちょうど良いのです。
兵は拙速を尊びます。分厚い盾より速い脚です。
「……もう、遅い……」
「はい?」
負け犬さんがなにか言ってますね。
「私を倒したところで意味は無い。全てが遅いのだ」
第二第三の宰相でも出てくるんですかね。
「陽平関は落ち、東部方面軍は瓦解。リットンとナイトレイは帝国に寝返った。貴様らご自慢の騎士団でも帝国軍全てを相手にするには手が足りん。どう足掻いたところで数の暴力には勝てない……!」
「……ふむ」
「剣閣は落ちる。今から軍を差し向けたところで到底間に合わん。お前たちは、必然の破綻を少しばかし先延ばしにしたに過ぎない……!」
なんとなく勝ち誇った笑みをされても簀巻きの状態だと締まりませんよねっていう。
まあ、言ってること自体は間違っていませんけどね。確かに論理的に考えて剣閣は落ちます。もしかしたらもう落ちてるなんてこともあるかもしれません。
ルドルフがどれだけ頑張ろうとも無理なものは無理。
ですがそれは、王都で知り得る情報のみで判断した場合の話です。
「ふふっ、宰相殿はどうやら物覚えが悪いらしい……」
「……なんだと?」
「何度も繰り返すようで気が引けますが、もう一度言いましょう。私の家族はちょっとすごいのです」
「戯言を! 戦争は数だ! 貴様の兄や騎士団がどれほど強かろうが、個人の武勇で左右されるほど甘くはない!」
いやハンスの場合は結構左右されたりするんですけどね。
もとい、いまはそういう話をしているのではありません。
「おや、ご存知ない? 宰相殿ともあろう御方が詰めの甘いことで……」
「……何を言っている?」
「本当に知らないのですか? 我が家の三男坊が、どこにいるのかを」
***
少し前。何処かの海上。
「お義父様! 息子さんを自分にください!」
「……なにやってるんですか?」
「お前のご両親にご挨拶する時の練習だ」
「いま?????」
・さいとーじょー