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忍法・蜘蛛糸

・ブロッケンは関係ないよ。

 後になって国の上層部が腐敗していたのを知った。

 神の名を騙り信仰の証と称して各地から金を巻き上げ、精神が疲弊している人間に付け込み散々に利用していたことも。

 それがあの男の心を壊す原因となり、結局あの戦争は自業自得でしかなかったことも。

 今となっては、全部知っている。


 ……それでも、実際に殺された彼らはただ純粋に、神を信じていただけだったのに。



 ***



「王国に全て奪われた! 家族を、友を、神を、全て喪った! だから奪うのだ! だから殺すのだ! 貴様ら王国のクソ共に我らと同じ煉獄を味あわせる、それの何が悪い!?」

「なにも悪くはないさ。貴様には復讐をする権利がある。だが同時に私たちにそれを甘んじて受け入れるだけの義理も義務もないだけだ」


 この件は王国の招いたもの、自業自得でありましょうや。

 ですが、親の借金を子が支払う必要はないのです。

 それに……それに!


「そっちだって、父上がどれほど苦しんでいたか何も知らないくせに! 祖父を殺すことがどれだけの重い決断だったかを! 敵からも味方からも自らの民にさえ疎まれるあの地獄を知らないくせに!」

「地獄? 地獄と言ったか? 温かい食事と柔らかなベッド、最愛の家族に囲まれて、励ましの言葉を受けながら! 戦場から遠く、平和な場所で、恵まれた環境で! 一人部屋の隅で膝を抱えてうじうじといじけていただけの人間が! 地獄を、語るなぁあああ!!!!」


 宰相が叫びます。


「殺すならさっさと殺せば良かったのだ! それでどれだけの人間が救われたと思っている!? お前の父は苦悩の末にお前の祖父を殺したのではない! それしか選択肢が無くなったから殺したのだ! 決断を恐れ、逃げ続け、最悪の事態になってからようやくそれしか道がないことに気づいた……最悪の無能だっ!!!」

「そんなん悩むに決まってるでしょうがー!!!! はぁーーーー!? これだから有能は性質が悪いんです! 自分ができることは他人にもできて当然と考えやがります!!! 父を殺す決断がそう簡単にできてたまりますかこのアホ! ちったぁ常識で考えてください!」

「黙れ黙れ黙れぇ!!! それが貴族だ! 貴族の役目とはそういうモノだ!!! 無辜の民の命をいたずらに犠牲にした無能を無能と言って何が悪い!? いつもそうだ! 貴様らの無能のツケを払うのは全て民草! 無能こそ罪であると自覚しろ! なにが地獄だ……笑わせるな!!!」

「言葉が通じませんね! 貴族だって人間なんです辛いんですそれの何が悪いんですか!? 不幸でマウント取って楽しいですかあなた!? あなたも辛かった、父上も辛かった! そこになんの違いもありはしないでしょうが!」

「違うのだ!!!!!」


 あ、ちょっと待ってくださいそれ私の台詞の気がします!

 いや自分でも何言ってるか分かんないですけど!


「あの戦場を知らぬ人間にはわからぬ世界があるのだ。戦争で多くの隣人が死に、敗北した後も蹂躙は続いたあの場所を! 人権を奪われ、食う物にも寝る場所にも事欠いた我々の痛みを! 私は! 家族がどこで死んだかも知らんのだ……!」

「……平行線ですね。あなたも同情が欲しいわけではないのでしょう。私たちもはいそうですかと滅びる訳にはいかない」


 相互理解は不能。そして不要。


「降伏しろとは言いません、死罪は確定ですしね。思う存分悪足掻きをなさって結構です」


 残数5。人質は無し。趨勢は決しています。

 情状酌量の余地はありますが死刑執行の方法を変える程度でしかありません。


「せめて……貴様だけでも……! 殺せ!」


 突撃してくる四人の兵士。自暴自棄、やけっぱち、死兵は怖いものですがこうも無策では。


「……宰相といえども、追い詰められれば突貫しかできんか」


 私は右手を高く掲げます。それだけで敵の動きが止まる。


「なっ!?」

「体が……!」

「動かない……」


 苦悶の呻き上げる兵士の体勢は時を止めたように歪な形。

 振り上げた剣、突き穿つ槍、それは私には届かない。


「忍法・蜘蛛糸風鈴」


 なにも適当に室内を走り回っていた訳ではありません。

 入室からここまで柱などに絡ませながら特製の糸を張り巡らしていました、いや中々に複雑で頭がこんがらがりそうになりましたがなんとか成功。

 蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶々よろしく捕縛。

 引っ張るとこう、ぎゅってなります。


 まあ普通に倒しても良かったんですがなんかつまんないので。

 あとは──


「サクラ!」


 後ろから兄上の声が聞こえます、同時に私が影に覆われる。


「やってしまえ! コチ!」

「ふんがぁああああああああ!」


 丈夫ですね、本当。

 さすがにウィル兄に勝っただけはあります。まあ完全にバーサーク状態ですけど。


「大丈夫ですよ、兄上。……忍法・蜘蛛糸縛り」


 ──これの相手をもう一回するのが面倒だから、糸を使うんです。

 首と胴に糸を巻いておきましたのでこれを引っ張ると、締まる。


「ふがっ!?」

「さようなら」


 キュッ


・忍法使えないと言ったな、あれは嘘だ。

・ニンジャの発言は九割嘘。

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