相互理解は不可能
一つ誤解の無きよう言わせてもらうと宰相の手勢が「弱い」ということはないのです。
復讐に十年費やしてきたような連中だからか、そこいらの兵士とは気迫が違う。
そもそも王城勤めの時点でエリート、その実力は推して知るべし。
まあつまり私が「超強い」ということはお忘れなきよう。正面戦闘でもニンジャは最強だってばよ。にんにん。
しかし残念なことに兄上は私に比べると弱い。生粋の武闘派ではないのだから仕方のないことではあるのですがやっぱり弱っちいのです。
とても本職五人を相手取れるほどの実力はありません。
何でもできるがゆえに何もできない。……万能とはそういった悲しい生き物の名前なのでありまする。
ロイドさんも上に同じ。
ヘイリーもまだ厳しいでしょう。基本的に隠密ですし。
トーマスはギリギリ勝てますかね。むしろここで勝てない騎士に用はありません。
総括すると4対20で勝てるほど現実は甘くありません。
ですが、そう悪くもありません。
ニンジャの本領は敵の心を惑わすこと。
不意打ちからの乱戦だと騙しやすくて楽です。
「………!(昇竜拳!)」
「ぐはぁ!?」
一応「大丈夫かな~?」と兄上たちの方を振り返ってみると、そこにはちょうど最後の一人を殴り飛ばすヘイリーの姿が。
地面には既に打ちのめされた二十人が転がっています。
「あ~しんど……」
「これは……中々に応えるな……」
疲労からドカッと座り込む二匹の悲しい生き物。
「…………」
そしてうつぶせのまま動かないトーマス。
……大丈夫、呼吸はしてる、ノープロブレム。字余り。
これはもはや完勝と言っても差し支えないのではないでしょうか。あとは消化試合ですし、宰相さんは顔を赤くしたり青くしたりと大忙しです。
「なっ! 馬鹿な! 二十人の精鋭がたった四人に……!? こんなことがあ──」
苛立ちのままに叫ぼうとした宰相が絶句して目を見開きます。
視線の先、広間の扉から悠々と入ってくるのは小柄な二人の少年。
口笛をピーピー吹きながら、片手で吹矢の筒をくるくると回しています。
「いやぁ……どいつもこいつも気づかんもんやのぉ……」
「お疲れ様ですリキッド、割と優秀なんですね」
「なんちゃあないさ、これでも帝国じゃかなりの腕利きでやったけんな」
けらけらと笑うのはリキッド・オブライエンくんです。グレイゴースト(笑)の元四天王。
まあ最初から私たちは六人だったってだけの話なんですよね、天井裏からこそっと毒針飛ばしてもらうだけのお仕事ですが乱戦の中後方の敵から落としていけば案外バレないものです。
なんか他所では親子の感動の再会的なサムシングが行われていますが興味ないのでカット。ああでも、そういうの縁がないんですよね。ちょっぴり寂しかったりするのです。
なんてことはもとい。
「お手伝いは要るんかね、お嬢様?」
「要るとでも?」
両手を広げて肩を竦める。
宰相をクッキングするお時間です。
***
「貴様は! 貴様の父が、そこの男が、王国が! 我々に何をしたのか知っているのか!?」
「さて、その頃の私は三歳だからな。寡聞にして聞き及んでいないな」
「お前のような十三歳がいるかっ!!!」
いるんだからしょうがないじゃん、ねぇ?
──などと言いましたが私とて宰相の事情は知っています。
彼らがどんな仕打ちを受けたか、それが筆舌に尽くしがたいことも十二分に理解しているつもりです。
父上が祖父を殺したという噂も、もちろん知っていますとも。
話してくれないのには事情があるのでしょうから黙っていましたけど。
そして、そのうえで私は言いましょう──
宰相の気持ちはわかりません。父上の気持ちもわかりません。
父が罪人?
宰相が被害者?
ああ、それはきっと痛ましいことで軽々しく同情すべきとことではない。
父上がずっと苦悩しているように、侯爵家にとって永遠消えぬ十字架となるのでしょう
ですが、それに関連して自身の生に疑問を覚えるほど私の自己肯定感は低くない。
私はアブソルート侯爵家の長女で、それ以上でもそれ以下でもない。
贖罪の機会があるのならすべきでしょう。
ですが私の役目は二度と同じことが起きないように努めることであり、さらに重要なのは侯爵家の領民の命です。
つまりは、
──貴様の事情など知ったことではない。
「せめてもの情けだ、私は素手でやろう。加減は要らぬ、小細工もせぬ、全てを使い全霊で殺しに来い。精々、後悔の無きように……」
・ぶっちゃけ就活忙しいので更新遅いの許してくだされ。




