忍法・影縫いの術
・当作品では忍術と忍法をなんとなく区別しています。
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。SNSです。青い鳥は関係ない。
というわけではい。開幕麻痺針首筋ぶっぱです。
とりあえず金的もしておきましょう。マーベラス・エクスプロイツ!
「~~~~!?」
一丁上がり。バルトロさんご退場です。
これで残りは29人、先ほど広間を出ていった男は大絶賛睡眠中ですのでノーカン。
とりあえず陛下も無事──無事?確保できたのであとは御屋形様と陛下を逃がせばオールオッケー。
問題はこの包囲網からどうやって逃げ出すかという話になるのですが……
まあ、はい、最終的に全員殺せばよいのですね。簡単。
そのためにはまず敵さんが現実を飲み込めずにいるうちにバルトロさんの剣をちょっと拝借し、トーマスにナイスパス。ヘイリーはどうせ暗器沢山隠し持ってるから平気。
そして陛下の拘束を解きます。チョキチョキって。
すると、ちらほらと冷静になる人間が出てきます。
「なにをしている! 早くそいつを殺せ!」
やっぱり宰相ですか、頭の回転のお速いことで。
命令を受けて槍を持った兵士が三人ほど突進してきます。
なので、蹴る。
……陛下を。
「ごはっ!?」
シューッ! エキサイティン!
邪魔なので御屋形様の方に蹴り飛ばします。痛くても我慢してほしい、正直これ陛下が招いたミスなので。
百人未満の兵士にお城を乗っ取られるとかどっかのマムシもびっくり。
それはそうと、またみんな面喰ってしまい動きが一瞬止まるので、この隙に指示を。ロイドさん、トーマス、ヘイリー、そして兄上。
「方陣を組んで四人で御屋形様と陛下を守ってください。制圧ノルマは5人、残りは私が相手します。厳しくなったら言ってください、サポートしますので」
「「「任務了解!」」」
「……では、叩き潰せ!!!!」
掛け声と共に戦闘開始です。
仮面を脱ぎ捨てて奇襲をかける兄上とロイドさん、生粋の武闘派ではありませんが首席と次席らしいのでやってもらわなければ困ります。
トーマスとヘイリーは言わずもがな。
さて、乱戦と言うのはニンジャっぽさに欠けるので本意ではないのですが……。
贅沢も言ってられません。
精々翻弄して差し上げましょう。
***
「このガキっ!」
「ガキとはヒドイ」
まず私の相手は突進してきた槍兵3人です。ジェットストリームアタックとか言ってますけどなんのことやら。
先頭の兵士の突きを屈んで躱し懐に潜り込むと、顎に向かって右手で掌底。
「かっ……!?」
脳震盪でも起こしてくれたまえ。
次いで左手で兵士の股下から撒菱をスロー、二人目に踏ませます。
「痛っ!?」
痛いよね、わかる。私もこの前踏んだけど痛かった。
でも足を止めるのは下策。
「ちょいさぁ!」
一人目を二人目に向けて蹴り飛ばし、体勢を崩したところジャンプして二人目の顔面を踏み台にしてもう一度跳躍。
そして、そう、必殺技。
「ライダーキーック!」
「なんとぉ!?」
三人目の胴体を蹴り飛ばします。
……あんまりこれ威力高くないですね、倒せましたけど。まず上にふんわり跳んでる時点であれですし、やっぱり直線じゃないと。やはりフィクションはフィクション……!
しかしこれで3人。あとノルマまで6人。
ふぃー……なんて一息つこうとしたのも束の間。
「やれ! コチ!」
宰相の叫び声、後方に殺気。
「緊急回避!」
前方への脱出!
簡単に言えばダイブ!
「ふぅん!!!!」
気合の入った掛け声と共に私のミリ単位後方で鉄塊が振り下ろされます。
床が一瞬にして割れ、破片が周辺に飛び散ります。
ええい、後ろからとは卑怯な、正々堂々戦えー! 私はしないけどー!
「あっれー? 外しちまっただよ……」
「………………」
農村出身でかなりの力自慢だけどちょっとおつむが弱くて騙されやすいマスコット系キャラの臭いがします。
即座に立ち上がって振り返るとそこにはフルプレートの巨漢。
2mはゆうに超えてそうです。
「あなたがコチですか、つかぬ事をお聞きしますがなぜあなたはクーデターに参──」
「耳を貸すなコチ! そいつを叩き潰せ!」
「ぶもぉおおおおおおおおおおお!!!」
「……聞く耳持たずか」
残念、すっかり手懐けられているようで。
というか「ぶもー」って。牛ですか、ギュウキンに改名することをお勧めします。
「まあどちらにせよ国家反逆罪。理由はどうあれ王に刃を向けたのだ、馬鹿だろうが阿呆だろうがこれは忠誠心の問題、近衛とあろう者が騙される方が悪い。覚悟は良いか、鈍間」
「ぐらぇええええ!!!」
「力任せで技がない、当たらんよ」
ただ振り回されるだけの鉄の鎚。当たれば骨全部折れそう。通常攻撃が必殺技ってなにそれどんなチートですか。
いや当たればの話なんですけど。当たれば。
掻い潜るのは容易。
振り下ろされたそれを踏み台に比較的装甲の薄い首を狙って跳び後ろ回し蹴りを放つ。
「重っ!?」
え、岩?
全然びくともしないんですけど。衝撃全部跳ね返ってきたんですけど。
痛いし、足痺れる……。
「はっ! コチは近衛最強の男だぞ! 貴様のような小娘の惰弱な蹴りが効くものか!」
「おで、最強! 効かない!」
うわぁ……。
脳筋に拍車がかかってる……一人称「おで」って……。
しかしどうしましょうね、フルプレートだと刃が通りません。
関節部もしっかり補強されています。格闘術は体重差がモロに響きますし、なんとなく城攻めでもしてる気分です。
そもそもニンジャってああいうの相手にしないのがセオリーですし。
それにしても宰相うるさいですね。
「仕方ない……本気を出すか……」
「「っ!?」」
息を呑み焦りの表情を浮かべる二人。
よしよし驚くと良いです、とっておきを見せてあげましょう。
「臨」
独股印を結び、唱える。
そう、このあと「びょうとうしゃー」とか続くあれである。
九字護身法、長いのでスキップ。
「前」
最後に隠形印を結ぶ。
すかさず苦無を取り出し投げつける。標的はコチでも、やたらとうざい宰相でもない。
コチの落とす影だ。
暗い大地へと苦無が突き刺さる。
「なっ、なんだぁ!?」
「忍法・影縫いの術。影を地に縫い付けた、もはや貴様は指一本動かすことはできない」
これぞルクシア様が遺したアブソルート流忍術の秘奥。
九十九の忍法が一つ『影縫いの術』。効果は言った通り。
「なっ、なんだってぇ!?」
驚愕の声が上がる。
そうでしょう、そうでしょうとも。
そんな魔法みたいなことありえない、そう思うのも無理もないことです。
なにせ──
「嘘だ馬鹿」
──私、使えませんし。忍法。
「「なっ!?」」
「騙されやすくて大変結構……良い夢を」
無防備に空いた体。
狙うは一点、クローズドヘルムの細いスリット。
刃を通すのは難しい。けれど、粉末ならば。
倉庫で見つけた香辛料と人体に悪影響がありそうなものを適当に各種これでもかと混ぜて擦り潰した催涙弾の原料、を顔めがけてぶちまける。
「う──うがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるさっ……!?」
絶叫、轟音、慟哭。まあそんな類の何か。
自分でやっておいてなんだけど辛そう。確かフッ化なんとかも混ぜたかもしれない。
コチは苦痛に悶えながらヘルムを脱ごうとするが、もはや痛みで留め具の外し方すらわからないらしい。
そして数秒のたうちまわった後に動きを止めた。
気絶したみたい。
気絶かな?
気絶だよね?
気絶ということにしとこ。
どんまいコチ。
あなたのことは忘れません。
とりあえず反逆者として名は残ると思う。
いやーしかしあんな綺麗に騙されるとは。
たぶん東の空を指して「あっ!?」って言っても騙されたと思う。
まあニンジャの本分は相手の心をかき乱すことにありますから、派手な技とか要らんのですよ。忍法とか。
……忍法ね、使えませんよそんなの。影縫いとか魔法じゃないですかあんなの。
五遁の術ならいけますが他のはちょっとね。あ、でも最近空蝉の術の練習してるんですけどけっこう良い感じです。
「ばかな……コチがやられるなんて……あ、ありえない……」
良い汗かいたなーって思っていたら震えた声が耳に届きました。
宰相さんのです。
えーっと、今ので四人目だから……
宰相とその護衛四人でちょうどノルマ達成ですね。
しかしながら、宰相様はどうやらその現実が見えていないらしいです。
でも大丈夫。
「理想に酔っているのはどちらか教えてやろう。応報の時だ宰相、そこ、動くなよ」
・シュレディンガーのコチ
・えたらないのは嘘じゃないよ




